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テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第14話「ゲノムエディター」

「……?すみませんが、ニホンジンとは何ですか?」
 あの講義から数日が経ち、図書館でアクビをしながら本を読んでいた俺の眼の前にあの四人が現れた。
 彼等は何処かで俺の名前を聞き、もしかしたら俺も日本人なのでは?との疑問を抱いた様だ。
 まぁその疑問も分からなくもない。俺、偽名も使わずにそのまま日本人名を乗っているからな。
 然しながら、イカリ(五十里)という日本人でも聞き慣れないマイノリティな苗字と俺が銀髪に緑眼という日本人離れした見た目をしている事は知らなかったらしい。
「あの……ジュウゴさん、ですか?」
「……?はい。自分はジュウゴ・イカリですが?(Who are you?:ところで君達は?)」
 と、応えた俺を見た時の反応は明らかにマイナスだった。これで俺が黒髪・黒目であればプラスの反応を見せていたのだろうが、すまないなボーイズアンドガールズ。君達に忍ばせたナノコマのお陰で大体の事情は察している。だが、生憎と自分には君達を何とか出来るだけの手段が無いのだよ。
だからこそ「その名前、ジュウゴさんって日本人と関わりがあるんじゃ……?」という質問にはそう答えさせて貰った。
「あ……いえ、知らないのなら結構です。読書中にすみませんでした」
 明らかに当てが外れて、落ち込みながらぞろぞろと帰っていく四人。
 そして入れ替わりで一人の女の子が俺の前に座った。
「……何だったんですか、アレ」
「さあ?」
 この薄紫色の髪をした丸眼鏡っ子はビンカ・マートリー。この奇怪書ライブラリーに住む俺にしか見えない幽霊……
「何かまた失礼な事を考えてる気がします……」
 ……等ではなく。純粋にこのライブラリーを利用している学院の生徒だ。
 驚くべき事に、この子は魔法が全く使えないらしい。
 歴史ある魔術学院に入学しておいて、魔法が使えないとはどういう事なのだろう?と不思議には思っているが、事情は人それぞれあると思うので別に無理に聞こうともしていない。
 俺のそんな態度に興味を持ったのか、はたまたあまり人の来ないライブラリーに俺がいるのが珍しいのか最近では何かにつけてこうして近くに座る事が増えてきた。
 向こうがどう思っているかは知らないが、俺としては他愛ない世間話をしながら時には共にお菓子を摘み。本に集中している時はお互いに黙っているこの時間を悪くないと思っている。
「今日は『マグラ理論』ですか。そんなモノを読んでも魔法が使える様になる訳でもないのに、相変わらず他国の人は変なものに興味があるんですね」
 うるさいよ。これ、中々面白いじゃないか。
『詠唱とはあくまで外部の精霊へアクセスする為のパスを言語化して再確認しているだけの作業に過ぎない。つまり実際は詠唱を言葉にせずとも魔法は発動出来るという事だ』
 例えば、こんな風に無詠唱の事とか。
『魔法には自らの魔力により発動させるモノと外部の魔力を使い発動させるモノの二種類がある。魔法とは決して魔女の系譜だけのモノではない。この世界に存在する生物は皆すべからく魔法が使える筈なのだ』
 ほら、こんな事とかも書かれてるよ?
「それが証明出来ているのなら、その本は今ここにありません。『無詠唱』も『生物皆魔使用可理論』も机上の空論です」
 ……つまり、これも君は読了しているって事か。流石だね。まさに勤勉の雄だ。女子だけど。
「……貴方は気にならないんですか?魔法も使えない様な人間がこの学院にいるって事が」
 ふむ……
「確かに珍しい事だとは俺も思う。でも例え魔法を使えなくても、それをより知ろうと、深く理解しようとする事自体は何ら不思議には思わない」
 これは日本人(異世界人)の感覚だからかもしれないが、仕組みも知らずに物を使うなんて当たり前の事で。逆に仕組みを理解していたとしてもそれを使うかどうかは別の話、という例を多く知っているからだろう。
この国、というかこの学院に来てまだ日は浅いが。特に魔法が使えなくてもどうとでもなるカリキュラムは組まれている。中学・高校というよりは大学に近い選択制の授業構成だ。
 勿論、魔法技能を伸ばしたい子の方が大多数を占めているのでこの子みたいな生徒は必然的にマイノリティとなってしまうのだろうが、個人的には別に気にしなくてもいいとは思うのだが……いや、それは傍観者だから言える意見か。
「…………」
 この子が欲しいのはそんな言葉じゃ無いんだろうな。俺(自分)みたいに何か別の『強さ(チート)』があればまた違うんだろうけど……ん?そうか。『魔法が全く使えない人間がいるのなら、魔法を使える人間と遺伝子レベルで比較をすれば良いのではないか?』
 ふと、そんな悪魔的な考えを思いついてしまった。幸いな事に物凄く魔法が得意な奴のデータはこの世界に来た時に入手出来ている。元神族のデータだが、別に問題はないだろう。
「……何か凄く悪い事を思いついたかの様な顔をしていますが?」
 中々に勘の鋭い女の子でありんす事。
「例えばの話だけど、君は魔法が使える様になるのであれば『何でも』する覚悟があるかい?」
「何でも……?」
 あれ?何故か俺を見る目がジトッとした目に変わってる?
