テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第5話「マガツヒ(五十里 十五)」

 あ〜、驚いた。異世界の現地住民ってやっぱり物騒なんだなぁ。この身体になってなきゃ、死んでたぞマジで。折角、人質まで確保して穏便に話を進めようとしたのに剣を抜くは弓を引くはで先ずは『殺り』に来るし。
 それに驚いたと言えば、彼等の来歴。
 生体磁気をスキャンして記憶データをコピーしてみたが、まさか異世界に来て初めて出会う人間が神族の末裔だなんて誰が思うよ。
 本当、身体を作り替えておいて良かったぜ。
 突然目の前に『禁じられた果実の摂取を確認。神の定めたルールにより、該当人類【五十里 十五】を地球デミエデンから強制的に排除致します』って羽の生えたパツキン(金髪)の姐ちゃんが現れた時は何のドッキリかと思っていたが、これだけは『あの変な実』に感謝だな。 
あの感覚は正直発狂ものだった。
いきなり現れた見知らぬ姐ちゃんに大剣を刺され、声を発する事も許されずに死を迎えようとしていた俺の頭の中に何か膨大な量の知識が流し込まれたのだ。
薄れゆく意識の中で、俺はその知識を貪った。
まさか犬の散歩中に拾った透明な果実が原因でこんな事になろうとは……と冷静に思う一方で、よくも俺を殺そうとしてくれたなと思う激情が理性の軛を外させた。
 俺の身体は現在、全身が不可思議なバイオナノマシン細胞で構成されている。
 何故『不可思議』と頭につけているのかと言うと、流し込まれた知識が俺自身の感情や記憶に反応して自動的に体細胞をコンバート(変換)した為だ。
 お陰で機械の様な人間、人間の様な機械、或いは別のナニカ。呼び方は様々あると思うが、少なくとも化物と称されても過言では無いだろう生物?になってしまった。
 激情をトリガーに変身までしてしまったのには俺も驚いたが……話を戻そう。
 あいつは「神の定めたルール」と言っていた。
 そんなモノがあちら(地球)に実在していたとは知らなかったが、皮肉な事に此方(異世界)に来て最初にそれらしい奴等に会ってしまった。
 あの変な実といい、あちらには俺達(現代人)の知らない何かが在ったのだろう。
 残念な事にあのパツキンの姐ちゃんには逃げられてしまったが、そんな奴等が本気で俺を危険と判断し、こんな場所へと弾いたという事は、恐らく簡単には戻れない様にしている筈。
 何とかセキュリティホールらしきものでも見つけられればいいが、多分絶対時間が掛かる。それに、折角異世界なんてレアな場所に来れたのだから暫く此方で過ごすのも悪くはないかも知れない――なんて事を誰にも邪魔されない安全な場所。宇宙空間に漂いながら考えたりしているのだが、そこで新たな問題が現れてしまった。
「……」
 視界には青々とした惑星が二つ収まっている。
 一つは勿論、俺がその場を後にした異世界のモノ。
此方は見知らぬ地形も然ることながら、その大半が緑で覆われた『緑の惑星』といった所だ。
 緑なのに、青という表現で捉えてしまう所に自分の年齢を意識させられてしまうが……まぁ、それは良い。
それは良いとして、もう一つの方が問題だ。
視線をそちらに向けると、その大半が海に囲まれているのであろう青く輝く惑星が見える。
「……」
 距離関係的に言えば月の様なモノなのだろうが、俺の知る月はあんなに生き生きとした衛星ではない。どちらかと言えば、その容姿は地球を思わせるモノである。
「……」
  時間帯の関係なのか残念ながら陸地は見えないが、あれ絶対ハビタブルプラネット。地球じゃないにしろ、あっちにも絶対何かがいるとみた。
 一体どうなっているんだろう、この世界は。
 う〜ん……気になる。
取り敢えず、周りにある流星物質を加工して此処に拠点作りでもするか。何をするにしても先ずは衣食住を整えてからだ。宇宙空間なら外敵も居ないだろうし、座標登録をして何時でも転移出来る様にしておけば問題はないだろう。 
 俺は体内で精製したナノマシンを周囲に散布し、一眠り(スリープモードに移行)する事にした。
 



 

 




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