クリティカル・リアリティー

ノベルバユーザー390796

第二十二話 覚醒めた罠

 扉を開く。中には、手縄をされ口を塞がれた命衣、雅姫が窓際にぽつんと居た。
 急いで二人の縄を解く。説明する暇も無いので急いで避難先を探すが来た道を辿るわけにもいかない。逃げる先は窓しかない。十五階からどうやって降りればいい?


「……弘成、どうする?」


 急に聞かれて戸惑ったが簡単に答は出せそうにない。二人の能力を使ったとしても無事でもないか。
 激しい爆音がどんどん距離を詰めてくる。その目の先にいたのは健人だった。そして怪物。
 健人は叫んでいる。


「俺はぁ! 決めたんだ! 一緒に生き残るって! 明人も……利名子も……俊樹も!」


「ナァ、その三人はどうしたんだ?どっかに置き忘れてきたのか? ――いや、誰かに『殺された』か?」


「三人は絶対生きてるッッ!!!」


 その言葉に健人は顔を歪ませ反論しようとする。しかし言わせないというように陽向は口を挟み手の平を怪物に向けた。健人はそれに気づき、陽向の正面に立つ。液体は健人のすぐ後ろに迫る中、健人は口にした――


「手を伸ばすな」


 健人は陽向を庇い、俺達の所まで勢い良く飛ばされてきた。
 これで逃げることができる――だが、他の人達はどうすればいい。もう逃げていると信じるしかない。知音は近くにある物を怪物にぶつけ時間を稼いでいる。本当に飛び降りるのか。


 窓の外はテラスになっておりある程度の空間こそあるものの、部屋よりも小さいため全員が同時に飛び降りられるほどしかない。


「飛べっ!」


「……嫌だ」


 陽向は拳を作り、構える。どうして。


「知音も分かってる、アンタは逃げるつもりなんてない。ここで死のうとしてるよね?健人!!」


「――死……? 死ぬつもりなんて……ソラ?」


 そうやって、健人は胸に手を当て、目を瞑る。


「……いい考えがある。この命令に従わないで死ぬって作戦がな。どうだ?」


「は?」


「……もう近づくな俺に!!」


 ブォン!と大きな黒い影が俺達を勢い良く飛ばす。俺は空へ飛ぶ。そして、落ちていく。誰かが叫んでいる。風の音で聞こえない。耳を手で押さえつけられているようだ。
 ――違う。これは本当に抑えられている。手ではない、影だ。落下する俺達全員を包み込んだ。
 助かるのか?健人を犠牲にして。
 そうして俺達は地上へ着いた。




















































 * * *
 しばらくの間の記憶が無い。弘成達はどうしたんだ。意識を乗っ取られたか?体を動かそうとしたがピクリともしない。片足と片腕が折れている。負けたのか。結局誰も生き残れなくて、死んだのか。近くから火の気配を感じた。あの攻撃では火は出ないはず……まさか放火?考えていると、足音が聞こえてくる。複数いる。幸いにも、まだ能力は使える。『彼女』も生きているということか。
 足音はすぐそこまで近づいていた。


「しぶといな、『ソラ』は」


「なぁ『カイ』。俺は負けたのか?」


「……普通の人にしては動けた方だが、その抵抗は無駄だったな、軟弱な体なもんで折ってしまった。お前に会いたい奴が居たんで連れてきてやった」


 会いたい奴? 誰だ?


「――!!お前ッ……まさか……能力持ちだったのかよ……なんで俺達を殺そうとするんだッ!!」


「なんでって……夢を叶えるためさ」


「げーむ……おーばー……だね…………」


「……コンテニュー……するさ」


「俺が殺してやるよ」


 怪物を含めた五人、いや、『クラスメイト』達は俺の首を絞める。意識が無くなっていく。感覚も。視界さえ。












































 * * *
 時間は23時。財団は焼けている。意識を取り戻した俺はあたりを見渡す。ここは近隣の森か?陽向と知音が先程まで気絶していた俺達を囲み周囲を確認している。


「……すまん弘成。健人は、救えなかった……」




 知音……。だが俺はその言葉を聞いておきながらも前に一歩進む。そして、駆け出した。
 あの三人と永久さんに ……健人を探しに。知音と陽向には俺を追いかけられる体力は残っていなかった。




