テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第12話「バイオメカニズムvs魔法」

あぁ、憂鬱だ。
 長く縦に伸びた廊下をテクテクと歩きながら、今更ながらに臨時講師を引き受けてしまった事にメランコリーを感じてしまう。
はぁ……前を歩くこの学院長さんも無茶を言う。昨日今日イングランスの歴史や魔法の成り立ちを浚っただけの俺に一体何が教えられるというのか。
「ふふっ、前にも言ったが別に魔法を教えろと言う訳ではない。私はね、学院長として各国を旅する君の話を生徒達に聞かせてやりたいのだ。残念な事に先日の『アレ』のせいで少々勘違いしている者も少なくなくてね」
 そんな俺の心情を察したのか、フィア・プラーラ学院長は学院の内情を話しだした。
 あ〜、あの交流戦かぁ。確かに、あんな結果じゃ「何だ。他国の奴等(勇者)なんて自分達(魔法使い)が本気を出せば、なんてこと無いんだ」なんて考えてしまう子が出て来ても不思議じゃないよなぁ……ん?待てよ。って事はそんな外部の人間にヘイトが集まってる中、俺が何か話すの?いや、ハードル無茶苦茶上がったんですけど?!
「何だったら実技でも構わないよ?話が駄目なら拳で語ってくれてもいい」
 等とのたまう学院長に、あんたエスパーかよ!と俺はツッコミそうになってしまった。
「……しませんよ。間違って生徒さんに大きな怪我でもさせたらどうするんですか。流石にそんな責任は負えません」
「ふふっ、あくまでも生徒の心配か。流石だな。うちの学生程度なら自らに危険はない、と」
 え?いや、ちょっと……それは深読みしすぎじゃない?そりゃ、そこらへんに関して言えば多分大丈夫だけどさ。
あ〜。世にも珍しい奇怪書ライブラリーへのアクセス権を報酬に引き受けたはいいものの。予想以上に大変そうだ、この仕事。
「ちなみに受講は前回の交流戦と違って希望制にしようとしたのだが……」
 ……嫌な予感。
「予想以上に希望者が殺到してね」
 Nooooo!やっぱりか!ナンテコッタイ!通りで見覚えのある道のりだと思ったよ!
「やむなく講義室ではなく、この屋内実技場を使う流れとなってしまった訳だ」
 ああ……見える。見えるよ……自分にも。この前自分が座っていたガラガラの二階席付近が満席になっている様が。そして何故か実技場の真ん中でまるで「試合前です」と言わんばかりにピリピリしている赤毛の女の子が。
 あれ、この前あいつ等と戦ってた女の子だよな?確かメーディアとか言われてた。
 後ろにはルイズって子とシルフィって子もいるし。これどういう状況なんですかね、と学院長に視線を送る。
「すまない。どうやら一部生徒が暴走してしまっている様だ。申し訳ないが、無力化をお願いしたい」
 そう言ってニヤニヤしながら一人後ろに下がる学院長。
 くそ、嵌められた。知ってやがったな、コイツ。拳で云々言ってたのはこの為か。
「ごめんなさいね。シルフィを助けて貰った手前こんな不意打ちの様な真似はしたくなかったのだけれど、貴方とデルフの話をルイズから聞いて居ても立っても居られなくなっちゃったのよ」
 デルフ?ああ……テンペストさん家にいたあのシスコンか。面倒くさかったからコテンパンにした。
 こらこら、ルイズさん。目を逸らすんじゃない。逸らすぐらいならこの友人を止めなさいよ全く。
 参ったなあ。
 どうするべきか。
 逃げ……あ、学院長の野郎そっと今来た道を塞ぎやがった。上……は、何か結界的なもの張られちゃってるし。
 ぐぬぬ……やるしかないのか。
 まぁ先の交流戦の代表に選ばれるくらいだから実力はそれなりにあるんだろうけど、幾ら魔女とはいえ女の子だしなぁ。
 デルフと同じ様にしては俺の心が痛む。
 かといって人の戦話を聞いてウズウズする様なバーサーカーちっくな人間を穏便に止める術が他にあるかというと、直ぐには思い浮かばない。
 困った。
「『Request the elements』、火よ我が敵を貫け。サラマンダーレイン!」
 ちょ、いきなりかよ!
「……やった?」
「じゃねぇ。危ねぇだろうが。何殺傷力高めの魔法ぶっ放してきてんだ、コラ」
 は〜、ビックリした。前回と違って全方位からの火矢集中砲火は駄目だろ。確実に一般人なら殺れる代物だぞ、今のは。
「後ろ?!いつの間に!」
 気づけなかったのなら、これで1死にだ。バーサーカーちゃんなら分かるだろ?
