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テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第2話「猫柳 恋」

「――って事らしいですけど、どないします?サラの姐さん」
 通信用魔導具のスイッチを切り、ネコヤナギは目の前にいる女性に話題を振った。
「リスラーブ大森林に正体不明の化物の可能性……ね。全く、ガルデニアの勇者達にも気を配らなければならない時に面倒な事」 
 はぁ……とその女性、サラはため息をつく。
ショートボブの頭にカールした羊の角を持ち、如何にも悪魔ですといったスペード型の尻尾がへにゃる様は、タレ目がちな本人の顔つきも相まって非常に蠱惑的な魅力を醸し出している。
「サラ様、それもそうですが……ネコヤナギ、今のは一体何だ!突然、空中に半透明な絵が浮かび上がったと思ったら女の声が聞こえてきたぞ!?」
 対照的にセミロング程のストレートな髪を持ち、左右から短角牛の様な角を生やした目つきのキツめな女性が驚きを隠しきれない様子でネコヤナギに説明を求めた。
 前者が座り、後者が最低限の武装をしたまま立っている所を見ると主従関係が見て取れる。
「なははは。ええ反応、ありがとうシュマちゃん。サラの姐さんがスルーするもんやからどないしよ思てたわ。これな、遠くにおる人と距離を気にせずお話出来る魔導具やねん。便利やろ?」
そんな二人に対し、特に躊躇う様な素振りもなくペラペラと喋るネコヤナギ。
「なっ!?」
その語られた内容にシュマは驚愕し、「ふぅん……距離を気にせず、ね」と、サラは冷静にその魔導具を見定めた。
その反応の示す所はシオンやネコヤナギが危惧していた所と同じであろう。
「あげへんよ?」
 ネコヤナギはそんな二人に可愛らしく拒絶の意を唱える。
「いらないわ。余計な面倒事が増えそうだし」
「サラ様!?」
 主人の返答に「何故ですか!?」と言わんばかりにシュマは声を上げた。
「そんな物(腕輪)より価値のある者(人間)が目の前にいるじゃない」
「ですがこいつは……」と続けようとしたシュマの言葉を遮る様にサラはネコヤナギへと疑問を投げかける。
「ネコヤナギ君、貴方さっきこう言っていたわよね『ガルデニアにいる元同級生達』って。言葉通りの意味なら貴方はガルデニアの召喚した勇者達の一人って事になるけど、何故魔族側に与するの?それもスティグマ(聖痕契約)を施してまで」
 この世界に於いて、スティグマを施されるとは絶対的な奴隷契約を結ばされた事と同義なのである。本来であれば、それを施された者がサラやシュマ等の貴族階級に対し軽口等聞けよう筈もないのだが、ネコヤナギの場合は契約相手が契約相手なだけに聖痕者でありながらその無礼が許されていた。勿論、サラの様にそれを理解する者もいればシュマの様に納得出来ない者もいる。
「何故も何もコレ(スティグマ)の通りや」
 とネコヤナギは左手の甲にあるケルト十字を逆さまにした様なスティグマを見せた。
「皇女殿下直々のスティグマでは僕が魔族の味方やて納得出来ませんか?」
 魔族にとって皇族は神にも等しい。
 人のそれとは違い、正しく神に等しいだけの力を持っているとされているからだ。
 そんな神の所有物(奴隷)に対する非難は、そのまま皇族批判に繋がってしまう。
 サラがシュマの言葉を遮ったのはその為だ。
 ネコヤナギは魔族の奴隷でありながら、神の所有物という立ち位置を確保する事により魔族領内での自由を手に入れている。
 だが、並の貴族では謁見する事すら許されぬ皇族に只の人間であるネコヤナギがどの様にして出会い、スティグマを施されるに至ったのかは未だ謎のままだ。
 そして、更に疑問なのはネコヤナギ本人の言動である。
