話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第8話「ギルド総会」

とあるギルドの一室に5人の老若男女が集まっていた。
「忙しい中、集まって貰って感謝する」
胸にコンパスの紋様が刻まれたバッヂを付けた初老の男性が挨拶をする。
「全くだよ、リオン坊や。こんな婆に足運ばせたんだ。よっぽどの事なんだろうね?」
 そう言ってセントラルのギルドマスターに悪態をつく女性は東の女帝ミルガー・モビーディック。
 女ながらにエルカトル連邦の東部を仕切る人間と巨人族のハーフだ。
リオンの倍は生きているが、巨人族の血のせいで見た目は随分若く見える。
「ホントよね〜。アタシも可愛いリオンちゃんの呼び出しじゃなきゃ絶対来なかったわよ。今、ガルデニア帝国への対応で凄い忙しいんだから」
 とミルガーに同意を示した筋骨隆々の男性は北部を仕切るゲイノルド・バイノリティ。
 『北の混沌』と呼ばれる彼は生粋の人間でありながら、素手でドラゴンと渡り合ったという伝説を持つ豪穴……いや、豪傑だ。
 よくミルガーとどちらが強いんだと話題にされる事もあるが、その答えは謎のままである。
「んで、なぁんでゴルディ爺さんは縛られてるんだべか?」
 そしてよく日に焼けた浅黒い肌を持った南部訛りの強い男、ベジ·ファーミーが縄で椅子に縛り付けられている最後の一人を見て説明を求めた。
「ああ。皆に集まって貰ったのは他でもない、このゴルディがウチに寄越したとある人物の情報を共有しておこうと思ったからなのだ」
「とある人物、だべか?」
「あら、態々私達『全員』を呼び出す程の大物が入国してたなんて情報あったかしら?」
「少なくとも東にはないね」
「おらん所(南)もねぇ」
「……」
 そして一人黙る西のゴルディに視線が集まる。
 どうやら自分達が集められた理由は、この老人にあるらしい。と三人は理解した。
「さあ、それでは説明をして貰おうかゴルディ。あれは、一体何者だ?」
「……知らん」
「『知らん』……で済むか!お前が寄越した者だろうが!ちゃんと説明しろ!」
「ちょっ……ちょっと、ちょっと。リオンちゃん落ち着きなさいよ。一体何があったって言うの?」
 今にもゴルディに殴りかかりそうなリオンをゲイノルドが制止する。
 ギルドのトップ、つまり商人や冒険者の纏め役ともなれば如何なる状況にも対応出来る仮面を心の中に幾つか持ち合わせているものである。例え、仲間内というフィルターを通していたとて、近年彼がここまでの感情を発露する様な事は珍しい事だった。
 ミルガーとベジも驚いた様な目でリオンを見ている。
「ぐ、そうだな……すまない。先ずは見せた方が早い、か」
 そんな三人の視線によって少しは落ち着きを取り戻したのか、リオンは内ポケットからおもむろに金属製のケースを取り出した。
 見ればギルド魔法によってロックされている厳重なケースの様だ。
 リオンは自らの指輪に魔力を込め、その封を解く。
「「「……!?」」」
 そして、中にあった物を見て三人は絶句した。
 其処には透明な卵と見紛う程のサイズをした巨大なダイヤモンドが鎮座していたのだ。
「ちょっと……ちょっと、ちょっと、ちょっと!何よそれ!え?本物?本物の?」
「金剛石だ。だろう?ゴルディよ」
「……ああ、間違いなくモノホンの金剛石だ。俺が保証する」
 それを聞いて「きゃぁぁぁぁ!素敵!本当に?!本当の本当に金剛石なの!?何て素敵な大きさ!何て素敵なカット!ああ〜、もう私の目は貴方に釘付けよぉぉ〜♡」と狂喜乱舞しながらダイヤモンドに視線を集中させるゲイノルド。
「こりゃ驚いたね……リオン、あんた何処からそんな物騒なモン仕入れたんだい?」
ミルガーがそう言うのも無理はない。
金剛石と言えばその美しさも然ることながら、魔法の触媒としても非常に高い効果を発揮する天然鉱石だ。
それ故に高位の魔法使いや貴族、王族が金に糸目を問わず求める事の多い代物であり、過去にはその利権を巡って戦争が起きた事例もある。商売にするには最も取り扱いに注意が必要なモノの一つとして彼女は記憶している。
こんな大きさの金剛石ともなると、存在を知られただけで正しく国が動きかねない。
特に、ガルデニアの様な典型的貴族思考を持つ権力者の女性陣が黙ってはいないだろう。
最悪、唆された旦那(王侯貴族)が戦争という強硬手段を取るかも知れない。
「もしかして、さっき言ってた『とある人物』だべか?」
「うむ。名を『ジュウゴ・イカリ』と言う。銀髪に緑眼をした青年だ」
