クリティカル・リアリティー

ノベルバユーザー390796

第九話 静寂

 あの者達に襲われてから数時間経った。朝日が眩しかったが、今ではもう慣れ、昼中であった。


 いつも通りに暮らしていたこの街、海廊町かいろうちょうは、突如として起きた出来事に正気を失い、一夜明け、完全な静寂の場として化してしまっている。
 ……正直言うと、陽向の精神面が不安だ。このまま連れ回したら、それこそ共倒れだ。それは駄目だ。


 隣にいる明人も、俺達に気を遣ってか、明るく接しているが、所々できついねーと言いながら顔が引き攣っているのを見るに、限界を迎えているだろう。
 幸い、今いる場所は住宅街、一軒家、アパート、マンション、近くにはコンビニかスーパーがあったはず。
 それに、小学校にも近いので何処かで休憩を入れたいところだ。




 * * *
 それから数分経った今、ようやくコンビニを見つける事ができた。言い訳がましいがここら辺はあまり遊びでも訪れない地域だったので、勘で歩き回っていたのが時間がかかった理由だ。
 車なんかは一台しか止まっていない。


 そもそも、車の出入りは無理そうだ。何故なら、住宅街ではそこまでだったが、道路、交差点では車で大渋滞が起きていた。そして、その車達は揃って何処かの窓、あるいはドアごと破壊され、車内では血が飛び散っていて、その中に血だらけの人間がいるだけだ。


 ということで、コンビニの中に入り、人がいないか確認してみることにした。電気は通っているので、人はいるかもしれない。
 まず入ってから、陽向がお手洗いに行きたがっていたので行かせた後、店内と外の近くに人がいるか確認してみるも、人の気配すら感じられず外は断念、店内にも居なかった。それと同時に店内の時計で時間を確認すると、明人の時計と同じ時を指していたのでズレはないようだ。


 その後、それぞれが一度お手洗いに行き、足を休めることにした。もちろんコンビニなのでたくさんの食料品が揃えてある。こんな非常事態に誰も盗んだりしていないのはそれだけ異常なことなんだろう。


 今の状況で勝手に食べても怒られないだろう、と冷凍コーナーのアイスを取り出した。
 疲れた顔を陽向も明人もしていたので、二人にもアイスを選んでもらった。
 冷えたものを食べたおかげか、落ち着く事ができた。


 だが、却ってそれが引いちゃいけないトリガーを引くことになった。
 緊張の糸が切れた俺はなぜだか涙が溢れてしまった。それに釣られたのかわからないけど、陽向まで泣いてしまった。
 恐れていた事を起こしてしまった。
 俺はいつの間にか腰を付いていた。立ち上がる気も起きずに、その場でうつけていた。
 この空気に耐え兼ねた明人は外で空気を吸うことにしたらしい。らしいというのはこのあと俺と陽向は軽く衝突をしたあとに寝ていたようだ。


 時間は経ち時刻は19時、明るい日差しはもうなく、あるのは月の光だった。
 俺はトイレの近くにある飲料水の陳列棚の近くで寝ていたようだ。それに対して、陽向は入り口近くにある、ATMの近くで寝ていた。月光に照らされた彼女を見ると、心が落ち着いた。


 俺の隣には明人がとても穏やかな表情で眠っていた。
 俺も外で空気でも吸うか、と独り言を呟いた後、コンビニの外に出る。
 街が襲われだしたのは昼頃だったので、ここ以外に電気がついている場所はほとんどない。


 ふと、空を見上げた。普段は見ようともしない空。
 そこには無数の星々が置かれて、それぞれが光り輝いている。強く光っている星もあれば弱く光る星もある。
 ……まるで今の自分達のように思えた。
 弱く光っている星が自分。
 強く光っている星があの不気味な人、そして怪物。
「おい。」


 背後から急に声をかけられ、思わず腰が抜けそうになるが、
声の主は明人だと言うことに気づき安堵しつつも緊張が隠せなかった。
「……なんか、いつもの弘成じゃないな、大丈夫か?」


「大丈夫だよ、大丈夫。三人ともなんだかんだ無事だしさ」


「……弘成、いや、はさ、知音みたいに責任感はとても強いんだ。良いことだけどさ、無理してるの分かりやすいぜ? ……知音と違って口に出さない分、顔に出てるぜ。」


「はは……そうか。口に出したところで解決は出来ないだろ? だったら出さないほうがいいに――」


 ――そうやって。押さえ込むなよ。


 …………何も言えなかった。答えが見つからなかった。


 俺はこの夜空について話を反らした。正直、自分でも駄目だなと思ってはいる。でもしょうがない。
 俺は知音みたいになれないから。皆は今、何をしているんだろうか。心配だ。
 また会えたら……いいな。

「現代アクション」の人気作品

コメント

コメントを書く