テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第7話「とあるギルド職員の受難」

「受付は此処で合っていますか?」
 そんな何気ない一言から、その日は始まった。
エルカトル連邦最大手ギルド『セントラル』。
私はそこで働く一般職員だ。
一般職員と言っても、ただの一般職員ではない。あまり他所には知られていないが、セントラルに所属する一般職員は皆が皆、何処からかスカウトされて来た元有名冒険者だったりする。
 スカウトの基準は分からないが、容姿は勿論の事、最低でも個人でCランク相当の実力を持っている事が重要らしい(※少なくともそれ以下のランクでスカウトされて来た人物を私は知らない)。
 セントラル(全ギルドの纏め役)ともなると要人対応が主になる為、仕方のない事だとは思うが、言い訳をさせて貰うのならば、だからこそ私は思わず悲鳴をあげてしまったのだと思う。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」
 それが、私の叫び声だと気付くのには暫く時間がかかってしまった。
 同僚は私の声に反応し、何事かと自らの暗器を構えて静止している。
 無理もない。何せ、発した本人ですら自分がこんなにも女らしい叫び声をあげてしまった事に驚いているのだから。
 それ程までに声をかけてきた人物は異質だった。
 姿形は人間のそれである。
醜男と言う訳ではないが、とりわけ美男とも言い難い。髪は銀色をしており、背丈は180センチ程。服装はセントラルに訪れる者としては珍しく、平民の様でもあるが、使われている生地の質感を見るに、かなり上等なモノだと判断できる。見る者が見れば豪奢であると分かる、そんな服装だ。
 然しながらそんな目立ちやすい格好をした人間が居たにも関わらず、声を掛けられるまで少なくとも私は気付く事が出来なかった。
 もう引退したとは言え元Sランク冒険者であるこの私が、だ。
まるで突然そこに現れたかの様なその人物に、私の生存本能は悲鳴を上げてしまった。
「あの……大丈夫ですか?」
 心配そうに言葉をかけてくれるのは有り難いのだが、全てを見通しているかの様なその緑の瞳が私には恐ろしくて仕方なかった。
対峙すれば私はあっさり死ぬだろう。
それ程までに目の前の人物は危険であると、私の五感が叫んでいる。
「……は、はい。突然、大声をあげてしまい申し訳ありませんでした。それで……その……本日はどういったご用件で此方に?どなたかのご紹介でしょうか?」
「ああ、はい。ゴルディ・ロックスって人に『それを売るならセントラルってギルドに行け。あそこなら金を用意出来る筈だ』って言われて来たんですが」
 ……は?
「…………今、ゴルディ・ロックスと仰っしゃられましたか?西にあるギルド『ロックス』のマスターの?」
 ゴルディ·ロックスと言えばこの国の西方エリアを取り仕切る石工ギルドのマスターであり、セントラル取締役員の一人でもある人物だ。
その顔は広く、各国の王侯貴族とも繋がっていると噂されており、彼の人物が一声あげれば軍が動くとも言われている。
はっきり言って超大物だ。
そんな人物の紹介?はは、なんて笑えない冗談……
「ああ、はい。多分その人です。そんな事を言ってましたから。あ、これ頂いたお手紙です」
……冗談ですよね?
「は、拝見致します……」
私は震える手で恐る恐るその封筒を受け取る。
「……」
 封を裏返すと其処にはセントラルのギルドマークでもある羅針盤の紋様魔法がしっかりと刻みこまれていた。
この様にギルドマークが使えるのは原則としてそのギルドのマスターやそれに準ずる位置に属する者だけであり、未だ解明されていない古来の魔法技術の為、偽造や偽装は不可能とされている。
どうやら目の前のこの人物は本当にゴルディ・ロックス本人の紹介で此処に来ている様だ。
私は専用の魔道具に魔力を流し、その封を解いた。
【このジュウゴ・イカリなる人物は国宝級アイテムの所持者である。これを読んだものは速やかにギルドマスターであるリオンに報告し、何よりも優先して彼の対応をさせるべし。絶対に敵対する事なかれ。ティアマトの尾を踏むべからず。 ※ゴルディ・ロックス】
手紙にはそう書かれてある。
国宝……え?最優先案件?それにあのゴルディ・ロックスがこんな文章を書くなんて、この人物は一体……
「しょ、少々お待ち下さい!」
うん、もう訳がわからない。
ギルマスに全部任せよう。
リオン様〜、お客様ですよ〜。





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