「何者だい?」
だからこそミルガーは当然の質問をした。そんな危険物を持ち込んだ者が一体どういう人物なのかを知る為に。
「分からぬ」
しかし、返ってきたのは最低の答えだった。
「あぁ”?」
ここに集まっているのは仮にも全世界のギルドを代表する面々である。その頭が相手の事を何も掴んでいないとはどういう了見だい?との苛立ちを含めてミルガーは聞き返す。
「……直接会って尚、分からんのだ。口調や服装は商人や貴族のそれではなく、どちらかと言えば市民のそれに近かった。最初は物の価値も分かっていない小僧をゴルディが嫌がらせの為に寄越したのだと思っていたが……」
そこでやっと三人は理解した。
リオンがゴルディを縛り付けている理由を。ミルガーがまさしく問うた事をリオンもゴルディに求めているのだ。
「ふん……そんな恩知らずな真似が出来るか。俺の命を救ってくれた人物だぞ」
そして、そんな四人の視線を受けゴルディは漸くその重い口を開いた。
「まぁた、命さ狙われたんだべか?ゴルディの爺さんは怨み買い過ぎだべさ」
「うるせぇ。おめえ等ん所と違って俺ん所は武器や防具が主力なんだ。切った張ったは避けらんねえんだよ!」
「それで、今回は誰に狙われたのよ?」
「……ファベーラの残党だ」
「「「「!?」」」
 ゴルディが口にした名前に全員が驚愕した。
「嘘!?生き残りがいたの!?」
ファベーラとは国を股にかけた犯罪者集団の組織名だ。
「本当だとしたらかなりの大物だよ?よく殺されなかったね、アンタ……」
その構成員の数は数千を超えるとされ、貴族すら襲う凶悪な闇ギルドとして有名だった。
「報復だべか?」
「ああ、あいつ等を掃討する為に各国の冒険者や軍に武器や防具を支援したのは俺だからな。イミルミゼットからの帰国のタイミングを狙われちまった」
「成程。そこで彼と遭遇した、と言う事か」
「ああ。護衛だった冒険者の奴等は皆殺しにされちまって、いよいよって時にあいつが現れたんだ」
「え、ちょっと待って。じゃあ、あのファベーラの生き残りをそのジュウゴって子が一人で片付けたって言うの?」
「俄には信じ難いね……奴等は国を跨ぐ大犯罪者集団だ。生き残りがいたとしても、それは下っ端なんかじゃあないだろう?幹部、若しくはボスに匹敵する地位の者の筈だよ。Sランク並の実力者もいたって噂の奴等相手に一人でやりあったって言うのかい?幾ら何でもそりゃあ……」
「いや、彼なら有り得るだろう。何せうちの秘書がまるで相手にならなかった程の実力者だからな」
「あの剣姫がだべか?」
「てめぇ、リオン!あれ程手を出すなと注意しただろうが、馬鹿野郎!」
「仕方ないだろうが!気付いたら剣を抜いていたのだアレは!」
またしても白熱しだす二人。
「フランちゃんが剣を抜いて全く相手にならないってどんな化物よ。ジュウゴちゃんって、もしかして『竜人』?」
ミルガーと同じく、当事者であるこの爺さんを問い詰めた方が早いと判断したのだろう。彼女?は取り敢えず思い当たった一つの種族を例に挙げた。元とはいえSランクの冒険者が全く歯が立たない様な化物となると、それ位しか候補がいないからだ。
『竜人に手を出せば国が滅ぶ』
それはこの世界で、幼い子供ですら知っている有名な諺である。
「それは分からん……が、それに匹敵するナニカなのは間違いねえ。事実、ファベーラの奴等が手も足も出せずに殺されていく様をこの目で見てるからな」
「ん?ちょっと待てゴルディ。イミルミゼットからの帰国途中に襲われて何故こうも早くこちらに戻れている?」
「おお、それもアイツのお陰よ。さすがに爺の一人旅は危険だっつう事で、残った馬車毎エルカトルまで転移して貰ったんだ。凄えだろ?おりゃあ初めて転移なんてもんを経験したが――」
等とドヤ顔で語るゴルディに「……貴様ぁぁぁ!だから何故そういう重要な事を先に言わんのだぁぁぁ!」と遂にキレてしまったリオンを誰が責められよう。
三人はそんな二人を傍目に、今回の騒動の原因である『ジュウゴ』なる人物の名と特徴を頭に刻み込む事にした。
因みにこのダイヤモンドを購入するにあたって何の相談もなくセントラルの資金を投じた事がバレてリオンとゴルディは他の三人から厳しい追及を受けるのだが、後日セントラルに訪れたジュウゴの齎したレシピによって難なく補填する事が出来たので事無きを得たとだけ記しておく。



「テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く