貴族に転生、異世界で幸福を掴み取る
証明紋
あれから六年もの月日が流れた。
広い部屋で一人、鏡の前に立ち制服のサイズを確認している少年の姿があった。
誰が見ても美しいと答えるほどの美少年、黄金の髪の毛とエメラルド色の瞳を持ち、顔つきは少女のよう。しかし、その見た目とは裏腹に体つきはよく、男なら誰もが憧れるほどだった。
「いい感じかな、着心地もいいし動きやすい、さすがは王国一の学園だ」
嬉しそうに無邪気な表情を浮かべてそう言った。
白が基調で赤色のラインが引かれてるコートを羽織り、格好を付けて鏡を見る。
「似合ってるね!! 」
「うわっ!」
少年は驚き、その場で尻もちを着いた。
「なんだ、グレーシャか……」
少年に声をかけたのは、橙色の髪の毛を持ち少年と同じ、エメラルド色の瞳を持つグレーシャという少女だった。
「ネイロスは勉強しなくていいの? 」
グレーシャは首を傾げて少年に聞いた。
「うん、小さい頃から貴族の礼儀作法やトロイアの規則について、母さんと父さんに嫌という程教えられてきたからね」
「勉強するの嫌だったの?」
「そうじゃないよ」
ネイロスと呼ばれた少年は優しい顔つきで微笑む。
ネイロスは小さい頃から一族のしきたり。貴族の礼儀作法。この世界……トロイアの社会について教えこまれてきた。勿論、ネイロスは嫌々受けたのではない、自分から両親に頼んだのだ。
「グレーシャは、僕のお母さんが勉強みてくれるんだから明日の試験は大船に乗った気でいたらいいよ」
「大船?どういうこと」
グレーシャは再び首を傾げこう続けた。
「よくわからないけど、むずかしいことしってるネイロスはえらいよ」
そう言い、グレーシャはネイロスの髪の毛がボサボサになるほど頭を撫でた。
グレーシャはネイロスの頭を良く撫でるのだ。ネイロスよりも先に産まれたことを知っているグレーシャはネイロスを実の弟のように思っているのだが、何でもできるネイロスに負けを認めたくないのか、強がって自分の方が上だと主張しているのだ。
「やれやれ、あんな子が僕の幼馴染とか……めちゃくちゃ萌えるよ」
思わず独り言が漏れる。
(待ってくれ、僕はロリコンなんかじゃないぞ、誰だってあんな可愛い子がいたら微笑ましくなるさ)
広い部屋で、一人百面相している美少年の姿がそこにはあった。
(さて、明日の試験のために自分の能力の最終確認を行おう)
明日はトロイアでも一・二を争う学園、セラス国立貴族学園の入学試験で、ネイロスとその幼馴染のグレーシャは勉強や訓練に明け暮れていた。貴族学園と呼ばれるからには貴族しか入れないと思われがちなのだが、普通の平民も入れたりする。十年ほど前までは貴族しか入れなかったが、時が経つに連れ校則も変わり、平民が入れるようになった。才能ある芽を摘んでしまわないようにするためにと、トロイアの国王が変えたのだ。
(筆記と模擬戦の二つの試験があり、二つの合計点で合否が決まる。この試験ではどれだけ自分の力を理解できているかが鍵になってくるはず)
ネイロスは手の甲を見る。そこには、青色の円の中に鳥が翼を広げている紋様が刻まれていた。トロイアではこの紋様を生まれたばかりの赤子に刻むのが規則で、身分を証明するときや自分の身体の状態を確かめるときに使う証明紋と呼ばれる古代魔術を使用したものなのだ。
(この紋章に魔力を込め、そして詠唱する)
ネイロスは右手に左手を重ねると目を閉じ集中し始めた。
屋敷内で聞こえていた全ての声が耳に入ってこなくなる。そして、時間が経つに連れて、右手の紋様が青白く光を帯びていった。右手の紋様が激しく輝き出したところでネイロスは集中を切って、一言呟いた。
「パーソナルインフォメーション」
その言葉と同時に、右手の青い光が霧のように広がり、文字を写し出した。
――
ネイロス・ニーベルン 性別:男
称号:転生者
生命力:10
魔力:10
体力:3
筋力:3
魔力瞬感放出量:2
