俺が作った世界は融通が利かないようです。

SiRoAliceSs

最初の目的


   シスカと別れを告げ、とりあえず俺とユンナは歩き始めた。ここから旅が始まるのかと思うと、もう嫌になってきた。

   しかし、俺はふと思った、これから何をすればいいのだろうと。

   そうなのだ、目的という目的がない。

   まぁ、戦ったり、経験を積んで強くなったり、仲間が増えたり、強い武器とか防具とか手に入れたり、ラスボス的なやつを倒しに行ったりとか色々あるとおもうのだが、現段階では何も思い当たるところがない。

   戦うのは嫌だし、強くなったらそれはそれでヤバいのと戦う羽目になりそうだし、強い武器とか防具とか持ってて狙われたりしたら嫌だし、ラスボスなんて論外誰かがその内やるでしょ思考だし。

   そもそもこうなる事を考えてなかったので、村での【もし冒険者になったら】という項目の授業があったのだが、ほとんど聞いてなかったのがここにきて痛い。

  「なにか考え事ですか?」

   横並びで歩いてたユンナがひょこっと顔を覗かせて聞いてきた。

  「あ、いや、そういえば何も分からないままに旅に出たから何をどうすればいいかわからないんだ。旅の目的とか分かんないし。」

  「そうですね、ざっくり言うと魔物の殲滅が冒険者に課せられた使命と言うのは習ってますよね?」

  「へぇー、そうなのか」

  「えっ?」

   なにその鳩豆顔は、知らないもんは知らないし。

  「村の授業で習いませんでした?」

  「興味のないことは聞かない主義なんだ」

  「あ~、これはやっちゃってますね」

  「いまなら俺もそう思う」

   大人になってもっと勉強しておけば良かったって思うよね、それだよそれ。なんて思ってたら「やれやれ仕方ないですね、いいですか」とユンナの特別授業が始まった。

  「――というわけです」

  「なるほど、頭が痛くなってきた」

   ユンナは俺に、この世界、冒険者、魔物、わかりやすく説明してくれた。ところどころ知ってることもあったがかなり助かる。

   頭の中でまとめてみる――

   この世界には神がいたという。

   神は天と地を創り、光と闇を生み出し、空と海と大地を創った、更に星を創り、昼と夜と季節が生まれた。そののち、植物や動物、それを治める人を創ったという。

   そして最初の人類に神はこう言った。

  「この地で何をしようと私は口を出さないが、この園の善悪の知識の木になる実だけは決してたべてはならない」そう言ったという。

   もちろん神の言いつけを破る理由などないので、人々はその木に触れず近寄らず、不自由のない暮らしを送り子孫を繁栄していったそうだ。

   そうして数千年もの時が流れ、地上にはたくさんの植物や動物、そして人々がいた。

   人々は平穏に暮らし、犯罪も無く平等でつつましい生活を送っていたという。

   そんな平和な世界の中、ある事件が起こった……【神変しんぺん】である。

   神は万象を想像し、人類に知識の実の忠告後は一度も姿を現していなかったというが、ある日突如世界は闇に覆われ神と名乗る存在が現れたという。

   その神はこう言った「この世界の神は死んだ。私こそはこの世界の新たな神であり、お前たちの最大の敵となろう」と。

   そのときから世界が大きく変わった。

   まず最初に、それまで人の心に存在しなかった【負の感情】が生まれた。そして【寿命】が生まれた。今では考えられないが、行くとし生きるもの全てに死というものがなかったらしい。

   そして、生き物全てに様々な感情が生まれる。今では誰でも当たり前にある【欲】が出てきた。食欲は他の生物を殺して肉を食らうようになり、強欲さは盗み殺人その他の犯罪行為を生んだ。さらには忍耐力も劣化し、それは【怒り】を生んだ。謙虚な気持ちは薄れ、傲慢さがでたり、強く嫉妬したりするようになった。

   その生命の負の感情が積もり積もって【魔物】が一体生まれてしまったという。その魔物は次から次へと出てくる負の感情を飲み込んで魔物を産んでいった、そして人と魔物が衝突し、戦いを続けてきた。

   ただ、魔物と人では圧倒的に力の差があり、最初は戦いというより蹂躙じゅうりんに近かったという。そこで人類最初の人間の男女アダムとイブが、魔物に対抗するために食べてはならないと神から言われていた善悪の知識の木に手を出した。

   そこで身を食べたものは特別な力、今のスキルを使えるようになったという。ただ、その実はもう無くなってしまい、その実を食べた子孫が稀に発症するスキルで今は魔物と戦ってるというわけだ。

   と、まぁこんな感じで今に至るらしい。

  「一応いるんだなラスボス的なやつ」

  「はい、おそらく今生きている人で姿を見たものはいないと思いますが、実在はするはずです」

   ふむ、なにか腑に落ちない、それだけの力があれば人間なんて手の上で転がせそうなのに。

  人間を滅ぼしてやるとかじゃなくて、魔物と戦わせて傍観して楽しんでるのか? うーん、わからん。

   「でもさ、それだけ長い間姿を見せてないなら、頑張って強くなろうが無駄じゃない?相手する前にお手上げでしょ」

  俺は、投げやりに言いながらお手挙げポーズをする。

  「予言があるんですよ」

  「予言?」

  「まず、予言の前に知っておいてほしい事なのですが、スキルにも格付けがありまして、中でも希少かつ強力なスキルは神授しんじゅと名が付けられてます」

  「神授?えらく大層な名だな」

  「はい、いまこの世界に神授スキルを持つ者は五人とされています。その内の一人が予知のスキルを持っていまして、私が伝えるのはその方の予言になります」

  「ほう、その予言とは?」

  「神いずる開闢かいびゃくはじまり

  「ん? すごいシンプルな予言だな。それがこの年に起こるって?」

  「はい、間違いなく」

  「ふむ、要するに神が現れて、新たな世界が始まる的な意味だろ?」

  「そうですね、今の神は私たちにとって良くない存在ですので、その神が現れて世界が変わるってことはおそらく悪い意味での始まりでしょうね。この予言は一部の者しか知りません、世界中の人々が混乱する可能性がありますので」

  「あー、なるほど。世界が終わるとも言い切れない事だからな、それ聞いて、なにしでかすか分からないやつもいるだろうしな」

  「はい、大半の捉え方は、世界が終わるよって言ってるようなものですから」  

  俺も冷静に言葉を返してはいるが、かなりショッキングな予言だ。抗えない力のないものからすると、生きる気力を失うというか、ヤケになりそうだ。正直俺ももう帰りたい、引き篭って最後の時までささやかな余生を楽しみたい……。

  「でも、そう考えると、今更俺が旅に出てどうこうしても遅くないか?」  

  「それに関しては私も思うところはありますが、何もしないのは駄目だと思うんです」

   あら、結構情熱的な子なのね……。

  「私たちに出来る今を頑張りましょう!」

   くぅ……眩しいねこの子、日焼けしちゃうよ、春だけど。引きりながら俺は「お、おう」と返した。




   

   


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