運命という世界線を壊せ　463

「ノア、聞こえるか？」

　聞こえてて無いわけはない。なぜならノアはの俺の中に居るんだから。けど反応はなかった。シーンとしてる。いや、外がドッカンバッカンしてるから実は聞き逃した……みたいな懸念は……ないな。何せ声は中から聞こえる。いくら外がドッカンバッカンしてても中からの声を聞き逃すなんて事は無い。なら反応してないんだろう。

（まだすねてるのか？）

　ちょっと前にノアの奴は俺の体を乗っ取ろうとした。それは上手くいかなかったが……実際かなり危なかったからな。実際の所、ノアの奴は俺の体に収まってるのはイヤなんだろう。それまで協力的だったのも、俺の油断を突くため。でも本性を見せたことで、俺が油断をすることはなくなった。
　このままじゃ、俺というこの中が、奴にとっては牢獄のような感じなのかもしれない。実際もう自分の……俺自身のこの体を明け渡すなんて事は二度としないつもりだ。でもだからって、ずっと俺の中で落ち込んでられるのも実際迷惑なんだよな。
　姿とか何か恨み言が聞こえる……何てことは一切無い。けど……俺の中に居るのは確かで、そしてなにか陰鬱というか……そんな感じの空気というか、雰囲気は分かる。俺だって勇者として、それなりの感覚は持ってるつもりだ。

「そんなに不快なら出て行っても良いんだぞ」

　その言葉にも反応はない。軍と賞金稼ぎのサポートと援護をしつつ、応答を待つけど、やっぱり反応しないか。でも銃だけではなかなかに追いつかないのが現状だ。負傷した人達は下がらせる。その時間を稼ぐくらいは出来るが……でも負傷と言っても下がって回復してまた復帰……何て甘い感じの負傷じゃない。
　この世界の人達は頑丈だ。だからこそ、取り返しがつかないくらいまで頑張ったりする。それでも砂獣に食われたままで最後を迎えるよりは……って事でなんとか頑張って回収とかしてるが……まああんまりいい手じゃない。なにせ負傷した味方の回収に人員を取られるし……数は圧倒的に向こうが多い。
　本当なら少しでも戦力を大きくした方が絶対に良い。でも……実際目の前で仲間とかがバリバリ食われたり、その部位が残ってたりすると次第にそのほかの人達にも影響が出たりもするからな。なるべく負傷者は見えないところにやった方が良いのも事実のような気もする。難しいな。

「ノア、お前は今の状況に興味なんて無いんだろうが、そうやってすねねてもナニも好転なんてしないぞ。出て行く気もないんだろう？」

　あの騒動が終わった後にも、色々と語りかけてはいる。それでもノアは俺の中に居る。理由があるんだろうが、出て行く気はないんだろう。なら家賃分くらいは働いて貰わないとな。反応はないが、聞こえてないわけはない。なら、勝手に言うか。

「力は使って良い。お前の方で魔法を頼む。攻撃系の奴がいい。言っておくが、仲間には当てるなよ」

　そう言ってちょっとすると僅かにエネルギーが減った感覚があった。そして広範囲に魔方陣が現れる。それは見たこともない感じの魔方陣になってる。どうやら俺の世界の陣と、そしてこの世界の陣が混じってるようだ。それが戦場のかなりの部分に広がる。
　そして膨れ上がる光りと共にこんな声が聞こえてきた。

（不味い、制御出来ない）