「っ!まだよ!遠距離からの魔法が駄目なら……『サラマンダーブレス』!」
 お?ブレス(祝福)?バフ系か?身体が赤く光りだしたぞ。
「『ディアンテ』!」
 炎を模した様な刃のダガーナイフ! 
 腰に下げていた二丁のそれを抜き放ち、先程とはダンチ(段違い)のスピードで彼女は俺に斬りかかってきた。
「凄いな。触れるモノを全て切り裂く炎の演舞か。それにその速さ。明らかにこの前の勇者達より上だ」
 まるで00のトラ○ザム!
「……(嘘)!……(でしょ)!……(なんで)!」
 当たらないのよ!と目と身体が言っているが、此方も当たってやる訳にはいかない。
 身体と共に赤く発光しているそのダガー。
 サーモグラフィーで確認したら刃の温度が摂氏1000℃を余裕で越えてるし、何やら変な物理法則も発生している。
 恐らく何らかの魔法か何かが付与されてるのだろう。そんな触れたもの全てを焼き切る系武器が仮に当たってしまって無傷だった場合、今度は俺の人類性が疑われてしまう。
 と言うか……もう流石に止めようよ、コレ。絶対、模擬戦の範疇を越えてるって。俺じゃなかったら全身をバターの様に切り裂かれて細切れエンドになってるぞ?
おい、学院長!視線に気づいたのなら止めさせろコラ!「(まぁまぁ、いいじゃないか。その調子で生徒達の鼻っ柱を折ってやってくれ)」じゃねぇ!
「ディアったら、『精霊の祝福ブレス』まで使うなんてやり過ぎよ。でも……」
「……うん。やっぱり凄い。あの状態のディア姉の攻撃を全て躱すなんて普通無理」
 いや、君達も分かってるなら止めなさいよ。
「……はぁ……はぁ……っ、ホント……何者?一太刀も……入らないなんて……どんな冗談よ」
漸く呼吸が尽きたか。
時間にして1分も経ってないが、怒涛の連撃だったな。だがやはりバフを掛けながらの戦闘は体力は勿論の事、魔力の消費も半端じゃない様だ。
 敵の眼の前で思いっきり肩で息をするなんて「もう満足に動けないです」と自ら言っている様なものだが、学生にそこまで求めるのは酷だろう。
「(ALERT。左側面から高速で氷の飛翔体が接近中)」
 は?うおっ、危な?!
巨大なツララが飛んできた方向に顔を向けると、そこには申し訳なさそうにしながらも魔法を唱えようとしている女の子が二人。
「本当にごめんなさい……」
「……学院長の指示。許して」
おぃぃぃぃ!何してくれとんねん学院長あんた
「「「「ワァァァァ!」」」」
いや、オーディエンスも沸いてんじゃねぇ!
「『Request the elements』水よ、我が敵を切り裂け!」
「『Request the elements』風よ、我が敵を切り裂け!」
 げ、ツララの次は双方向からの真空の刃とウォーターカッターかよ!?やらされてる割に意外と君達も容赦ない!ね!っと!
「やはり駄目ね。遠距離型の攻撃魔法では掠りもしないわ。シルフィ、何か考えはある?」
「……ない。けど、このままじゃ何も出来ずに終わる」
「そうね」
「……だから、私達も全力を出す」
「……その心は?」
「……ディア姉もデル兄も全力を出して尚、手も足も出なかった。こんな凄い人が私達の相手してくれる機会なんて今後いつ来るか分からない。それに……」
「それに?」
「……この人なら私達が全力を出しても軽くいなしてくれる筈!『エアリアルブレス』!」
「あぁ……全く。ディア、貴方のせいで私達の可愛いシルフィがどんどん好戦的になっていくじゃない。どうしてくれるのよ……『アクエリアスブレス』!」
 いや、勝手に変な信頼をよせないで欲しいんだけど……
「……『エアリアルアクセル、ブレイズオン(空中滑走翼付与)』!」
「「「「うぉぉぉぉぉぉ!?」」」」
 うぉぉぉぉぉぉ!?
空中を滑るように移動して来やがった!
ん?待て待て、その田舎チョキみたいな手の形は……まさか銃(霊○)か!?
「……『サイクロンバレット(暴風の弾丸)』!」
 あっ、ぶねぇぇぇぇ!
 スナイパーライフルヨロシクの速度で抵抗を無視した圧縮空気弾が飛んできたぞ!?
 一発でも何処かに当たれば常人なら色々と引き千切れるレベルじゃねぇかソレ!
「『フォギーワッカ、ジェイル(霧水球獄)』!」
 今度は何だ!?球状の……霧?
「ディア!」
「任せて!」
 超細かい霧+超高温のダガーナイフ=……って、バカ野郎!
「これなら!」
「どう!?」
 こんな所でそんな規模の水素爆発なんて狙うんじゃねぇぇぇぇ!