恩恵:翻訳、魔剣生成、魔剣召喚、魔力生成、鳴雷
――
「相変わらずいつ見ても凄い……」
ネイロスは苦笑しながら、それらの項目の確認を始めた。名前、性別をとばして、称号に目を向けた。
「……転生者。あの頃の記憶を忘れることは出来ない、でも、あんな風にならないように努力して幸せに生きる、そう決めた……」
ネイロスはそう言い切ると拳をギュッと握り、折れそうになるほど強く歯を食いしばった。
あの頃の記憶とは、転生する前の、七宮和人の記憶の事だった。地球で両親を無くしてからの最悪の記憶、今度は、ああならないようにと、この世界で生きていくと六年前に誓ったのだ。
ネイロス・ニーベルンとして、産んでくれた母親、育ててくれた父親、新しく出来た弟、元気な幼馴染、これから出来るかもしれない友達を失わないように強くなると。
失う事を知っている和人は、ネイロスとして失わないようにこの六年間準備してきた。 そして、これからも自分を磨くだろう。
「いつか称号を幸せな転生者にしてみせる」
ネイロスは再び決意した。
気を取り直し、項目を確認していく
(生命力は相変わらずの十、魔力は九から十に上がり、他は相変わらず低いな……)
ネイロスは肩を落としながらもう一度見直す。
赤ん坊として産まれたばかりの時、意識を失った和人が目を覚ましたのは紋様が右手に刻み込まれる時だった。奇跡的にそのタイミングで目を覚ましたおかげで、紋様のことと自分の持つ恩恵を理解することが出来た和人は、赤ん坊の時から自分を鍛え始めた。
生命力が最大値なのに対し、ほかの項目は初めは一だった。しかし、魔力が十なのは恩恵の魔力生成を駆使したためでもある。
魔力生成は持ち主の魔力が使われた分だけ魔力を生成するという効果なのだ。使った魔力は回復する。つまり、魔力の量が増やせるということなのだ。
赤ん坊の頃のネイロスは魔力を扱うのに半年ほどかけたが、扱えるようになってからは、毎日気を失いそうになるまで魔力を放出し使用した。その結果が魔力十だった。
「体力と筋力に関しては、身体をまともに動かせるようになるまで待たなきゃ行けなかったし、魔力の時のように恩恵で上げることも出来ないから仕方はないんだけど……」
そう言い、ネイロスは自分の二の腕をぷにぷにさせるある程度には鍛えられているが、よく家に来る男騎士達と比べると雲泥の差だった。
「恩恵もまだ魔力生成と翻訳しか使用したことしかないしなぁ」
ネイロスは視線を恩恵に向けてため息をついた。
この世界の言葉と地球の言葉は別の言語なのだが、ネイロスがこの世界の言葉が分かるのは翻訳のおかげだった。そのおかげで言語を勉強しなくて済んだのだ。
「まぁ、恩恵の使い方は自分で見つけるもんだし、急ぐ必要はない、今できることをするだけだ」
ネイロスはそう言うと右手に宿った魔力を放出し、自分の情報が映し出されていた霧を消し、服を着替えてグレーシャがいる部屋へ向かった。
*
「グレーシャちゃん、今日は泊まっていきなさい」
清らかで優しい声が広いリビングを包み込む。
声の主はネイロスの実母であるケルピだった。
「そうする!! 」
元気にそう答えたのは、ネイロスの幼馴染で少しだけ年上のグレーシャだった。
その元気さはニーベルン家の食卓を更に明るくさせた。
ネイロスはこの時間が、特にグレーシャがいるこの時間が大好きだった。
「グレーシャちゃんはほんとに元気いっぱいだな! うちの雰囲気が更に良くなる。どうだ、ネイロスの嫁にならないか?」
「――ブブッッゥ!?」
いきなりの父親の発言に驚きを隠せないネイロスが、飲んでいた水を盛大に吐き出した。 それの被害にあった父親は気にすることなく冗談だ! と大笑いしている。ベビーチェアに座っている弟は無邪気に笑いながら、母親はあらあらうふふ、とどこかの村長のように見守っている。グレーシャは赤面し何か独り言を呟いておりニーベルン家の食卓はいつもよりも明るく幸せだった。
