クリティカル・リアリティー

ノベルバユーザー390796

第十八話 終わりが近い

 目の前は真っ暗だ。私は確か、敵を蹴散らして変なやつが逃げて行くところまではしっかりとこの目で見ていたはずだ。もしかしてだが、私は死んだのか?死んでいた時の感覚とは程遠いが考えれば考え込むほど不安は強くなる。


 ふぁ〜あ。


 気の抜けた欠伸が前方から聞こえた。それに反応したのか隣からも欠伸が聞こえてくる。更には地は揺れ、というか自分の足は浮いていて何かに縛り付けられているようだ。
 んっ。と思わず動揺から声が漏れてしまい、隣にいる何者かが私の肩に何かを当ててくる。


 重い瞼を開けると視野の先には暗闇でもなく知らない人でもなく、操縦席には雅姫さんと、助手席には知音とその上に唯智君、隣でもたれ掛かっていたのは真凛で、その奥には利名子がうとうとと眠っていた。
 バックミラー越しから知音はニヤニヤしながら小声で話しかけてきた。


「おいおい、何時間眠ってんだよ。もう七時だぞ?」


 雅姫さんも私が起きたことに気づいてミラー越しに微笑みながらおはよう。と声をくれた。知音とは違うね。


「……しょうがないな、俺が今まで会ったこと説明してやるか?」


「あーいいよいいよ、疲れてるよね? さっさと寝ていいよ」


「っておい、分かった許してくれ。話させてくれ」


「そうよ? 知音クンたら陽向ちゃんに話す為だけに健人とじゃんけんまでしてたのよ、聞いてあげたほうがいいよ〜?」


 雅姫さんは口角が上がって知音は少し照れながら誤魔化している。二人は打ち解けるの早いな、と思いながら隣の真凛と利名子をみる。二人の寝顔はとても可愛らしい。そんな所も羨ましく思えるほどだ。


 ……そういえば、他のみんなはどうしたのだろうか。ここにはいない。視線を外に向けると暗くて初めは気づかなかったがよく見るともう一台車が走っていた。
 確か『貴田財団』に向かっていたんだっけか。もう一つ疑問が生まれた。


「この車って何処にあったんですか?」


「……盗んだんだ。二台とも」


「え」


「もう持ち主さんは、亡くなってたしね。……一応言っておくけど私とレオは免許持ってるからね!?」


 納得した私は窓の外を眺め今後の事を考えた。




 しばらくの間景色を眺めていると、遠くから大きな建物がチラチラと見えていた。あれが貴田財団か。建物は遠くから見ても大きく、二十階ほどあるんじゃないだろうか。


 入口付近まで近づくとスーツの大人が四人ほど待っていた。社員かな。
 烈王さんと雅姫さんの顔を見ると有無を言わずに誘導を始める。
 二人を起こしてそれぞれ車を降りた。大きいなあ。


 エントランスに十二人で入るとそこには一人の青年ともう一人女学生がいた。
 男の方は髪の色は赤く、顔立ちはとても整っていて肌は透き通るような白さだ。烈王さんと同じくらいの背丈だろう。
 女の方は髪の色は金色で顔も男に似てとても整っている。恐らく兄妹だろう。
 男は烈王さんと雅姫さんと唯智君を見るとハグをしようと近づいてくるが、女の方は少し戸惑った様子でこちらを見ている。


 私達は後ろでじっと待っていると、二人が九人の紹介をしてくれたようで男は喜んで応接間に案内してくれる。


「オレの名前は貴田暁きだあきら。宜しくな!」


 一人一人に会釈した後握手をした。


「で、こっちが妹の命衣メイ、俺は烈王達と同じ歳で、こいつは十七歳だから永久君と一緒だな。若い者同士仲良くしてやってくれよ」


「……よろしく」


 体はこちらを向いているが視線はそっぽを向いていた。しばらくの談話後に暁は立ち上がり、四階の個室へと案内する。烈王さん経由だったためか特別感のある、まるでホテルのようだった。
 個室に持ち物を置いてから二人に今度は案内され、食卓まで移動し、用意された料理を十四人で召し上がった。
 今まで通りの団欒とした食事だったが、今日は様々な出来事があったからか、早めに切り上げ、個室に戻った。
 改めて自分の身体を見つめる。昨日までと全く変わらない体型に心臓の鼓動。でも、何処かで彼は生きているんだ。後悔はないが、本当にこれで良かったのかと自問するが、答えは出せずにそのまま眠りについた。

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