採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~

一色 遥

第2話前編 変化

 まだ使われていない、新品の剣は、鏡のように僕の姿を映してくれた。
 薄紅の髪を背中まで伸ばした、ちょっと発育が足りないけれど、とても可愛らしい女の子の姿を。

「って、ええええぇぇぇぇ!?」

 長くまっすぐな薄紅の髪、華奢な肩、細い腕に白い肌……。
 現実の僕の姿とは、似ても似つかない美少女。
 ただ、ちょっと胸のあたりは寂しい気がするけど……。

「いや、ちょっと待って……。え……?」
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫ですけど、大丈夫じゃないというか、あの……、え?」

 男性の声に反応するように、男性の方を向けば妙に背が高く見える。
 この人、すごい背が高い……?
 いや、これは僕が縮んだのかもしれない……。
 本来の姿でも、160cm足らずぐらいの身長しかないけれど、視界はこんなに低くなかった気がする。

 目の前に手を翳してみれば、見覚えのない白く細い指。
 その指で顔に当たる髪を手に取ってみれば、柔らかい髪が指の間から抜けていった。
 その感触に感動しつつ、男性に背を向けて、恐る恐る手を胸に当ててみる。

「うわぁ……。ある……」

 リアル過ぎるからか、触った時の柔らかい感触も、触られたという今までにない感触も、よくわかってしまう。
 もしかしなくても、もう1ヵ所も、本来の姿とは変わってしまっているのだろう……。
 なんでこんなことになっちゃったんだ……?

「少しは落ち着いたか?」
「ぁ、はい……。ちょっと納得がいかない部分はありますが、少しは……」

 返事を返しながら向き直れば、少し困った顔で笑う男性が見えた。

「ひとまず落ち着いたならよかった。そうだ、俺の名前、まだ伝えてなかったよな? 俺はアストラル、アルって呼んでくれればいい」

 そう言って、笑いながら手を差し出してくる。
 落ち着いて男性……アルさんを見てみれば、身長も高くて色黒だけど、爽やかなイケメンって感じだ。
 黒い髪の毛は、結構長いみたいで、首の後ろで括ってあるみたい。

「僕は、アキと言います。こちらこそ、よろしくお願いします」

 とりあえずそう言って、アルさんの手を握り返す。
 手の大きさも全然違う。
 僕の手が小さくなってしまったのもあるんだろうけど、まるで大人と子供みたいな違いに、ちょっと笑ってしまった。

「今日はちょっと一人で色々回ってみようと思ってるが、もしよかったら、今度一緒にパーティーでも組んでみよう。とりあえず、今日のところはフレンドだけいいか?」
「ぁ、はい。大丈夫です」

 その言葉と一緒に、飛んできたフレンド申請を承認する。
 僕としても、今スキルを何も持っていないので、パーティーでの行動は厳しかったし……。

「あぁ、あと、何か不都合が起きてるなら、メニューからGMへの連絡ができるだろうから、やってみるといいんじゃないか?」
「そうなんですね……。後でやってみます」

 僕の返事に満足したのか、アルさんは少し笑って背を向ける。
 歩いていくたびに、背中に下ろされたアルさんの黒髪が揺れるのが、少し面白かった。



「やっぱり戦闘スキル一つくらい取っておいた方が良かったかなぁ……」

 アルさんが武器を持っていたこともあり、僕も何か持ってるかも、と思ってインベントリを確認したんだけど……。
 無慈悲にも、そこには、[初心者ポーション]が5個と、所持金が1,000sシードだけが表示されていた。
 多分、初期スキル選択の時にスキルを取っていれば、対応武器とかが貰えたりしたのかも……?

