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テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第4話「リスラーブ大森林(数ヶ月前)b」

 魔物達が逃走を開始した一方で、遠くからその様子を覗く三人の姿があった。
「クヴァ、何だアレは?姿形は竜人の戦闘形態に見えなくも無いが……」
 一人は背に身の丈程の処刑刀を負った筋骨隆々な男だ。
 腕を組み、遥か彼方で暴れている化け物を視界に捉えながら言葉を発する様は如何にも武人の様である。
「巫女アールムの預言の通り、アレが凶兆にして災厄の獣マガツヒなのでしょう。見て下さい、奴が喰らった大地を。魔素はおろか、生命の息吹すら感じられません。信じられない事ですが、龍脈ごと全てを飲み込んだのだと考えられます。あそこだけ穴が空いたかの様に何の気配もない」
 そんな彼の問いに答えたのは、隣りにいた男だった。
 クヴァと呼ばれたその色白の男は各指に指輪を嵌めた手を顎に乗せて彼方の光景を考察する。
「不死の森すら殺す獣か。ふん、まだドラゴンの方が可愛く見えるな。名だたる災厄達は黄昏の時代に向こうの奴等と共に絶えたと聞いたが、貴様はアレをどう見る?ヴィリルよ」
「いや、知らねーっすよ。クヴァさんが分からないのに俺が分かる訳ないじゃないっすか。てか、そもそも何でナーレンさんも一緒に来てんすか?別にアレ、討伐するって訳でもないんすよね?」
 そして背に『Z』の様な形の弓を提げた軽薄そうな男が不服そうに声を挙げた。
「む。いや、我は……」
「念の為、と言う事らしいですよ。ヴィリル君の腕を信用していない訳ではありませんが、魔皇の例もありますからね。巫女も心配なのでしょう」
「なら、しゃーないっすね……って、あれ?アイツどこ行きました?」
 三人は決して目を離してはいない。それにも関わらず、突如として視界に映っていた獣はその姿を消した。
「む!?」
「ぐっ?!」
「クヴァさん!」
 そして、気付いた時にはクヴァの喉元にその掌が廻されていた。
 それを見たナーレンは背負っていた処刑刀を目にも留まらぬ速さで振るう。
 だが、その刀身は化け物の腕を断つ事も凹ませる事も動かす事も敵わず、対象に触れた状態で止まってしまった。
「はぁ?!嘘だろ!?ナーレンさんのサンサーラソードで斬れないもんがこの世にあんのかよ!?」
「ヴィリル!」
 ナーレンが離れると同時、ヴィリルは矢の無い弓を番える。
 直後、不可視の刃が四方八方から化け物の身体を襲った。
 然し、それはただ無闇に金属音を鳴らすだけで化物の方にこれといった変化は無い。
「くそ、ユルの死刃ですら効果無しかよ!無茶苦茶だ!」
 その言い分から察するに、彼等にとっては余程の攻撃であったのだろう。二人は次の一手が思いつかないまま、刹那の時を流した。人質をとられている上に攻撃すら無意味というのであれば、これ以上目の前の化物を刺激するのは危険だと判断した為でもある。
「……ナルホド。ドウヤラ、オレハ、ホントウニ、イセカイニ、トバサレテ、シマッタラシイナ」
戸惑う二人を他所に目の前の化物はその牙牙しい口を開いた。
「「(言葉を……/喋りやがった)!?」」
「オレト、コトバヲ、カワスキハ、アルカ?イセカイノ、モノタチヨ」
予想外の物言いに二人は面を食らってしまう。
「……無い、と言ったら?」
言葉が通じるのなら、と試しに問答をしてみるナーレン。
「ベツニ、ドウモシナイ。ゲンゴナドノ、ヒツヨウナ、データハ、スデニ、エタ。ジャマヲシナケレバ、コノモノヲ、カイホウシテ、コノバヲサロウ」
「…………」
その言葉にナーレンは警戒しつつも、様子を見る為に構えを解いた。
対して、ヴィリルはユルの弓を番えたままである。
「フム……マア、イキナリアラワレタ、タシャノコトバヲ、シンジロ、トイウノモ、ムリナハナシカ」
 そんな相反する二人を見て、目の前の化物はため息交じりに手にしていた人質をヴィリルの方に放り投げた。
「クヴァさん!」 
ヴィリルは敵が目の前にいるにも関わらず、クヴァに駆け寄り、その身を起こす。
だが解放されたクヴァは数瞬前とはうって変わり、声を発する事も難しい程消耗していた。
「てめぇ、クヴァさんに何しやがった!」 
