テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第3話「リスラーブ大森林(数ヶ月前)a」

時が経ち、異世界の環境に合わせて進化してしまった現在ではその原型を留めている生物は少ないが、魔物とは過去に世界を渡り此方側に来た元異世界の生物である。(※転移や召喚等で異なる世界へと生物が渡る場合『スワンプマンの思考実験』の様な物体の再構築が伴うのだが、その際に異世界の因子である魔素[万能元素]が取り込まれる事で細胞が変性してしまい、元いた世界とは異なる進化を遂げるに至った。魔物の中には地球で絶滅したと言われている様な種の子孫もおり、代表例として挙げられるのは恐竜から定向進化したワイバーンだろう)
『ソレ』にいち早く気づいたのは、そんな魔物と呼ばれる生き物達であった。
 その異変に獲物を探していた者は脚を止め、眠っていた者は目を覚まし、また食事をしていた者達は咀嚼を止め、一斉に顔を空に向ける。
 そこには彼等が今まで感じた事の無い程の強力な磁場が発生していた。
「「「「…………」」」」
 静寂が辺りを支配する。
 物言わぬ木々ですら、葉のざわめきを抑えつけているかの様だ。


 数瞬の後、リスラーブの空が割れた。 


 そして先程までの静寂を塗りつぶすかの様なアポカリプティックサウンドが辺りに木霊する。
 それを聞いた魔物達は言い知れぬ音に慄き、即座にその場を後にした。
亀裂付近にいた魔物達は不運であったと言わざるを得ない。
動けない植物達のなんと哀れたるや。
音が鳴り止むと同時、空に出来た亀裂を中心に半径数キロにも及ぶ広範囲に渡って強力な磁性を伴った結界が発生し、中に在った動植物達は動くことすら許されずその場で消滅する事となった。
それはまるで亀裂が周囲に在るありとあらゆる生命を一瞬にして飲み込んでしまったかの様な錯覚を起こす、酷く現実離れした光景だった。
間一髪難を逃れた魔物達は先程まで自分達のいた場所のあまりの変わり様に身を震えさせている。
再び彼等が顔を空に向けると、亀裂はいつの間にか消えていた。
 だが、脅威は未だ去ってはいなかった。
「……Aaaaaaaaaaah!」
 それは彼等が初めて聞く、生物ならざる者の叫び。
消滅地の中心にいつの間にか何かが立っていた。
 姿形は偶に来る二足歩行の餌(人)に似ているが、あまりにも牙々しいシルエットと発光する身体がその考えを否定させる。
「……!」
 魔物達がその動向を見守る中、ソレは無造作に左腕を薙いだ。
ただ、それだけ。
 ただそれだけの行為で凶悪な磁気嵐が生まれ、間を置かずに大地が揺れる。
 空にはオーロラが発生し、それの左側は大量に形成されたプラズマによって一面が硝子化する事となった。 
「Arghhhhhh!」
 その様子を見て魔物達は再びその身を翻し、逃走を開始する。
アレは空に在ったあの亀裂が形を成したナニカだ。
彼等はそう判断した。
「Gyaaaaaa……!」
背後から聞こえる化け物の声。
振り返る余裕などは一切無い。
一刻も早くこの場から離れなければ、次に消えるのは自分達だ。
徐々に遠くなるその叫びを耳に、魔物達は我先にと森の外へ逃げて行った。
 




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