「とりあえず嘆いてても仕方ないし……。まずは、さっきアルさんが教えてくれた、GMへの連絡をしてみようかな……」

 アバター作成のときに、アナウンスの声が言ってた通り、本来このゲームでは、性別の変更はできない。
 もちろん、いろんな事情で別の性別にすることは可能なんだけど、それをするためにはいろんな手順を踏まなきゃいけなかったはず。
 ログイン前に、ちらっと見たシステム情報には、たしかそんなことが書いてあったはずだ。

「えーっと、メニューを開いて……」

 言葉に出しながら、視界に現れたメニューから、GMコールのボタンを押す。
 すると、電話のコール音のような音が脳内に響いた。

『大変お待たせいたしました。<Life Game>のゲームマスター、ツェンです』

 数秒ほど待って聞こえた声は、若い男性のような声。
 若く聞こえる割には、落ち着いた雰囲気も感じる……。

「あの、ログインしたら、アバター作成で作ったアバターと、違う姿になってたんですが……」

 本当は、性別が変わってるって言いたかったけど、周りに人が沢山いる状態で、それを口に出すのは危ない気がしたんだ。
 以前、学校でこの話題を話してた人達が、性別が変えれないのが嫌って言ってたの聞いたし……。
 まぁ、それを言ってたのは女の子だったけど……。

『なるほど……。ログイン時のデータをお調べいたします。少々お待ち下さい』
「すみません……。お願いします」

 話しながら広場の端の方に移動して、置いてあったベンチに座る。
 ログインした辺りを見てみれば、次々に人が現れては、驚いたり、呆けたり……。
 僕もログインした時は、あんな感じだったのかなぁ……。

『大変お待たせいたしました』
「あ、はい」
『結論から申し上げますと、ゲーム名、アキ様のアバター作成、およびログイン転送に関するバグは確認できませんでした』
「えぇ!?」
『あくまでデータ上での確認となりますので、アキ様の使用されておりますVR機器や、ネットワーク上のトラブルが関係している可能性が高いかと思われます。そのため、アバターの再設定をご希望される場合は、弊社公式サイトのサポートから問題などのご指摘を頂き、VR機器を郵送していただくなどの方法になるかと思います』
「ちなみに、それってどれくらいかかりますか……?」
『そう、ですね……。明確にはお伝え出来ませんが、同様のお問い合わせが何件か、またそれ以外のお問い合わせも入っておりますので……、少なくともお返事に数日から1週間ほどは……』
「なるほど……。わかりました、わざわざありがとうございます」
『こちらの方こそ、アキ様にご迷惑をおかけし、申し訳ございません。また何かございましたら、お気軽にお問合せください』
「はい、ありがとうございます!」
『それでは、こちらで失礼させていただきます』

 ツェンさんのその言葉の後、僕の視界からGMコールのウィンドウが消える。
 んー……、サイトのサポートかぁ……。
 また調べてみて、どうするか考えないと……。

「でも、折角だし街でも見て回ろっ!」

 もしサポートに送るってことになったら、見て回るのが先になっちゃうかもだし。
 そう思って、僕は広場から伸びる大通りへと足を向けた。



「思ってたより、時間かかった……」

 街をぐるりと見て回って、ようやく最初の場所に戻ってこれた……。
 何度か足を止めてお店の中を見てたりしたけど、ずっと歩き続ければ2時間ほどで回れるくらいの大きさっぽいかな?

「街の北側に訓練所があったから、僕みたいにスキルを持ってない人でも、練習してスキルを習得したりは出来るっぽいし……」

 もし僕が街の外で戦うことになるなら、訓練所で戦闘スキルか魔法スキルを覚える必要がある。
 そう思って、少し覗いてみんだけど……、武器も魔法もこれって思うものがなかったんだよね……。

   ふふ……。

 さっきも座ったベンチに腰かけて、スキルについて少し考えていると、近くから笑い声が聞こえた気がした。
 顔を上げてみても、後ろを振り返ってみても、その声の主は見つからない。

   あれ? もしかして私の声が聞こえて……?

 気のせいか、と思った矢先、またしても声が聞こえた。

「誰かいるの?」

 姿は見えないけれど、不思議とこの声は逃がしてはいけないような、そんな奇妙な感覚があった。

   ふふ……。ここではダメ、場所を変えてお会いしましょう……。

 姿は見えないけれど、確かに何かがいる。
 なんとなく、その存在が移動した場所がわかる気がして、僕は近くの路地へと足を動かした。



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名前:アキ
性別:女

武器:なし       ←NEW!!
防具:ホワイトリボン  ←NEW!!
   冒険者の服    ←NEW!!
   冒険者のパンツ  ←NEW!!
   冒険者の靴    ←NEW!!

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