広い部屋で一人、鏡の前に立ち制服のサイズを確認している少年の姿があった。
誰が見ても美しいと答えるほどの美少年、黄金の髪の毛とエメラルド色の瞳を持ち、顔つきは少女のよう。しかし、その見た目とは裏腹に体つきはよく、男なら誰もが憧れるほどだった。
「いい感じかな、着心地もいいし動きやすい、さすがは王国一の学園だ」
嬉しそうに無邪気な表情を浮かべてそう言った。
白が基調で赤色のラインが引かれてるコートを羽織り、格好を付けて鏡を見る。
「似合ってるね!! 」
「うわっ!」
少年は驚き、その場で尻もちを着いた。
「なんだ、グレーシャか……」
少年に声をかけたのは、橙色の髪の毛を持ち少年と同じ、エメラルド色の瞳を持つグレーシャという少女だった。
「ネイロスは勉強しなくていいの? 」
グレーシャは首を傾げて少年に聞いた。
「うん、小さい頃から貴族の礼儀作法やトロイアの規則について、母さんと父さんに嫌という程教えられてきたからね」
「勉強するの嫌だったの?」
「そうじゃないよ」
ネイロスと呼ばれた少年は優しい顔つきで微笑む。
ネイロスは小さい頃から一族のしきたり。貴族の礼儀作法。この世界……トロイアの社会について教えこまれてきた。勿論、ネイロスは嫌々受けたのではない、自分から両親に頼んだのだ。
「グレーシャは、僕のお母さんが勉強みてくれるんだから明日の試験は大船に乗った気でいたらいいよ」
「大船?どういうこと」
グレーシャは再び首を傾げこう続けた。
「よくわからないけど、むずかしいことしってるネイロスはえらいよ」
そう言い、グレーシャはネイロスの髪の毛がボサボサになるほど頭を撫でた。
グレーシャはネイロスの頭を良く撫でるのだ。ネイロスよりも先に産まれたことを知っているグレーシャはネイロスを実の弟のように思っているのだが、何でもできるネイロスに負けを認めたくないのか、強がって自分の方が上だと主張しているのだ。
「やれやれ、あんな子が僕の幼馴染とか……めちゃくちゃ萌えるよ」
思わず独り言が漏れる。
(待ってくれ、僕はロリコンなんかじゃないぞ、誰だってあんな可愛い子がいたら微笑ましくなるさ)
広い部屋で、一人百面相している美少年の姿がそこにはあった。
(さて、明日の試験のために自分の能力の最終確認を行おう)
明日はトロイアでも一・二を争う学園、セラス国立貴族学園の入学試験で、ネイロスとその幼馴染のグレーシャは勉強や訓練に明け暮れていた。貴族学園と呼ばれるからには貴族しか入れないと思われがちなのだが、普通の平民も入れたりする。十年ほど前までは貴族しか入れなかったが、時が経つに連れ校則も変わり、平民が入れるようになった。才能ある芽を摘んでしまわないようにするためにと、トロイアの国王が変えたのだ。
(筆記と模擬戦の二つの試験があり、二つの合計点で合否が決まる。この試験ではどれだけ自分の力を理解できているかが鍵になってくるはず)
ネイロスは手の甲を見る。そこには、青色の円の中に鳥が翼を広げている紋様が刻まれていた。トロイアではこの紋様を生まれたばかりの赤子に刻むのが規則で、身分を証明するときや自分の身体の状態を確かめるときに使う証明紋と呼ばれる古代魔術を使用したものなのだ。
(この紋章に魔力を込め、そして詠唱する)
ネイロスは右手に左手を重ねると目を閉じ集中し始めた。
屋敷内で聞こえていた全ての声が耳に入ってこなくなる。そして、時間が経つに連れて、右手の紋様が青白く光を帯びていった。右手の紋様が激しく輝き出したところでネイロスは集中を切って、一言呟いた。
「パーソナルインフォメーション」
その言葉と同時に、右手の青い光が霧のように広がり、文字を写し出した。
――
ネイロス・ニーベルン 性別:男
称号:転生者
生命力:10
魔力:10
体力:3
筋力:3
魔力瞬感放出量:2
恩恵:翻訳、魔剣生成、魔剣召喚、魔力生成、鳴雷
――
「相変わらずいつ見ても凄い……」
