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テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第13話「バタフライエフェクト」

【イングランス】


「さて、実際に見てどうだった?」
 歴史あるグリアセルト魔術学院に於いては珍しく、臨時講師を招いて特別な講義を行ったその日。フィア・プラーラ学院長はジュウゴを約束していたライブラリーに案内した後、院内にある自室に卒院生を呼び出していた。
「や〜ばいっすね。最初、研究室ラボから無理矢理連れ出された時は本気で『恩返し』も考えましたけど、先生が言った通り確かに凄いものが見れたんで我慢しとくっす。いや〜、幾ら彼女達が子供とはいえブレス(精霊の祝福)まで使える『スピリッツ(エレメンツ候補生)』を文字通り子供扱いする奴がいるなんて信じられないっすよ。あんなの何処で見つけて来たんすか?」
 そこは『恩返し(報復)』を中止ではないのか?と思ったフィアであったが、目の前の魔法研究が大好きな元教え子を無理矢理ラボから連れ出したのは自分なのでツッコむのはやめておいた。
「マリンからの紹介だ。偶然……だとは思うが、どうだろうな」
「もしかして、いい歳こいてラプラスの精霊の悪戯(偶然を装った必然)でも疑ってるんすか?」
 ラプラスの精霊とは実在が確認されている四元素の大精霊と違い、その存在を示す根拠が何一つない説話の中の精霊である。
因果律というよく分からないものを司っているとされてはいるが、故に真偽を疑う者も少なくはない。
「どう思う?」
軽い意趣返しも込めて彼女は聞いたのだが、まさか学院の長でもある元恩師がそんな与太話を踏まえた冗談に乗ってくるとは思いもしなかったので少々面を食らっている様だ。
「ん〜、そうっすねぇ……でも確かに偶然にしては色々とタイミングが良すぎる気もしなくもないかも?」
だが、仮定を考慮するのは彼女の好む所でもある。
 存在の有無は別として、魔法の研究に携わっていると確かにそうとしか思えない様な偶然は稀に起きる。それを何者かの意思とするかどうかは各々によるが、あまりにも真剣に聞き返されたので生徒の気分に立ち返って彼女は答えてみた。 
「タイミング?」
「そう、タイミングっす。問題は謎の精霊であるラプラスが『誰』を中心に悪戯してるのかって事なんすけど……状況を考えると、少なくともウチイングランス側じゃあないっすね」
「『彼』か『彼等』、と言う事か?」
「っす。多分っすけど」
「……勝てるか?」
「『彼』にって話ならちょっと難しいっすね。『彼等』にって話であれば、聞いた感じ楽勝だと思うっす」
「ふむ。我が校きっての天才、史上最年少でエレメンツになった錬金術師アラネア・ウィーバーをもってしても難しいか」
「いやいや、流石にもうその謳い文句は勘弁して欲しいっす。そもそも僕、エレメンツはエレメンツでも戦闘型じゃないっすからね?錬金術師なんで、単純な魔法力だけで言えばエレメンツ最弱っすよ?」
「それは単純な魔法力だけで言えば、だろう?」
改めて『らしくない』問をしてきたかと思えば、この言い様である。
懸念は分かるが、自分も暇ではないので恩着せがましく当てにしないで欲しいんすけどね〜。と、内心で嘆くアラネア。
「……別に戦争するわけでもないんすし、今勝つ負けるは関係ないじゃないっすか。彼等(ガルデニアの人間)ならともかく、あの人エルカトル(同盟国)の人間なんですよね?」
 段々とラボを連れ出された苛立ちが戻ってきた様だ。彼女の言葉に棘が混じり始める。
「……ああ、それもそうか」
 そんな様子を見て、これ以上の問答は無意味と判断したのか、フィアは思い出したかの様に彼女の言葉に納得をしてみせた。
「んじゃ、僕は帰るっすよ。もう『新しい魔導具のインスピレーションは降りてきたんで』」
 そう言ってペタペタとスリッパを鳴らしながらアラネアは退出していった。
「ふふっ。ああ、宜しく頼むよ」
 恐らく聞こえてはいないだろうが、フィアはアラネアが閉じたドアに向かってそう言った。


