クリティカル・リアリティー

ノベルバユーザー390796

第二十一話 少年の最終日

「……はぁ、眠いね」


 俺、健人は欠伸をしながら独り言を呟き今は十五階を巡回している。最終日にもなるとここに元からいた人達も慌ただしい。といってもここが一度も襲われたことはないらしいが。
 外はもう直に朝日がとぼってくる時間か。流石大手企業、建物は大きいし中は広いしで回る範囲がとても多い。


 ん? 命衣さんの部屋で寝ているはずの雅姫さんが正面から近づいてくる。


「寝てないと駄目だよミヤビさ……⁉」


 突然、平手打ちをされた。それだけじゃない。腹を蹴られ、崩れた所を更に蹴りを入れられる。


「な……なんで」


「ごめんねぇケンちゃん。私『あの人』についていくことにしたの」


 あの人……?


「……君。今死んだら不味いの分かってるよね。私の取引しない? 『私達の能力』を使えば生き延びることなんて容易だと思うの。あの二人も利用したいわね」


 その時いきなり胸が苦しくなり、胸に手を当ててみると初めて能力を使ったときのような高揚感を感じた。目が燃えるように熱い。意識が飛びそうだ。間違いなく、『ソラ』が俺を操ろうとしている。何故だ?
 ……そうか。『セイギ』というのか。


「俺はお前に従わねえよ」


「――じゃあ死んでくれ」






































 あまりに暇すぎて適当に散策していたら、変な所に出てしまった。幾ら地下といえど謎めいた場所なんてあるわけ無いとたかをくくっていたが、ここは何処だ?
 とても暗い。ゲームとかでありそうな構造になっている。なんというか怪しげな研究所のようだ。中央にある不思議な物に近づいていくと、その付近に見たことのある人物が立っていた。


「……明人か」
 その直後、爆発音がその室内に響き渡った。
























 朝日は登っていた。しばらくの間気を失っていたようだ。既に建物には生気等存在せず。恐らく避難しているか、それとも全滅したか。俺は見たことのない巨大な化物に対峙し悟った。右手で明人の頭を持って引き摺っていた。
 他の皆は何をしているんだろう。血塗れになった腹を抑えながらぼんやりと化物を見つめ考えた。


「健人!? 大丈夫か!?」


 化物がいる方向からとは違う方向から聞き覚えのある声が聞こえてくる。知音達だ。化物に気づいてないのか?


「こっちに来るな! ここは俺が食い止めるッ!」


「何を言って……!!」


 俺は壁を作り近づくこともさせず、怪物と知音達が対面しないように防ぐ。


「望月姉弟と貴田兄妹を探して守ってくれ」


「あ……明人達は……?」


 よく見ると知音の後ろには弘也、陽向、真凛しかいない。陽向に関しては早くこっちに来いとでも言いたそうに手招きしている。


「三人は『俺達』が助ける。心配しなくていい……」


「仲間って……!! 誰がいるんだよ!! 俺達も戦う、だから……」


「皆には、俺が一人に見えるのか?」


「……え……?」


『俺は……独りでも、"一人"じゃない』


 何処から風が吹き出す。それは間違いなく俺が生み出し、自分の意志で動かしている物だ。俺の体に纏わり付いてくる。鎧のようで、衣のよう。何故だが色もつきだし、真っ黒である。だが、輝きを放っていた。


「――後は、任せたからな。必ず生きろよ……」


 四人は立ち去る。


「お別れは済んだか。」


 そう言うと怪物は右手で握っていた明人を放り投げ、背中辺りから真っ赤な血のような液体が飛び出てくる。どうやらこれが爆発の素らしい。
 まず、前に思い切り踏み込み、これを蹴り上げる。炸裂音がするが、空気によって守られているため痛みは何一つない。次に液体と液体の間をすり抜け壁を足場にしながら怪物へ接近していく。怪物は仁王立ちしたまま微動だにしない。右足で踏ん張り、左足を振り切り、空を切って、空で切る。これまでの相手ならこの一撃だけで死ぬだろう。それにあの二人の怪物にも致命打に成りかねない程の一撃にまで成長しているはずだ。


 だがそれも、いつの間にか発生していたその液体に阻まれる。
 ビチャ、と破裂した液体が俺の纏に張り付く。この程度の爆発なら余裕で耐えられる。筈だった。液体の爆発により視野が多少狭くなっており、その死角からの左手の拳で殴られる。なんと、その手からも液体が吹き出した。


「……ッッッッ!!」


 声にならない程の痛みが俺を襲う。けれども、左肩を殴られた衝撃により必然的に右腕が前に来る。奴の右胸を殴る。殴る直前に膜を張り、当てた衝撃と共に空気で貫こうとするつもりだ。
 胸に当たる。ズボッと、胸は指を飲み込んだ。


「笑えるな、なんで俺の能力が、一箇所からしか出ないと思っていたんだ?」


 俺と、いや、『ソラ』と同じだ。身に纏えるタイプだったのか。
 腕を伝って全身へと液体は伝染する。あまりにも一瞬で守りを固める余裕はなく、俺の体は爆破された。
 軽く10m飛ばされる。
 それでも――空圧は解けない。
 放り投げられた明人の身体を見つめる。呼吸をしてないように見えた。仮に明人の体を抱えながらこの怪物から逃げ切る、もしくは倒すというのは確実に無理だ。なら、明人を見捨てるしかない。
 そして、逃げるプランは一つだけある。再び立ち上がった、俺は。

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