ネイロスは苦笑しながら、それらの項目の確認を始めた。名前、性別をとばして、称号に目を向けた。
「……転生者。あの頃の記憶を忘れることは出来ない、でも、あんな風にならないように努力して幸せに生きる、そう決めた……」
ネイロスはそう言い切ると拳をギュッと握り、折れそうになるほど強く歯を食いしばった。
あの頃の記憶とは、転生する前の、七宮和人の記憶の事だった。地球で両親を無くしてからの最悪の記憶、今度は、ああならないようにと、この世界で生きていくと六年前に誓ったのだ。
ネイロス・ニーベルンとして、産んでくれた母親、育ててくれた父親、新しく出来た弟、元気な幼馴染、これから出来るかもしれない友達を失わないように強くなると。
失う事を知っている和人は、ネイロスとして失わないようにこの六年間準備してきた。 そして、これからも自分を磨くだろう。
「いつか称号を幸せな転生者にしてみせる」
ネイロスは再び決意した。
気を取り直し、項目を確認していく
(生命力は相変わらずの十、魔力は九から十に上がり、他は相変わらず低いな……)
ネイロスは肩を落としながらもう一度見直す。
赤ん坊として産まれたばかりの時、意識を失った和人が目を覚ましたのは紋様が右手に刻み込まれる時だった。奇跡的にそのタイミングで目を覚ましたおかげで、紋様のことと自分の持つ恩恵を理解することが出来た和人は、赤ん坊の時から自分を鍛え始めた。
生命力が最大値なのに対し、ほかの項目は初めは一だった。しかし、魔力が十なのは恩恵の魔力生成を駆使したためでもある。
魔力生成は持ち主の魔力が使われた分だけ魔力を生成するという効果なのだ。使った魔力は回復する。つまり、魔力の量が増やせるということなのだ。
赤ん坊の頃のネイロスは魔力を扱うのに半年ほどかけたが、扱えるようになってからは、毎日気を失いそうになるまで魔力を放出し使用した。その結果が魔力十だった。
「体力と筋力に関しては、身体をまともに動かせるようになるまで待たなきゃ行けなかったし、魔力の時のように恩恵で上げることも出来ないから仕方はないんだけど……」
そう言い、ネイロスは自分の二の腕をぷにぷにさせるある程度には鍛えられているが、よく家に来る男騎士達と比べると雲泥の差だった。
「恩恵もまだ魔力生成と翻訳しか使用したことしかないしなぁ」
ネイロスは視線を恩恵に向けてため息をついた。
この世界の言葉と地球の言葉は別の言語なのだが、ネイロスがこの世界の言葉が分かるのは翻訳のおかげだった。そのおかげで言語を勉強しなくて済んだのだ。
「まぁ、恩恵の使い方は自分で見つけるもんだし、急ぐ必要はない、今できることをするだけだ」
ネイロスはそう言うと右手に宿った魔力を放出し、自分の情報が映し出されていた霧を消し、服を着替えてグレーシャがいる部屋へ向かった。
*
「グレーシャちゃん、今日は泊まっていきなさい」
清らかで優しい声が広いリビングを包み込む。
声の主はネイロスの実母であるケルピだった。
「そうする!! 」
元気にそう答えたのは、ネイロスの幼馴染で少しだけ年上のグレーシャだった。
その元気さはニーベルン家の食卓を更に明るくさせた。
ネイロスはこの時間が、特にグレーシャがいるこの時間が大好きだった。
「グレーシャちゃんはほんとに元気いっぱいだな! うちの雰囲気が更に良くなる。どうだ、ネイロスの嫁にならないか?」
「――ブブッッゥ!?」
いきなりの父親の発言に驚きを隠せないネイロスが、飲んでいた水を盛大に吐き出した。 それの被害にあった父親は気にすることなく冗談だ! と大笑いしている。ベビーチェアに座っている弟は無邪気に笑いながら、母親はあらあらうふふ、とどこかの村長のように見守っている。グレーシャは赤面し何か独り言を呟いておりニーベルン家の食卓はいつもよりも明るく幸せだった。
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