俺が作った世界は融通が利かないようです。

SiRoAliceSs

旅立つ当日


   旅立ちの当日の朝。

   昨日は肉体的にも精神的にも疲れて帰宅した後すぐ眠りについていた。

  「……………………」

  「…………………………」

  「……………………………………」

   夢を見ていた。

  「……お前は誰だ?」

   声が聞こえる。

  「俺は……」

   何も無い空間で誰かの声が聞こえる。

  「……お前は何者だ?」

  「俺は……ナノイースだ」

  「……お前は本当に存在しているのか?」

  「どういうことだ?」

  「……お前は実在するのか?」

  「俺は俺だ、生きている」

  「……お前は本当に二十年間生きていたか?」

  「意味がわからないな、生きていたから今の俺がいる」

  「……お前は産まれてから今までの事を覚えているか?」

  「当たり前だ、村で産まれて今まで平凡に生きてきた、村の人達がいてシスカがいて……」

  「……それだけか?」

  「何が言いたいんだ?」

  「……その記憶に中身はあるのか?」

  「……」

   そこで目が覚めた。

  「……なんだいまの夢は……」

   頭がぼーっとする。

  「……俺の中身……」

   変な夢だったが、大事なことのような気がした。

 (コンコン)

   「ナノー?  起きてる?  家の前でずっと待ってるひとがいるよー?」

  扉を叩く音と共にシスカの声がする。

  「やば……今何時だ……」

   布団から飛び起き、机の上にある慌時計を見ると時刻は十時すぎだった。

  「あ……やらかした……」

  


  「もう、さっそく寝坊なんてダメだよ?」

   慌てて支度して扉を開けると開口一番に怒られた。

  「いや、悪い……今日のは本当にわざとじゃないんだ……変な夢が……」

  「夢?」

  「いや、なんでもない悪かった」

  「うーん、そっか、大丈夫?  それよりあの女の子ずっと待ってるよ?」

   シスカが自分の背後に視線をやると、そこには昨日の占い師のユンナがいた。

   昨日はガチガチの占い師みたいな服装だったが、今日は、フード付きの黒を基調としたローブにところどころ赤色の模様が入っており、これぞ魔法使いって感じなのだが腰から下がスカートにニーソックスで絶対的な領域が見えており、なんともエロい、目に毒である。

   「ずいぶん待ちました……たくさん眠れたようでなによりですねぇ……」

   そう言いながら彼女は眉をピクピクさせており、俺の罪悪感がかなり上乗せされた。

  「いや、ほんと悪い、この通り!」

   昨日、朝の九時に伺いますのでと言われてたのに一時間以上待たせてしまい、深々ふかぶかと心の底から謝罪した。

  「まぁ、過ぎたことですし心底反省してらっしゃるようなのでこれ以上は何も言いませんよ」

  「あぁ……ありがとう」

   見た目はダークな感じだが中身はホワイトな人で助かった。

 (じーっ)

   何かすごい視線を感じると思ったらシスカが見ていた。

  「ん、なんだ?」

  「聞いてないんだけど……」

   不機嫌そうな表情のシスカ。

  「えっ?なにが?」

  「もう!さっきこの人から聞いたんだけど一緒に旅するってこと!」

  「聞いてんじゃん」

  「じゃなくって!昨日ナノはそんなことなにも言ってなかったじゃない!」 

  「すまん、言うの忘れてたわ」

  「ぐぬぬ……」

   シスカは頬っぺに空気を溜めてリスみたいになってた。

  「悪かった悪かった、昨日は俺もかなり参ってたからさ色々抜けてたんだわ」

  「それにしたってこんな美少女となんて……」

   シスカは聞こえるか聞こえないかぐらいの小さい声でモゴモゴ言っていた。

   朝から女の子二人を不機嫌にさせてしまったようだ、反省しよう。

  「それでなんだけどユンナさん、昨日冒険者用のバックとか買って旅支度しようとしたんだけど、あいにく俺は冒険者として登録されてなかったから全然用意出来なかったんだ」

  「あー、そうですよね、わたしもあなたが帰ってから気づいたんですよね。でも大丈夫です、わたしがバック持ってますし、昨日急いで二人分の必需品は揃えておきましたから」

  「おー、それは助かる」

  「ただ、一人用テントを二つ用意しようとしたのですが、二人用のしかなかったので窮屈きゅうくつかもしれませんが我慢してくださいね」

  「あーそれは全然……」

   酷く視線を感じた。うん、見たら終わりだ、見ないようにしよう。

   そんなこんなで三人で歩きながら村の門前まで来た。

  「よし、行くか……」

  「あっ、待って」

   シスカに呼び止められる。

  「どうした?寂しいか?」

  「うん、寂しいけどわざわざ言わなくてもいいよ……」

   シスカは少し苦笑いした後、「はいっ」と言って手のひらサイズの布袋を渡してきた。

  「これは?」

  「うん、お守り的な物だよ」

  「あぁ、ありがとう」

   お礼を言ったあと気づいたが、お守り的な物ということはお守りではないのだろうか?  中に何か入ってるみたいだし後で見てみるか。    

  「じゃあ元気でな」

  「うん、行ってらっしゃい」

  「あぁ、あと誕生日おめでとう、早いけどな」

   俺がそう言うとシスカは笑顔で送り出してくれた。


  

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