【ガルデニア】


「おい、聞いたか直也!?」
 特別講義から数日後。
 娼館帰りで眠りこけている直也の自室に正則が大慌てで飛び込んできた。
「……んだよ、うるせえなぁ。もう少し寝させてくれよ」
 直也は何をそんなに慌てているのかと、パンツ一丁で友人を問いただす。
「他国から来たって言う臨時講師の事だよ!」
「はぁ?」
 しかし、返ってきた答えにまたしても「?」が浮かぶ。この学院が他国から臨時講師を招く事の何がそんなにこの友人を駆り立てているのだろうか?進学校なら優秀な人材を他から招く事くらいあるだろ。そんな事より身体洗いてぇ、というのが直也の正直な感想だった。
「そいつの名前!ジュウゴって言うらしいぞ!」
「……マジか?」
 だがその一言で、ようやくこの友人が何に対して興奮しているのかを直也は理解した。
 ジュウゴ……明らかに日本人の様な名前だ。記憶している限り、クラスメートにそんな古めかしい名前をした奴はいなかった。つまり……
「ああ。今、学院内で噂になってるらしい。もしかしたら俺達以外の日本人かも!」
 そういう事なのだろう。
「噂?」
「あ~……俺達に勝ったアイツ等が文字通り手も足も出ずに負けたんだとさ」
「……成程。そりゃ確かに噂にもなるな」
 直也からしてみれば、冗談はよしてくれ。と嘆きたい気持ちもあったが、それ以上に納得した気持ちになった。
「彩と風花には?」
「もう伝えた。どうする!?」
「どうするったって……会った所でどうすんだよ?助けてくれって言ったって、俺達にはコレ(勇者の紋章)があるんだぞ。監視役の人間から離れすぎたらどうなるか、分かってんだろ」
「それは……そう、だけどよ…………」
「仮に日本人だったからといって、見ず知らずの他人の為に国と戦ってくれる程馬鹿じゃねえだろ、そいつも」
「…………」
「それに鵠沼狂歌クゲヌマ・キョウカみたいなやばい奴だったらどうすんだよ。あいつ、初日に自分だけ紋章を解呪して同室だったクラスメートを数人殺して逃げたんだぞ?確かに名前だけ聞けば日本人っぽいけどよ、強えってことはそういう事(それだけ強力なチート持ちって事)だろ?そういう奴こそ警戒しとかないとやべぇって」
「でもよ……もしかしたら鵠沼みたいにコレの解呪方法を知ってるかもしれねえじゃねえか!」
 直也も決して正則が食い下がる理由を理解していない訳ではない。
平時であれば、自らも正則と同じく興奮していただろう。
だが、これが賢者タイムと言うべき事なのか。出すものを出してスッキリした状態+寝起きという事もあって、直也は変に感情を入れる事なく思考する事が出来ていた。
「あいつ等はなんて?」
「五条は会うのに慎重派。六車は積極派」
 で、お前も積極派だから現状2対1で俺次第になってるって事か。
「…………悪ぃけど少し考えさせてくれ」
 そう言って直也はベッドに戻っていった。
「ああ……分かったよ。あいつ等にもそう伝えておく」
「お~う……」
 とりあえず一眠りしてからにしよう。友人達の焦りをよそに、直也は再び眠りについた。


