貴族に転生、異世界で幸福を掴み取る

高崎 立花

守る力がなくたって

 セラス国立貴族学園の新入生説明会当日。葉が抜け落ちた木に雪がのしかかっていたり、池が凍っていたりとまだまだ極寒の季節だ。入学式といえば少し冷たい風が鼻腔を刺激し、満開に咲いた桜が歓迎してくれるといったイメージだったがために、ネイロスは違和感を覚えていた。しかし、目の前に広がる銀世界に、山のように大きな石造りの建物に感動を抱いていた。
  
  幼馴染のグレーシャと、試験日に出会ったべロキア、ロアの三人と模擬試験の会場として使われたグラウンドから歩いて三分ほどかかる寮の前で駄弁っていた。
  
「私とべロキアはハントハーベンという大きな村の領主の子供なんだ」

 ロアは絶えることのない笑顔で自分とベロキアを指さしながらネイロスに説明をする。
  
「ハントハーベンなら聞いたことあるよ」

 ネイロスも笑顔で、ロアと目を合わせて答える。
 
  ハントハーベンはセラス国を出て北へ向かったところにある村なのだ。しかし、村といっても科学技術、魔法技術はセラス国とメルーシュ王国よりではないが、優れており、食料にも困っていないほど裕福で広いので、街と変わらないことで有名だった。

「そうそう! ハントハーベンの東側は僕、チェイス家が領主で反対側がべロキアのところの領地なんだよ!! 」

 ロアは前のめりになって話した。
  
「なるほど! 半分に分けてお互いが管理してるってことか! 」
「そういうこと! 」

 ネイロスとロアは更に、前のめりになって会話を続ける。両者は一歩も退かずに、まるで研究者が自分の研究している話題の話になったときみたいだった。だが、会話内容は故郷の自慢であった。
  
「でも一つの領土を半分に分けるって大変じゃない? 」
「ん? なんで? 」

 ネイロスの疑問に首を傾げるロア。
  
「広くて食料にも困ってない村だと独り占めしたくなるかなーと思って」

 ネイロスは頬杖をついて考えながら発言した。
  
「なんでそうなるんだ? 人は多い方が嬉しいしみんなで助け合った方が楽なんだから独り占めすることはないだろ? 」

 べロキアは首を傾げた。
  
 ネイロスはベロキアの答えに「なんだ、この純粋で心が綺麗な子は! 」と、ネイロスは心の中で呟いた。
  
「べロキアとロアって私たちみたいだね!! 」

 グレーシャは突拍子もなくネイロスの肩を叩いて話した。
  
「あぁ、僕達も昔から仲がいいからね」

 ネイロスは笑いながら答えた。
  
「私はネイロス君が羨ましいよ」
 ロアは微笑んだ。
  
「羨ましい?」

 ネイロスはロアの言葉を繰り返した。
  
「うん、羨ましい! ネイロス君は強いし、頭もよくて、グレーシャさんのことを守ってあげれるけど私は頭も良くないし、べロキアよりも弱いから守ってあげられないんだ」

 ロアは紅色の髪が目立つ頭を掻いて、うっすらと笑いながらそう言った。
  
「守るほどの力がなくたって守りたいという意思さえあればそれでいいんじゃないかな?」 
 ネイロスは、和人はかつて薫が励ますために言ってくれた言葉をそっくりそのままロアたちに伝えた。
  
「「私は分かった気がする」

 ロアはスッキリしたような顔でそう口にした。
  
「え!? ロア今のでわかったのか!? 」
「ロア君すごい!! 」

 べロキアとグレーシャはロアに賞賛を送った。
  
「ま、生きていたらそのうち理解できるようになるよ。これは僕が苦しんでいる時にある人が言ってくれた言葉なんだ」
「そんなの初めて聞いたよ? 」

 グレーシャは顔をムスッとさせた。
  
「まぁ、言う必要はなかったからね」

 ネイロスは苦笑しながら答えた。
  
  
「おーい、ガキども時間だ、男と女で別れて並べ」

 エコーのかかった声が寮前で響き渡る。
  
「あれは? 」
 
  グレーシャの問いかけにネイロスは優しく微笑んで答える。
  
「クラッド・リヒト先生だよ」

 声の正体。もとい、クラッドは、目線が鋭くいかにもヤクザという感じの男だった。
  
「今から寮についての説明に入る、よーく聞いとけよ」
「「はい!!」」

 クラッドの言葉に、生徒達は大きな声を揃えて返事した。
  


 寮の中は暖かくて、大きなホテルのロビーくらいの広さもあった。外から見た建物の大きさと建物内の広さが合わず、ネイロスは戸惑った。どうやら、建物自体に魔法がかけられてるらしかった。ネイロスは寮前の広場の地面に描かれていた白線を思い出した。
  
(なるほど、この建物の周りに魔法陣を描いて魔法を維持させてるんだ)

 ネイロスは感心したように辺りを見渡す。
  
(日本より技術は進んでいないと思い込んでいたけど、そうでも無いのかも! ほとんどの事が魔法によってなされてるし、それにここが暖かいのも恐らく魔法を使用しているからかな…… まぁ、そんなの知ったところで何も変わらないんだけどね)

 案内役の先生の方へと顔を向ける。  
  
「はぁ……」

 自然とため息が出た。
  
  無理もない男子寮の案内役はヤクザ先生。もといクラッド先生だったからだ。心の中でグリード先生が良かったなと思いながら案内されていく。
  寮から学校までは五分もかからず、寮の裏庭は全生徒が遊べるほどのスペースがある。
  ちなみに、男子寮と女子寮の間は壁があるわけだが、魔法や恩恵があるこの世界ではほぼ意味は無いだろう。
  寮内に入るとまず、広いロビーがある。ロビーからは道が枝分かれしていて、それぞれ生徒達の部屋へと繋がる道、裏庭への道、図書館への道、トレーニングルームなどがある道へと別れている。

「案内は終わりだ、五時から各生徒の身分証を発行するから成績下位者から順にロビーへ来るように、それまでは好きに寮内をうろついてろそれでは解散」

 クラッドは頭を掻きながら適当な感じで済ますとそそくさと歩いてロビーカウンターの裏へと消えていった。
  
「ロア、一緒に寮内を探検しようよ 」

 ネイロスはニヤリと何かを企む子悪党のような笑みを浮かべ、それにロアはニヤリとしながら親指を立てて口を開く
  
「いいね、やろう」

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