命じられれば同族を、それも同じ世界にいた仲間を殺す事にも為りうる立場になっているというのに忌避感を見せる様な素振りが全く無い。
「(寧ろあのスティグマを誇らしげに思っている様な感もあるのよねぇ。魔族であればそれも分かるんだけど、この子は正真正銘の人間。それに……)答えにはなっていないけど、まぁいいわ。それを理由に出されちゃ敵わないし。だけどね、どうやって『アレ』からスティグマを得たの?」
サラがそう聞いた瞬間、思わずシュマが剣を抜き身構える程のプレッシャーがネコヤナギから放たれた。
「(あら……)」
 殺意ではない。
 例えるなら、そう。つい憤怒が漏れてしまった。そんな感じである。
「『アレ』……?ああ、なるほど。あんたは、あの子の状態を知っとるんやな?」
 ネコヤナギの口調にしては珍しく感情が籠もっていた。
「ええ。序列は低いけど、これでも一応公爵家。家督を引き継ぐ際に一度お会いしているわ。だからこそ私には分からないの。どうして貴方がソレを得ているのかが。シュマなんかよりもずっと」
 サラはそんなネコヤナギを目にして、嘘偽りなく答える事を選択した。
普段飄々としているネコヤナギが初めて見せる純粋な感情。
恐らくこの機を逃せば二度とこの者の本心に触れられる事は無いだろう、と判断して。
「ならその疑問もしゃあなし、か。まぁこんな事言うた所であんた等は信じひん思うけどな、一瞬やけど『起きた』んよ。僕の目の前で」
「?!」
 だが返ってきた言葉にサラは初めてこの場にて目を見開く事となった。
 忌々しい神々によって封印された『母』の目覚め。
それは全魔貴族の悲願であり、夢でもある。
 母なる魔皇の真実を知る者は少ないが、魔族の長い歴史上、誰も成し得なかったソレがネコヤナギの前で起こった等と確かに誰が信じよう。
 数ある皇族の一部の事情を知っているサラ自身でさえ、聞いて尚信じられる話ではなかった。
「但し、それっきりや。僕にコレ残してまた眠ってもうたわ……」
 いつの間にかネコヤナギが発していたプレッシャーは消えていた。
「僕はな、今度こそ助けたるんや。だから……邪魔する奴は誰であろうと殺す。そう決めてんねん。例え、それが元お仲間さんでもな」
 それは独白にも似た決意表明だった。
「納得、してくれましたやろか?」
 サラはそんなネコヤナギの目に狂気を見る。『今度こそ』、確かにネコヤナギはそう言った。やはりこの者には母なる魔皇と何か繋がりがあるのだ。種族を裏切って尚あまりある程の何かが。
 それが何かは分からないが、サラはそんなネコヤナギに不思議と共感を覚えた。
この者は人でありながら人ではない(我等魔族と目的を同じにする同士である)と。
「ええ、充分よ。我がキュアデウス家も貴方に領内での自由を認めるわ」
「わ〜、嬉し。これでようやく落ち着けるわ。皆が皆、サラの姐さんみたいに聡明やと嬉しいんやけど」
「ふふ、他家での話は聞いているわよ?あのルドラ伯父様と対峙して生き延びた人間なんて後にも先にも貴方くらいでしょうね」
「……はい?サラ様、それはどういう……?」
 皇族云々の辺りから話についていけなくなって黙っていたシュマは、ようやく知っている方の名前が出たにも関わらずサラの言った言葉の内容を上手く飲み込めずにいた。
「あら、シュマ知らなかったの?この子、ルドラ伯父様と戦って生き延びた唯一の人間よ?」
「ぶ、ぶぶぶ武神ルドラ様に挑んで生き延びたと言うのですか?この男が!?」
「挑んでへんわ。絡まれたんや」
 あのオッサンだけはホンマ……人の顔見たら「手合わせじゃ、手合わせじゃ」て、どんだけ戦闘狂やねん!と、嘆くネコヤナギを見てシュマは軽く青ざめていた。
「(つ、つまり……ルドラ様が認める程の力の持ち主だと言うのか?!こいつが!?)」
