クリティカル・リアリティー

ノベルバユーザー390796

第五話 逆転

 ……クソッ……健人まで倒れてしまった。レオさんは武器を持ちながら戦っている。利名子のためにも俺がしなくちゃいけないことは……!
 俺は怪物の横を通り抜ける。


「なっ……! 何をしてるんだ‼」


 まずは物を避けてやるよ。そう思っていたが何も飛んでこない、ラッキーだ。


「……何だお前」


 外のやつが話しかける。
 俺に出来る事。


「俺が相手してやるよ、こい」


 囮になることだ。


「何言ってんだお前……ありがとな。さっさと死んでくれ」


 挨拶代わりに放ってくる。俺は左に避ける。
















 知音、近づけないために囮になってくれたのか?
 俺達を信じてくれてるってことだよな。こんな、ボロボロで、もう死にそうな俺を。……久しぶりだ、この気持ちは。
 ……健人、お前のためにも。
「うおおおおお! もっと深くに!」
 加速は自分自身には使えない。ならば。


 俺はこいつの肩に触る。そしてこう言った。
「遅くなれ」
 弾丸のような攻撃が、殴るような速さになる。


「……こうなったら、俺の覚悟を見せてやるよ」


 一体何を……


「崩れろ!」


 その瞬間に天井は崩れる。向かいの店も崩れこちらに倒れ込む。いや、建物ごとこの店に突っ込んでくる!
 全身にありとあらゆる物が当たる。威力は凄まじく、俺は目を失い、片足はもう使えない。もう死ぬ。
 だが、鉾だけは離してはいない。離しちゃいけないんだ。妹の為にも。残った足で地面を蹴り、崩れていく建物に怪物を挟み全身の力を入れ突っ込む。


 俺は生きる。


『俺はこんな所で死ねない!』


 二人の言葉が揃う。
 ……何故、怪物のお前がそんなことを言うんだ?
 だったら、なんで人を殺してんだよ。
 考えた一瞬のうちに勝敗は決した。
 全身を見る事はできないが、鋭利な物が複数ヶ所刺さっているだろう。激痛が走っている。
 怪物の体にも複数箇所刺さっただろう。
 お互いの体は動かない。レオは音だけ聞こえる。
 お互いの荒い息遣い、崩れていく建物の音、砂煙の匂いがする。


「……終わりか」
「……まだ……生きたかったぜ」
「あの少年みたいに」「なりたか……




















 一分くらいだろうか? ずっと鬼ごっこをしている。ごっこで済む状況ではないし、遠距離でタッチできるチート鬼との。
 遠くから崩れる音が聞こえた。 


「くそっなかなか当たらねえな」


 歓楽街だろうこの街は複雑な道のお陰で向こうは当てられない。
 レオさんはどうなったのだろう。勝ったのか?
 もうしばらくすると、崩れた場所からか、何か生まれたような不思議な音や、変わった音がする。気になる。
 道を曲がる。
 人がいた。
「うぉっ!?」 


 驚いた。いきなり老人が現れた。


「……一体何があったんだ?」


「怪物が追ってきます! 逃げましょう!」


 そういったが、この人は年を取っている。逃げ切るのは厳しそうだ。


「やっぱり隠れてください」


「わかったよ」


 そういって急いで隠れていく。
 俺はこの人を守るために追われないと。


「お、待ってくれてたのか? ありがとよ死ね!」


 間一髪、避けきった。あの人が逃げた先にも飛ばなかった。
 道を曲がる。……そもそもなんで人がいるんだ?
 まあいい。自分優先だ。
「あっ」
 意識がそれてしまい、段差に躓いてしまう。追いつかれる。
 気づけば、ほとんど一周して戻ってきていた。
 三分か四分は稼げたはず。……後は……二人のために…


「死ね!」


 ……やっぱり、死にたくないな。
 光が向かってくる。
 グジャァ……
 恐怖で俺は目をつぶっていた。溶けるような音がした。


「お、おいお前!」「こっちだよ!」


 聞いたことのある声だ。


「間に合った……」「よくやったよ」


 この二人も。
「……おいおいふざけんな」


「なんでアイツが死んでて」


「なんでお前らは生き返ってンだよ」


 目を開けた。間違いない。健人は本当のことを言っていた。
 俺の視線の先には俊樹、真凛、健人、レオさんがいた。
 生きていた。生き返ったんだ。


「ありがとう」
「三人とも、俺の後ろにいてくれ」


 さっきまでいた建物を見る。瓦礫の下に利名子が見えた。光が見えた。
 俺は利名子を助けようと向かっていく。


「アイツを殺してやるよ!」
 敵は俺と利名子に向かって撃つ。健人はそれを防ごうとする。


「これは本気だ」


 膜が割れる音が聞こえる。


「嘘だ……破れるわけがない」


 健人の壁を破られたことで俺に一直線に向かってくるも、咄嗟に下がってなんとか避けられた。が下敷きになっていた利名子はボロボロになり、肌がさっきより露出する。
 酷すぎる。俺だって反撃したい。でも、手段が無い。誰か助けてくれ。
 足元を見た。何かある。光っているわけでもなく、汚れているわけでもない。
 不思議と生きている感触がある。手に取ってみる。


「クソッこっちにくるな!」


 健人は空気を固め、飛ばしているが飛距離もなく、か弱い。


「邪魔すんなよ、裏切りモンが」


 健人は同じようにバリアを貼るが一瞬で破られて肩にぶつかる。


 ずっと手に握っていた物が溶けていることに気づいた。地面にはおちず体に染み込んでいく。


「な、なんだよこれ」


 力が湧いていく。心も落ち着かない。中毒症状に似ている気がする。
 なぜだろう。さっき死んだであろう怪物の声が聞こえる。


「俺はお前を信じてる。」
 そう聞こえた気がした。
 俺しか俺を守れる奴はいないんだ。
 ゴミを浮かせ、ここの瓦礫全てを怪物に投げつけた。


「危ない!俊樹、真凛避けるぞ!」


 健人は俊樹と真凛を掴んで避ける。レオも同じく避けている。
 ここの道は車も通るほどの広さだが、ここのゴミは多すぎるようで向こう側がほとんど見えなくなった。


 利名子だけが残る。利名子は死んでいるので操れるようだ。利名子の腰を立たせる。今じゃ人形のように操れる。


 利名子を抱くように肩をつかむ。
 ゴミの向こうから光筋が見えた。
 俺は死体を盾にして守る。
 そして、怪物と目が合った。目の前の怪物は弱っている。
 俺がにでもなってやる。

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