魔王ノ聖剣

東雲一

四十之剣 「嘘」

「終わったのか。これでやっと、それにしては......呆気ないような」

タナは、ソラがエトランゼの脇腹に剣で強烈な一撃を食らわせるところを見ていました。ですが、安心するどころか、何か嫌な予感がしてならないようです。

「大丈夫か、タナ。早くけがの治療をしないと」

ソラは、地面に倒れ込むタナに向かって、ゆっくり足を進め近づいていく。

「あ......ああ。私なら大丈夫だ」

その時、ソラの足元からひょっこり顔を出すエトランゼの姿をタナは見た。どうやら、 まだエトランゼは元気なようです。

「甘いね。やっぱりソラは」

ソラは、地面が濡れて油のようなものが流れていることに気づきます。油のようなものは、エトランゼの片手に持つ器から、大量に流れている。エトランゼは、周りに、ばらまいていますが、もし、ここで炎の魔法を使おうものなら、自分ものとも爆発してしまう気がします。
まさか、自爆してソラを巻き沿いにするつもりなのでしょうか。だとしたら、どうしようもないくらい、いかれている言わざるを得ません。

もしかして、こいつ。

ソラも、エトランゼが自爆をはかろうとしていると思ったのかエトランゼから距離を取ります。

「ソラ、君は僕を一思いにやってしまうべきだったんだ。君の非情になりきれない心の弱さが、最悪の結果をもたらす」

ヤバい。このままだとやられる。
でも、タナは、男の子は。二人とも救わなきゃ。
救うには、どうしたら、どうしたらいいんだ。

迷うより先に、ソラは、瞬間的に、タナと男の子の元に走り出す。剣を構え、全力で守りにいく姿はまさに勇者。

「いいのかな。ソラ、二人を助けなければ、君の速さなら、確実に逃げられるのに」

二人の元に向かうソラに、エトランゼは耳に忍び込んでくるような声で囁く。
ゲスさがつまって、一瞬答えに迷ってしまう、この発言に、ソラはエトランゼの方を向くこともせず走りながら、躊躇なく口を動かし答えます。

「うるせーよ!!二人を救いてーから、救う。ただ、それしかねーんだよ。俺には」

「そうか、じゃあ、さようなら......ソラ。君は、最も愚かな選択肢を選んだ。誰も救われない選択肢を」

エトランゼは、鳥肌がたってしまいそうな冷たい眼でソラを見つめ叫びます。そして、両手を広げ、彼の元に狂気に満ちた魔力が集まっていく。ついに、エトランゼは魔力を使い、自分ものとも爆発するつもりです。全くいかれてる。

「ソラ!!私のことは、いい!!男の子を連れて逃げろ!!」

タナは、自分を助けようとするソラを見て、言った。ですが、ソラは当然、そんなことで方向を変える男ではない。意地でも、救い出すつもりのようです。

「嫌だ。きっと、後悔する。ここで、救わなきゃ、ずっと後悔するから。もう嫌なんだ。救えなかった悲しみで胸を締め付けられるのは。だから、救うよ。お前も男の子も」

「ソラ......お前という奴は」

タナが、ソラを涙目で見ていると、エトランゼが嘲笑いながら、言った。

「燃えつきろ」

"火"

ソラは、エトランゼの微笑む姿を見て、ここで自分の人生の旅路が終わりを迎えると予感し、頭の中で、ポアルの顔が浮かんでいた。

すまない。ポアル。俺は、お前を救えないかもしれない。

ソラが終わりを予感した、その時だった。

「嘘よ。こいつ、嘘をついてる!!」

極度の緊張状態のなか、響き渡る声。力強く、愛らしいような女性の声です。そんな、突如、響き渡った声に、ソラもタナも、そして、エトランゼが驚きの表情を浮かべています。

気づかなかった。僕の後ろにいつの間に......。常に、警戒は、したはずだけど。全く気配を感じなかった。

気づかれずにエトランゼの後ろに立っていたのは、カエナです。そういえば、ソラと一緒に村の上方から降りてきてましたね。存在を忘れていました。

「どういうことだ!!カエナ」

「あいつのばらまいたのは、油じゃない。だって、油の独特な匂いがしないもの」

な、なんとカエナの言う通りなら、エトランゼが油をばらまく演技をしていたことになります。

「ちっ、ばれちゃったか。つまらないの。もう少しだけ、楽しめると思ったのに」

エトランゼは、村の遠くの方をぼんやり眺めながら気の抜けた声で言った。

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