「ねぇ、ネコヤナギ君。勇者って皆、貴方位の強さを持ってるの?」
「それルドラのオッサンにも聞かれたんやけど、そこら辺の事情はホンマに分からへんねん。僕とさっき話したオモイグサさんは召喚された直後にすぐさまガルデニアから逃げ出したもんやから。けどまぁ、オモイグサさんの例からすると何かしらの強さは持っとるやろね。中にはヤバイ奴もおる思うよ」
「そのオモイグサという女はどうなんだ?」
「オモイグサさん?ああ、あの子は別や。怒らしたら下手な龍種より怖いで」
 オモイグサさんはマジ鬼神。と真顔で答えるネコヤナギ。
「龍種だと!?そんな者達が何十人も……」
 真面目なのか冗談なのかは分からないが、目の前の男が武神に匹敵すると知ってしまったシュマはネコヤナギの弁をそのまま受け取り顔を青ざめさせていた。
 そんなシュマに対し「なはははは。大丈夫やって、シュマちゃん。幾ら僕等(召喚被害者)が変な力持っとるいうても元々は平和な国の一般市民や。オモイグサさんの能力が異常なだけで、僕やその他大勢は頭使わんと戦力としてさえ数えられへんレベルやと思うよ?実際、僕なんかはこのスティグマの能力が無かったらルドラのおっさんに1分持たん思うし」だからこそ、むしろ本当に警戒すべきは未知の驚異。リスラーブに現れたナニカの方だとネコヤナギは語る。
「……?」
 だが、シュマはネコヤナギの言葉にいまいちピンと来てない様だ。
「いやいや、少しはお勉強もせなあかんでシュマちゃん。こっちの古い言い伝えでも『空が割れて』出てきたモンの有名な例がいくつかあるやろ?」
「あ」
「そう、ドラゴンや。僕の見聞きした範囲で言うんやったら他にも悪魔、亜人、魔女、巨人なんて伝承もあるんやけど共通するんは何やと思う?」
「人類の敵……か?」
「あ〜、こっちの世界の住人から見るとそうなってまうか」
「違うの?」
「僕等ん世界では人類というか『神々の敵』やね。立ち位置的には(勿論、物語の中でやけど)」
「つまり、今回もそれに準ずるナニカが来たと?」
「可能性は高い思うわ。ただ、ちょっと気になんねん」
「「?」」
「先に挙げたもん等と来る時代がかけ離れすぎや。もしかすると僕等のおった時代より後に現れたイレギュラーかもしれん。多分やけど今回のは群を抜いてヤバイで」
「どういう事?」
「こんだけ時間が経っとるのにも関わらず、目撃例がなさすぎるやろ?勿論大っきい小っさいはあるやろうけど、少なくとも種族単位であっちの世界から転移(排斥)させられたんならもっと騒がれとってもええ筈や。僕等(勇者)みたいにな。それが無いっちゅう事は……」
「小数、いえ……最悪の場合、『個』で神々の敵と成り得るナニカが来たって事?」
「馬鹿な!!」
「あくまでも可能性の話やて。けど、さっきのオモイグサさんの話し聞いたやろ?あながちこの予想は外れてへんと思うよ」
だから警戒しとくに越した事はないやんか、とネコヤナギは言う。
「僕としては、その何かが何処におるかも分からん神さん達と殺し合ってくれてたら嬉しい限りなんやけど」
 そんなネコヤナギの言葉に「それはちょっと都合が良すぎない?」とサラがツッコミ、この日は今まで力尽くで交渉して(理解させて)きたネコヤナギにしてみれば珍しく、談笑と共に魔族との会談を終える形となった。
 そして、この日を境に少しずつではあるが魔国は変わり始める事になる。
 戦力の増強は勿論の事、文明の促進や技術の進歩が起こり、その陰にレン・ネコヤナギの名前が関わっていた事は言うまでもない。ガルデニアの様な人間至上国家にとっては正に悪夢といって差し支えない程のジョーカーがルシア皇国についてしまった歴史的な日となった。



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