【エルカトル】


「皆、ちょっといい?」
 そこはギルド『セントラル』の一般スタッフ用談話室兼休憩室。
普段であれば立ち寄らない筈の場所にギルマスの秘書である剣姫フラン・バージが現れたので、皆何事かと途端に会話を止める。
「何ですか団長」
「団長はやめてリタ。今はリオン様の秘書よ」
 そんな中、リタと呼ばれる女性がフランに向かって聞き返した。以前、ジュウゴの対応をした受付嬢だ。
「これは失礼しました。リオン様の秘書ともあろうフラン様が、こんな一般スタッフの休憩室に何の御用でしょうか?また私のオヤツでも盗みに来たんですか?」
 彼女はジュウゴからの差し入れをフランに横取りされた事を根に持っていた。
 『団長』呼びもそのせいだ。
 元S級冒険者集団『ソードオーケストラ』。
 『楽団』の通称もある伝説の女性グループであり、リタはナイフを担当している。
 彼女達が何故セントラルのスタッフに従事しているのかは定かではないが、その多くが未婚者という事実から案外玉の輿を狙っているのでは?との噂も絶えない。
 本人達は気づいてないが、女性冒険者からしてみれば憧れの存在である彼女達の事を影で「お姉様」と呼ぶスタッフもいる。
 婚期云々も気になる年頃ではあるのだろうが、熱烈な妹達の苛烈な選定が密かに為されている事を彼女達は知らない。
「ゔっ、いや、だからあれはごめんってこの前……」
 話は逸れたが、今は目の前のバトルに戻ろう。
「ごめんで済んだらギルドは必要ねぇんですよバカ剣姫!よくも私の甘味を奪ってくれやがりましたね?せっかく楽しみにとっておいたのに!せっかく楽しみにとっておいたのに!」
 事の発端は、ジュウゴの差し入れに他ならない。
 全てはあの男が数に限りのある余りにも高級なお菓子を持ってきたせいだ。
 セントラルのスタッフは他よりもかなり給料を弾んで貰っているが、それでも手の届かないものはある。
「ちょっ、誰か……」
「団長、流石に今回ばかりは団長が悪いと思いますよ?かく言う私も楽しみにとっておいたアレを勝手に食べられたらリタ以上にキレる自信があります」
 団長は何とかしてリタに何か補償すべきなのでは?と言するのは楽団でレイピアを担当していたピア・スーだ。
「いや、でも流石にアレは私の給料じゃ買えないし……」
フランは辺りを見回すが、誰も目を合わせようとしてくれない。どうやらこの場に彼女の味方はいない様だ。
「まぁリタの本音はさておき、本当に何をしにいらしたのですか?」
まさかとは思いますが、本当に私達の楽しみ(おやつ)をパクつきに来たのではないでしょうね?そんなピアの言葉の直後、周囲からあり得ない程のプレッシャーがフランに叩きつけられる。
なまじ前科がある分、女達の警戒は凄い。食べ物の恨みとはかくも恐ろしいものなのだ。
「違う!違うから!今回はホント聞きたい事があって来たのよ!」
その言葉に「なぁんだ」と警戒を解く女達。リタだけは「『今回は』?ギルティ……」と更に怒りを加速させていたが、話が進まないので誰も触れなかった。
「暫く見ないと思ったら、あの人今イングランスにいるみたいなんだけど誰か何か知ってる?」
フランがその事実を告げるや否や、リタは今度こそ膝から崩れ落ちた。
同様のリアクションをとるスタッフも少なくはない。そこかしこから手にしていたコップや皿を落として割る音が響いている。
どうやら早々に『次』を期待していた彼女達の絶望は深そうだ。
「団長……」
「……な、何?」
 そんな中、絶望の幽鬼と化したスタッフ代表としてリタがフランを問い詰める。
「そんな情報が入ってきてるって事は、団長なら彼に『メッセージ』を送れますよね?」
「い、いや、私もリオン様から聞いただけだから……」
直接は無理……
「(出来ます)よね?」
「……はい」
「――で、私からこの『メッセージ』を彼に送れ。と?」
「お願いします!」
出来なかったなんて言ったらマジで殺されそうなんです。とフランはリオンに嘆願した。
その『メッセージ』には【お土産、宜しくお願いしま〜す♡】といった内容で女性スタッフ一同からの愛の伝言(脅迫)が書き綴られていたとかなんとか。



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