クリティカル・リアリティー

ノベルバユーザー390796

第七話 三人後編

 二日間、いや、ずっと前からだったか。無茶苦茶な事を、永遠とし続けているのは。
 俺は何をすればいい? 健人と共に戦うか? それとも真凛と俊樹を守って逃げるのか? 考えろ。俺一人じゃ無理なんだから。
 ……こんな時に弘成がいれば…………


「ね、ねえ! 知音どうするの⁉」


 真凛の声が頭の中で響いている。どうすればいいんだ。どうすれば。頭の中で様々な考えを巡らせる。その時だった。


 ――――――聞こえるか? お前だよ。お前。


 どこからか聞こえる声。さっきまで聞いた声だ。その声は、怪物。今対峙している怪物ではない。俺の中にいる怪物。


 ―――お前、悔しくないのか?
 悔しい? 悔しいってどういうことだよ。


 ―――簡単に言わせてもらうぜ。お前は今、操られている。
 操られている……誰に? お前にか?


 ―――俺だけじゃない。ここにある全てだ。
 全て……


「この状況。お前の仲間。それだけじゃない。お前自身にでさえ。知音という人形なんだ。今のお前は、意思を持っていない。偽りの自分に操られているんだ。今だって、誰かに操ってもらえるのを待っているんだ。」
 何が言いたいんだよ!


 ……え?脳内会議は一度解散する。外の様子は変化していた。


「下がれッ!」


 鬼のような形相をした健人は俺を押し退け壁をつくる。戦う前の健人から感じたあの殺意は抜け落ちていた。彼も人形なのか?
 俺は気づいてしまった。俺との違いに。俺は操られている。健人は、重なっている。さっき助けてもらっただけの怪物と、呼吸を合わせ、ものにしている。


 声は俺に問いかける。


 ―――お前もああなりたいんだろ?だったら、俺に合わせろ。俺についてくるんじゃない、俺と共にだ。


 …………そうか。お前が俺を操ってたんだな?


 ……偽りの俺。表に出ている俺。強がってる俺。弱い俺。その声は怪物の声でもあり、俺の声でもある。


「さあ、どうするんだ?『お前』の声で話してみろよ。」


 俺は……俺は‼
 ……何が正解か分からない。それでも。


「……俺は、少なくともお前には操られない。そんな答えはダメか?」


「……やはり、お前を選んで正解だった」


「怪物、それは違うぜ。俺がお前を選んだんだ」


「俺の仲間としてな」


 そう言うと、怪物は優しく微笑んだ。今度は俺の番だ。






























「健人! 俺に任せろ!」
 知音が俺の肩を掴む。
 いつもの目とも、さっきまでの目とも違う、目から一筋の光が刺さっているようにも見えた。
 変わったのか。






















 体が軽い。


「来てみろ! お前らのような子供に負けるわけがない!」


 体は光を纏っている。中身はドロドロで薄汚れている。悪でしかない。
 距離としても目の前。残念だが、詰めるって手は愚策だったようだな。
 俺は怪物の前に殴りかかった。お前の弱々しい光なんか喰らうわけがない。


「な、なにぃ‼」


「油断したな?」


「知音、これを使え!」


 空気を固めた、剣を渡すためにこちらへ投げられる。
 俺は殴りながら剣を浮かせ、剣を怪物に切りかかせる。
 俺の拳も剣も効いている。これで弘成達に会えるのだろうか。


「……お前だけには負けたくねェ……お前だ、ソウ!」


「今戦ってる相手は知音シオンだ!それが俺なんだ!」


 剣を手元に寄せしっかりと握り締める。
 そして振り下ろす。重い、一撃。
 その剣は怪物を頭部に当たり、鈍い音を立てながら血を流している。構造は人間そっくりなのか?


「……さすが人間様ダァ……! 甘いぜ……フンッ」


 ―――ガシッと音と衝撃が走る。
 俺の胴体を掴んで力で押し潰そうとしている。苦しい。
 だが、こいつも焦りからか一つ忘れていたな。


 ―――お前が付けているグローブだって操れるんだぜ?
 グローブを動かし、思いきり跳ね除けた。
 んっ? こいつの手とグローブ、一体している……?
 怪物の両手が吹き飛び、雄叫びを上げる。


「知音、そいつから離れろ!」


「いや、俺が倒すッ!」


「そうじゃない!危ない!」


 まさか……手から放つわけじゃないのかよ⁉
 怪物の全身が光りだす。
 この感じは
 ―――ハッタリだ。こいつはもう打てない。そんな気力は残っていない。刺さったままの剣を頭を引きずりながら掴み直す。そしてもう一度、今度は頭に突き刺した。
 意外にも脆く、貫いた。
 光は、ゆっくりと消えていく……


「ま、負けかよ……」


「な、なんでお前らはこいつらの味方になってんだよ……」


 俺達はじりじりと退き出す。


「―――


 誰も返答しない。


「……けどよぉ……俺はお前らみたいになるつもりはないぜ……?」


「……誰かに生かされるってのはカッコ悪いぜ」


 虫の息だった呼吸が聞こえなくなった。
 荒々しい呼吸が四つ聞こえる。
 対して、冷静な呼吸が二つ、聞こえた。さらに、三つ、そして指では数え切れない程、声は聞こえないが、体中に染みていくように感じられた。生きてることが。
 ……弘成。お前も生きてるってことだよな。
 ―――その前に謝らないといけない相手がいる。
 俺は状況が読めていない利名子の所へ向かい店から出る。


「利名子」


「……ど、どうしたの?」


「ごめん」


「え、え⁉」


「お前の体使って酷い事をしてゴメン!」


「え! ひ、酷い事⁉ え、え⁉」


「もしかしてだけどさ、利名子、なんか勘違いしてないか?お前の身体を盾にしてすまなかったごめんな。」


「あ……な、なーんだ! ……多分死んでた……ってことだよね?別にそれ位いいよ。あービックリした!」


「ありがとうな」


 なんだか久しぶりに笑顔になれた気がする。釣られて利名子も笑顔になる。後ろからも声が聞こえだした。
「おいおい知音、一人でテンション上げるなよな、こっちは不安でしょうがなかったぜ」


「不安も何も……その場にいなかったじゃないですか! レオさん」


 奥では少し不安そうな表情の健人と、緊張が緩んだ顔の真凛、俊樹がいた。全員無事そうだ。


「とにかく……ここは色々と危険そうだ。移動しよう」


「どこか安全なところにですか?」


「いや――戻ろう」


「弘成達がいる所に……ですよね」健人の言うとおりだ。


「ああ、戻ろうか」


 この時はまだ知らなかった。ここから大変な事が起きるなんて。

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