転生したらロボットの中だった(ただし、出る事はできません)

ファーストなサイコロ

運命という世界線を壊せ 687

「う、うわあああああああ!!」

 そう言って市民の一人が武器を投げ捨てて逃げていく。それを自分が責められる訳はない。なにせ自分たちは軍属でありながら、戦いを市民に任せてる役立たずだからだ。一人……また一人とその心が折られてる。実際死んでる奴はいないみたいた。

 あの二足歩行の砂獣は軍属でも見たことなんて無い。その異様な雰囲気からその強さがわかる。だが、どうやら市民達はこの圧力という物を感じないらしい。

 あれに向かっていくだけで凄い。無知とも言えるかもしれないが、何も出来てない自分たちは彼らを笑うなんてできない。寧ろすがるしか無いだろう。どうにか奴を……奴を倒してくれと……そうしないと次は自分たちだろう。

 でもこのままじゃあ駄目だ。敵が強大だと、市民たちは気づきだしてる。そして「勝てない」という疑心が生まれつつ有る。それでもなんとか敵をきちんとみて、策を弄したらいいだろうが、彼らはそんな組織だってない。

 いや、軍だからってそれが出来たか? と言われたら怪しいところはある。でも隊長を中心になんとか統率を保ってた我々に比べて、市民たちにはそういう存在がいない。心の柱は自分たちのなかにしかない。

 そうなると全ては自分次第。それが悪いわけじゃないだろう。他人に委ねるよりも、自分でそういう決心が出来る方がいいというのもわかる。けど自分だけで、戦い続けられる奴がどれだけ居るだろうか?

 軍は勝手に逃げたり、上の命令を聞かなかったりしたらそれこそ処罰の対象だ。嫌だ、嫌だと想ってもやらないといけない。まあもうここまで指揮系統がめちゃくちゃだと軍も何もないが……基本的には俺たちには逃げることは許されてない。だからこそ、この生命が尽きるまで戦わないといけない。

 だからとても少ない時間でも、俺たちはこの生命を散らして戦って時間を稼ぐくらいはやるしかない。でも彼らはそんな義務はないから「もう無理だ」と思えば逃げる。そしてそれを咎めるなんて事は出来ない。

 でもそれでも、責任感やら、この街を想ってる人達はそれでも戦ってる。

「腰抜け共が!! 逃げてんじゃねえ!!」

 そう言って周りを罵倒しながらも戦ってる彼は凄い。それこそ体は砂獣の血で緑に染まって、腕だってない。体は傷だらけだ。いくらふっとばされても誰よりもすぐに復帰してる。彼のお陰で市民たちはまだ戦意を保ってるといって良い。

 でもそれでも彼もただの一人の市民だ。周囲を見て、指示を出す……なんて事はない。ただ突っ込んでふっとばされてを繰り返してるだけ。それでは駄目だろう。

(こんな腰抜けの言葉を聞くなんて思えないが……)

「ヤツの脚を狙うんだ!!」

 そんな風に声を出してみる。脚をねらって奴をひっくり返すことができれば、袋叩きに出来る。それに奴は機敏ではない。切る必要はない。叩いて払って、足をかける事ができれば、そんなに難しいことじゃない……筈だ。

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