 室内に入る。煙が充満しているがお構い無く階段を上り、ようやく十五階につく。口を抑えながら、生存者がいないか探し回る。
 しかし視野は煙によって次々に塞がれていく。疲れからなのか少し頭がふらふらしだした。
 そんな時、背後からガスマスクのような物を顔に押し付けられる。抵抗しようとしたが聞き慣れた声が耳元に当たる。


「烈王さん……!?」


 振り向くと同じくガスマスクを着けた烈王さんが居た。肩からは血を滲ませた跡が見える。


「俺について来い。避難所があるんだ」


 烈王さんについていくと、少し進んだ所で扉を開けた。そこは煙が一切無くもちろん火災も起きていなかった。
 さらに奥の部屋に入ると何名かがそこにいた。
 暁さんと軽屋さん、それに――。
 ――いや、もう一人は見たことがない。
 見た感じ小学生だろうか。肌は透き通るような白さ。髪の色も白髪、そして痩せているようだった。


「――彼は、とても病弱で、15階で命衣さんや暁君のように家族として生活してる。まあいつも部屋に篭ってたから気づいてなかったと思うけど」


「弘成は生きてて良かったぜ。ところで、なぜここを彷徨いていたんだ? 他にも生存者はいるか?」


「健人と明人、それに利名子と俊樹、永久さんを探してて……他の人は全員生きています」


「――明人君と俊樹君は、怪物に殺されていた。利名子君は死体すら見ていないので分からないが……恐らくは死んでいるだろうね」


 ボソッと軽屋さんは語る。


「……と言うことは二人の死体を……見たんですか?軽屋さんは」


 半信半疑で尋ねる。そんなわけがない。死んでるなんてことは……!


「間違いなく、彼らは死んだ。明人君は地下で、俊樹君は二階で殺されていた。可哀想に、二人とも目から涙を溢して亡くなっていたよ。体は焼け、爆破跡まで見えるほど大きな攻撃を受けていた。多分、利名子君も殺されただろうね…………それと、一つ分かったよ。どうやら怪物側のスパイ……協力者が財団の中にいるみたいだ。そして、その人物は……」
「――虎羽永久だ」


 そんなことを言われたとしてどうすればいいんだ。あの怪物に……三人は殺されたのか。永久さんは俺達を裏切っていたなんてことも。非日常的世界で、初めて覚えた感情。それは、紛れもない『殺意』だった。


「――弘成。お前いつの間にそんな『刃物』を持った!? おい、まさかお前も能力を……!」


 烈王さんの声で意識が戻る。気が付くと右手には単に食事用というようなナイフではなく、掻っ切る事が出来る凶刃な殺意を握り締めていた。手を離すとその塊は消え去るだろう。しかし、本当に手を離してもいいのか。これは、恐らく14週目以前に手に入れた能力だ。もしかしたら、これを落としたら二度と使うことが無くなるかもしれない。ならばこれでやるしかない。
 俺は、憎い。あの、怪物が憎い。あの、覆面が憎い。何も出来なかった自分が、一番憎い。だからこそ今、怪物を初めて立ち向かう覚悟が出来たのかもしれない。
 また始まるまで十五分。
 彼らのいる部屋から飛び出す。
 まず、この烈王さんから貰ったガスマスクは見覚えがある。俺が生き返って初めて襲い掛かってきた敵の一人がつけていたマスクだ。ということは少なくとも彼らはこの建物内にいる可能性が高い。まずはこの15階を再度探すか?
 そう迷っていた時だった。さっき登ってきた階段から枝が折れるような音が聞こえだす。それに伴い、煙が次々と薄くなる。
 それは待ち望んでいた事だった。やけにテンションが高く、軽く不快な気分になる声が耳に残る。


「やぁ弘成クン♪久しぶりだね! 君が握っているソレ! ようやく思い出したようだね……君達の運命と同じだよ。掴んで離さないでよね?」


「……顔が見れるかと思ったが、律儀に顔を隠してるな。悪いが、復讐してやるよ。残りの時間で必ず殺して記憶を奪ってやるから」


「…………………………それは今の君じゃ無理だね♪」


 さようなら。

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