「……最低ですね。言っておきますがそれに書かれてる『姦通信仰』は全くのデマですよ?それとも外の事を知らない私みたいな女なら騙せばすぐに抱けるとでも?」
 え?あ!違う、違う!
 言いたかったのはそう言う事じゃなくて、つかそんな事も書かれてんのかよコレ!流石奇書の1冊なだけあるな。想像の斜め上をいくセオリーが詰め込まれてやがる。
「断じてその様な意図はございませんです、姫」
「では、どういう意味で『何でも』と仰ったのでしょうか?」
 ああ、ここ数日で近づきつつあった距離感がどんどん離れていく感じがするよ。
「説明は難しいのですが、私の能力ちからで貴方様を診ればもしかしたら魔法の使えない原因が分かるかもしれないと思ったまでです。何分特殊な力なだけに絶対に他言無用と言う意味で『何でも』と言う言葉を使わせて頂きました次第です」
「そこに性的な意図は無く?」
「あろう筈がありません」
「……」
「……」
「……いいでしょう。他言無用と言うのであれば私としては精霊に誓っても構わないです。私自身では魔法が使えないので第三者の立ち会いが必要になりますけど」
 ……どうしますか?と彼女は言った。
 つまり、誓約魔法みたいなものがあるのか。それはそれで見てみたいが……
「別に口頭でも構わないよ?診た所で原因が分かるかどうかも怪しいし」
 言わば実験でもある。
 安全は保証するけど、成果が得られるとは限らないからね。
「でも、それじゃあ……」
 私が喋るかもしれないですよ?ってか?
 ん~、正直に言うと別にバレてもそんなに困りはしないんだけど。騒ぎになるのも避けたいのは確かだ。
「あはははは。大丈夫、大丈夫」
 その時は(知った奴全員を)皆殺しにすればいいだけだから。(なんてね)。
「そ、そうですか。他国の人は随分と恐ろしい考え方をするんですね。この場で精霊に誓えない身ではありますが、絶対に他言はしないと口頭で誓わさせて頂きますです。はい」
 ……やっちまったぜ。この世には言っていい冗談と悪い冗談があるが、後者を選択してしまった様だ。今度は違った意味でビンカちゃんがガクブルしている。コミュニケーション能力が低い大人で本当にすまない。
「それで……私はどうすればいいんですか?」
 診るって事は脱……
「がなくていいから!」
 だからそのボタンから手を離すんだ。
 さっきまで抱く抱かないでジト目をしてた子がそんな簡単に脱ごうとしないでくれ。
「そのままの状態でいいから。ジッとしてて」
「了解です」
 ふぅ……危ない、危ない。社会的に死んでしまう所だった。見かけによらず思い切りが良すぎるぞ、この子。
 うん……じゃあ診察しましょうかね。
「(ナノコマ~)」
「(はい、はい~。何でしょうマスター?)」
「(この子に同期してDNAデータを俺に送信してくれ)」
「(直接触れて高次スキャンすれば良いのでは?)」
「(そうしたいのは山々だが。この流れで彼女に触れるのは違う気がするから却下)」
「(人って面倒くさいんですね)」
「(……否定はしない)」
「(じゃあちょっと行ってきますね。行くぞ~僕達!)」
「「「「(お~!)」」」」
 わらわら、わらわらと目に見えない極小の自立思考型機械がビンカの身体に群がっていく。
「?」
 大丈夫。群がるとはいってもすぐに細胞へと浸透してデータを送信する媒体になるから集合体恐怖症の様な絵面にはならない。
 触感すら感じさせないからビンカには何が起きているかも分からないだろう。
 彼女からしてみれば、俺が真剣に彼女の身体を診ているだけに見えている筈だ。
 送られてきたデータを俺は脳内にある謎領域にぶち込む。元とはいえ、向こうは神族(人の完全体)。100点の回答と照らし合わせれば自ずと結果は見えてくる筈。
「(暫定的な原因の特定に成功しました。この子には外部から取り込んだエネルギーを魔力に変換する遺伝子がありません)」
 BINGOほらね。謎領域さんは本当に頼りになる。
「(存在していて機能していないとかではなく、そもそも欠けていると?)」
「(肯定)」
 ああ、それはなんと残酷な結果だろうか。
 つまり彼女は努力では絶対にどうにもならない現実の下に努力を重ねていたという事だ。
「(データを元にナノコマを使ってノックイン(遺伝子の再現)する事は?)」
「(可能です)」
 Good(良し)。
「……あの?」
「うん。診るのは終わったよ」
「……」
「……」
「やっぱり、駄目なんでしょうか……?」
「いや、原因は一応分かったよ」
「え!?ほ、ホントですか!?」
「うん。けど、同時にただの魔法なんかじゃあどうにもならない事が判明した」
「あ……そ、そうですか。そう……ですよね。じゃ無ければ魔女なのに全く魔法が使えないなんてありえないですもんね……」
 まぁ、別に人間としては何ら問題はないんだけどね。先祖返りなのか何なのかは分からないけど、この子には魔女としての遺伝子が発現しなかったに過ぎない。言葉で説明出来ない事はもどかしいが、説明した所で混乱するだけだと思うのでやめておこう。
 あまりこの様な言い回しは騙してる様で好みじゃ無いが、言葉で説明出来ない以上は仕方ないよな。
「そうだね。だから、もう一度聞くよ?魔法を使える様になれるのなら『他言無用(俺の実験に付き合う事)』を誓えるかい?」
「え……?」

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