クリティカル・リアリティー

ノベルバユーザー390796

第十三話 静寂(5)

 俺達は疲労していた。あれから数十分経ち、時計の長針は8をまもなく指す頃に海廊中に着いた。数日ぶりに訪れた学校は以前の姿で残っておらず、まるで廃墟のようだった。


 南生徒玄関に入るとすぐに腐敗臭が立ち込み吐き気を誘う。玄関の右手にある職員室に駆け込むも、こちらも臭いがひどく、とてもじゃないが長居は出来ない感じだ。数人の先生の死体があったため、俺一人で物を探り、そのうち二人のカバンの中に飴玉の袋、スマートフォン、充電器と役立つ物が入っていたので貰うことにした。


「……そろそろ二階にいかないか?」


 明人は俺達の教室に行きたいようで俺を急かす。俺は歩きながらスマホを使い、二人の元へ歩き出す。スマホにロックをかけない先生だったので全てが使えた。
 ……メールが一通送られていた。先生の家族からだった。流石に中身は見ないが多分娘さんからだろう、そんな思いにふけるがすぐにブラウザを開き何か情報がないか探る。


「……アタシも早く教室に行きたいからさ、弘成急いでよテレビがつくかもしれないし」


 陽向はゆっくり歩いていた俺の手を引っ張りながら職員室の隣にある階段を上がる。一階も荒れていたが二階もかなり荒れていて、階段の所には何もなかったが教室に近づく事に臭いが増す。


「西側だったからよく分からなかったけどみんな死んでたんだね……」


 陽向は哀しい目をして呟く。
 この学校は教室エリアとその他エリアの南北に別れており、その中でも教室エリアは二つあり普通教科や学級活動の教室クラス、もう一つは技能教科共有教室がある。普通の造りだが、それぞれが広いため学校の人は自分達の教室を東、技能教科教室を西、それ以外を南と呼んでいる。
 呆気にとられたが、すぐにスマホに意識を向ける。時間も8時になりそうだ。


 俺達の二組居場所に入る。他の教室とは違い血の匂いは一切ない。――静寂、心地良くない。


「……どしたー弘成、ドアの前からどいてくれよ入れねえ」


 ――現実に戻される。ドアの前からどき、中に入りながら俺はスマホを見直し今度は動画サイトを見る。
 今回の件で話題になっていた。『ヨミ島、異変発生か!? 立ち入り不可能!?』『今回のヨミ島消失事件。僕自身の考察』


 ……なんだそりゃ。ヨミ島、というのは正式には世満島、どこの県に入るか決まらない騒動があったらしいが、結局トウキョウが管理する事になった島で、俺達が住む島だ。海外との交流を深いため移住してきた外国人も多い。又、国際結婚も少なくないのでいわゆるハーフ、少なからず存在している。
 海廊町はヨミ島の中心部にあり島の中で一番賑わっている地域でもある。


 もう一つ、目に止まるものがあった。
『例の企業のヨミ島との関係性は!?』
 ……企業? 向こうの人達は怪物の事を知らないのか?
 色々と考えていたが、とにかく動画を見ないと何も分からないよな。
 動画をタップし読み込みが始まるも、読み込みはすぐに終わり、画面に文字が表示される。


 〈この動画は投稿者、もしくは権利者の権限によって削除されました。〉


 もしやと思い、先程の2つの動画を読み込むが同じ文字が表示されるだけだった。
 前から声が聞こえた。テレビからだ。テレビではヨミ島について、さっき見ようとした情報を話していた。どうやらテレビは放送しているようだ。
 陽向と明人は今の現状、憶測を見ていて嫌気が差したのかチャンネルを変える。変えたと同時にテレビでは聞き慣れた曲が流れ出す。『物理16世』だ。それから俺達は食い入るように画面を見つめる。気が付いたら30分経ち、次のアニメ『キンニクプリズン』が始まっているが黙って画面を見続けている。現在いまを忘れるのにちょうどいいかもしれない。


 番組が終わる頃、俺は学校の外が何やら騒がしいことに気づいたが、二人は取り憑かれたようにテレビを見続けている。
 胸騒ぎは止まらず、俺は二人に


「ちょっと見てくる」


 と一言伝えてから一階に降りる。音の方向に近い北門に向かう。
 音が近づいてくる。誰かが襲われている? 門の前に着いた頃には音はもっと大きくなっている。
 ドゴンと心臓に響く重い音と同時に二人組が現れ音の正体を飛んで回避し、それは右から左に通り過ぎていく。二人組は飛んだまま門の中に入り綺麗に着地する。二人の見た事のある体格、髪型、そして雰囲気、間違いない、この二人は!
 二人は同時に顔をあげ、俺に言葉を伝える。


 ――やっと会えた。


 ……二人は、怪物だった。

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