現代社会にモンスターが湧いた件〜生き残るために強くなります〜

S・R

48話 レッドオーガ3

「来るぞっ!構えろ!」
「うん!」

 レッドオーガが走り出したのと同時に、俺は声を上げた。
 ソフィアに話しかけるだけでなく、意識を戦闘モードに切り替えるためでもある。

「ガァァァァ!!」

 レッドオーガは雄叫びを上げながら、両拳を握って俺達に向かって振り下ろした。
 当たれば即死するであろう攻撃を何とか躱すことは出来たが、かすりもしてないのに風圧だけで吹き飛ばされそうになり、床には大きな亀裂が走り、円形の窪みが出来上がった。

「.......マジでやべぇな」
「僕がアイツの【鉄壁】を破壊するから、ソラ君はいつでもトドメを刺せるように準備しててね!」
「分かってるよ!」

 事前に決めていた通りの作戦を互いに確認し合った後、ソフィアは2メートル程の長さがある槍を真っ直ぐ構え、レッドオーガに突っ込んだ。
 それは自殺に等しい行為なのだが、あのソフィアが何の考えも無く格上相手に向かって行くはずがない。

「グルゥゥ」

 レッドオーガは餌が、わざわざ近付いてきてくれていると思っているのか、口端を釣り上げて獰猛な笑みを浮かべた。
 その姿を見たソフィアも、可愛い顔に似合わない獲物を狙った獣のような笑みを浮かべた。

 そして、自分の足と両手に握る槍に魔法陣を展開する。
 足元には『加速』の効果を持った魔法陣、そして槍に発動させた魔法陣は【鉄壁】を突破する為のものだ。

「ふふふ.......圧倒的強者が弱者に敗北する要因は知っているかい?」

 レッドオーガにさえ反応することの出来ない速度で移動したソフィアは、相手の懐に潜ったところで余裕ぶった態度を取り、槍で突く直前に話し出した。

「それはね.......相手を弱者と甘く見て初めから本気で相手をしない.......そういう侮りのせいで負けるんだよ!」

 勉強、スポーツ、仕事など、周囲との競走において自身よりも劣っている者を見下し、痛い目を見る人は腐るほどいる。
 そして、目の前にいるレッドオーガも、その痛い目を見る側の存在だと言いたいのだろう。

「はぁぁぁっ!」

 気合いの入った声が廊下に響き渡り、ソフィアの持つ槍はレッドオーガの『鉄壁』を貫いて腹を貫通させ、槍が刺さった部分には魔法陣が展開されていた。
 槍に展開されている魔法陣の効果は、『貫通』という至ってシンプルなものだ。
 そのお陰で、レッドオーガの固い防御を破ることが出来たので、効果は高いのだろう。

「ソラ君!」

 俺は心の中で任せろと言い、気付かれないように音を立てずにレッドオーガの後ろへ回り込んだ。

「ふっ!」

【斬撃】

 俺は刀を振るうのと同時に【斬撃】を発動させて、刀の斬れ味を増した。
 そしてレッドオーガに向かって刀を横に一閃。
 ソフィアが作った刀はレッドオーガの首筋へと吸い込まれるように喰い込んでいき、一瞬のうちに真っ二つに切り裂いた。

「ゴ.......アァ?」

 レッドオーガは首をはねられてしまった事に気付いておらず、何が起こったのか分からない、というような表情を浮かべていた。

「ガ、ガァァァ.......」

 さすがはファンタジーの生き物と言うべきか、首と胴体が離れてしまったのに僅かに声を出せている。
 しかも討伐を知らせるアナウンスが鳴っていないので、まだ生きてはいるようだ。

『レッドオーガの討伐を確認』
『レベルが33から35に上がりました』

 体感で十秒ほど経った頃、やっと討伐の確認がされた。
 今更だが、頭の中に響いてくる声が討伐の確認をした所で、俺が確認した訳では無いから心配になる。

「.......一応、確認してみるか」

 俺は刀で突っついたり、足で蹴飛ばしたりなどして、レッドオーガの生死を確認した。
 生きていれば反応することをしたのだが、全く動く気配がないので、俺は警戒を解いて深く息を吐いた。

「はぁぁぁ.......なんか俺って不意打ちばっかだなぁ」

 イヴとソフィアさんが居なくなったら、一日で死ぬ気がする.......そんな予感を覚えながら、俺は床に寝転がった。
 頬から伝うひんやりとした感触が気持ちよくて、思わず寝そうになってしまう。

「これからソラ君は強くなるだろうし、今は僕達を頼ってよ!」
「今現在、俺はアンタらに頼りっぱなしなんだよ.......このままじゃ、ダメ人間になりそうな気がする」
「.......まぁ、その姿を見てるとニートのようではあるね」

 ソフィアは満面の笑みで頼って欲しいと言ってきたが、俺の姿を見て目を逸らしながら乾いた笑みを浮かべていた。

 男としてダメとか以前に、今の俺は人間としてダメだな。
 今のレッドオーガ討伐もソフィアがいなかったら倒せなかっただろうし、そのせいなのかは知らないがレベルが2つしか上がらなかった。
 強くなるには俺一人で格上を倒したり、リスクを負ってでもレベル上げに励まなければならないようだ。

「まぁ、レッドオーガを【暴食の右腕】で食えば【吸血】ってスキルも手に入るだろうし、レベル上げの効率は段違いに良くなるだろうな」
「うん。その時は僕も手伝うよ!」
「おう。ありがとう」

 俺は新しいスキルが手に入ることにワクワクしながら、そそくさとレッドオーガの頭蓋以外を右腕で食らった。

『【暴食の右腕】の能力によりレッドオーガを捕食しました』
『スキル【吸血】を取得しました』
『スキル【剛腕】を取得しました』
『スキル【鉄壁】を取得しました』

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