「Booooom!!」
 そして、会場を埋め尽くす程の爆音が響き渡った。
「…………やっ」
「こら!」
「?!」
ったく、危ない攻撃ばかりしやがって。
そんな悪い子には、ニューロンジャック。
掴んだ首元から指向性電磁パルスを流して強制的にニューロンへ介入、そして操作。脳に直接眠るように命令する。この間、わずかレイコンマ数秒。傍目から見れば首に触れただけで意識が落ちた様に見えるだろう。さあ、抗う事の出来ない本能の睡眠に身を委ねるがいい。
「なん……Zzz」
「「ルイズ(姉)!」」
よし、これで残るは二人。
先ず空に足場を作ってる君。降りてきなさい。
「……え?え?なんで!?なんで?!『エアリアルアクセル』は発動してるのに!?」
それはね〜、君のその魔法が重力操作の類じゃないからだよ。
ニュートンアトラクト(引力操作)。
アインシュタインリパルス(斥力操作)。
「ちょ、何これ!?なんでこれ以上近づけないのよ!」
 ちょっとした電磁力の応用さ。
 二つ合わせてフレミング・グラビティって所かな?
 彼女シルフィードが地上に近づけば近づく程、メーディアは俺に近づけなくなる。
「……『サイクロンバレット』!『サイクロンバレット』!『サイクロンバレット』!」
はっはっは、無駄無駄。ソレ、威力が強力なのは認めるが軌道が真っ直ぐ過ぎるからちょっと射線をズラせば怖くないんだよ。
「……!……!」
は〜い、地上にお帰りなさい。
「シルフィ!シルフィィィ!」
「……ディア姉」
……いや、君達。今生の別れじゃないんだからさ。そんな「……ごめんねお姉ちゃん。私、ここまでみたい」な雰囲気出されても困るんですけど?
俺、ただゲンコツ式のニューロンジャック使って安全に眠らせようとしてるだけだよ?
てい!
「(ゴツン!)あぅ……Zzz」
さあ、これで後はあの子だけだけど……
「シルフィィィィィ!」
あそこまで感情が昂ぶった子、眠らせられるかな?
コレ(ニューロンジャック)、あまりにも感情の落差が激しいとシナプスに負担がかかりそうなんだよな〜……う~ん。
「ぅああああ、『Sacrifice for the elements』!火よ我が身を糧に……っ?!ぐぇっ!?」
「いや、流石に『それ』は駄目だろ」
 あ〜、思わず手を出してしまった。
 あんまり女の子に腹パンはしたくなかったんだけど、枕詞の文言から察するにコイツ『生贄(重い代償)』を要する様な魔法を使おうとしていたな?パニックで周りが見えなくなってるとはいえ、誤解でそんなモノは唱えさせられないよ。危ない、危ない。
「っ……!!」
 お〜。ソーラープレキサスブロー(みぞおち殴り)が入って呼吸困難になってる筈なのによく意識を保っていられるな。やっぱり、さっきニューロンジャックを使わなくて正解だった。
「落ち着け。あの子達はただ眠ってるだけだ。半刻もすりゃ起きる。だから、お前も一緒に寝とけ」
 スタンガンハンド、か〜ら〜の〜ニューロンジャック。
「!?……ぁ、Zzz……」
 ふぅ……ちゃんと効いてくれたか。二人に比べてやはり抵抗が強かったから眠らせるというよりは気絶させるに近かったけど、まぁいいよな。
 ほら、学院長さん。コールを。
「そこまで!勝者、臨時講師ジュウゴ!」
「「「「ウ、ワァァァァァ!!」」」」
 はいはい、ありがとう。ありがとう。
 さて、これで今日の講義は終わりだよな?
じゃあ学院長、例のライブラリーに案内を……
「ん?まだ約束した講義の時間はだいぶ残っているじゃないか。私も協力するから、ついてこれていなかった生徒達への解説と質疑応答を頼むよ」
 くそぉぉぉ!二度と受けるか、こんな仕事!
 なんて事を思いつつもフィア学院長と先程の流れを解説しながら質疑応答に答えていたが、学ぶ事に熱心な生徒達に感化されていつの間にか答えるのが楽しくなっている自分がいた。
「今回の講義で少なからず世界の広さを知った生徒もいるだろう。本当に感謝しているよ」
その上、そんな事を言われたら「いえいえ、こちらも優秀な生徒さん達にお応えする事が出来て楽しかったですよ」と返すしかなくなるじゃねぇか!実際、後半はちゃんと講演みたいな事出来て楽しかったし。
ここに来て自身の柿根性が憎いぜ。
でも、あんな危ない事は二度としないぞ絶対。
暴力(弱い者イジメ)反対。
取り敢えず、学院長あんたはさっさと俺を約束のライブラリーに連れて行って下さいやがれこの野郎!



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