「データヲ、コピースルサイニ、スコシバカリ、エネルギーヲ、ヌカセテ、モラッタダケダ。サンニンノナカデ、モットモサカシイノハ、ソノモノダロウ?ヘタニ、ツイセキナドヲサレテ、オレノ、セイカツヲ、ジャマサレテハ、コマルカラナ」
「ならば我等を皆殺しにでもすればよかろう。貴様には容易い筈だ」
「……ナントモ、ブッソウナ、カンガエカタヲスルモノダ。タシカニ、コレホドノ、カラダヲ、テニイレタ、イマナラ、ソレモ、タヤスイコトダロウ。ダガ、コノバニハ、ホカノ、メ、モアル。オマエタチダケヲ、ミナゴロシ、ニシタトテ、イミハナイ」
「何……?」
「ミコ、アールム」
「「「!?」」」
「オマエタチヲ、コノバニ、ヨコシタノハ、ソイツダロウ?」
「待て……何故……その名を知っているのですか……?我等が……巫女に……何をするつもりだ!」
 クヴァは精一杯の力を振り絞り、怒りを顕わにした。
「ダカラ、ドウモシナイ、ト、サキホドカラ、イッテイルダロウ……?セイゼイ、ミコニ、カンシャスルコトダ。ドコマデ、ミエテイルノカハ、シランガ、ワルイテデハナイ。オマエタチホドノ、センリョクデスラ、カナワナカッタ。トイウ、ジジツハ、タシカニ、タノモノヲ、ナットクサセルニハ、ジュウブンナ、リユウニナルダロウ」
「何言ってんのか全然分かんねぇんだよ!殺すなら一思いに殺しやがれ、この化物が!」
「……ワカラヌノナラ、セメテ、ダマッテイロ。ソシテ、コトバヲ、カワスノデアレバ、ヨクカンガエテカラ、ハツゲンスルコトダ、ヴィリルヨ。ソンナコトデハ、タソガレヲ、マヌガレタ、イチゾクノ、ナガナクゾ」
「っ!巫っ山戯んじゃ……ぇ?!」
 目の前の敵が名指しで自分を叱っているのだと理解し、激昂したヴィリルの首にナーレンの処刑刀が振り下ろされた。その刀身はヴィリルの首を落とす事なく透過する。
「な……んで……」
ヴィリルはクヴァに覆い被さる様な形で、その身を預けた。
「少し眠っていろ。これでは話し合いにすらならん」
「ホウ……イシキダケヲ、タチキッタノカ?ナカナカ、キョウミブカイコトヲスル」
「何故、我々が黄昏を免れた一族だと知っている?それは……」
「イチゾクノ、ソレモ、ゴクイチブノモノシカ、シリエヌコト。ナノダロウ?ワカッテイルサ。ソノモノノ、キオクニ、ソウ、シルサレテイタカラナ。マサカ、カツテ、カミダッタモノタチニアエルトハ、オモワナカッタゾ」
「……降参だ。どうか我々を殺さないで欲しい」
「ケンメイナ、ハンダンダ。ミコノ、センタクハ、タダシカッタ、ヨウダナ。ハジメニ、コトバヲ、カワシタモノガ、オマエタチデアッタコトヲ、ヨロコボウ」
そう言って、正体不明の化け物は三人の前から姿を消した。
「ナーレン……」
「分かっている。アレは危険だ。我々が見てきたどんな生物よりも遥かに、な」
「……ええ、同感です。アレは……アレは間違いなく災厄だ……早急に戻り、族長達に伝えねば」
「うむ。だが、このサンサーラソードが通じなかった等と言って信じてもらえるかどうか……」
「ふっ……それを言ったら、私も記憶を覗かれた等と言って正気を疑われないか心配ですよ」
「真実だとすれば恐ろしい話だが、本当に記憶を覗かれたのか?」
「恐らく……としか言えませんが、それ以外に奴の言った言葉を証明する事が出来ません。一瞬でしたが……奴に掴まれていた箇所から何かが抜けていく様な感覚はありましたからね」
「首を抑えられたからといって動かぬとはお前らしくもないとは思っていたが、あの一瞬でそこまでの事をされていたのか……」
「ええ……やろうと思えば……我々など容易に消滅させる事が出来た筈です。結果的に見れば運が良かったのでしょう……あそこでヴィリルを止めたのはいい判断でしたよ、ナーレン」
「後が怖いがな」
「フォローはしましょう……ちなみに四悪・二善・四聖と十あるサンサーラの能力の内、どれを使ったのですか?」
「四聖のエンガクだ。ショウモンでは解かれる可能性があったからな」
「……早めに解脱してあげて下さい。ヴィリルにはまだ長時間のそれは耐えられないでしょうから」
「むぅ……」
 その後、意識を取り戻したヴィリルとナーレンの間で案の定一悶着が起きたが、直後に今度はクヴァが意識を失くした為、二人は手を止め急いで里に戻る事となった。



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