ガンズ・バイ・デイズ―高校生サバゲーマーの魔法世界奮闘記―

ファング・クラウド

BRIEFING:04 黒い月、青い穹

レオと分かれた後、自室に向かうときっちり整理整頓されたベッドが用意されていた。


「なんだか、落ちつかねえなぁ・・・・」


ぼふっっとベッドに入ると、そのまま眠りに落ちた。


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「・・・・・くーくん」


私は迎 日向むかい ひなた、サバゲー部のメンバーで・・・・・今日行方不明になった天城 空牙・・・・くーくんの幼馴染だ。


「日向・・・・・・きっと、きっと大丈夫だから」


彼女は来栖 渚くるす なぎささん、生徒会長で、サバゲー部のメンバー・・・


「あのバカよ?その内ひょこっと帰ってくるわ・・・きっと、きっと」


震える腕で私を抱きしめる。
不安なのは彼女も同じだった。


「そうだよ、ひょっこり帰ってくるさ・・あのバカの事だからさ、心配なんか、いらねーよ」


木に拳打ちつけているのは来栖 恭介くるす きょうすけくん、くーくんの親友


「私は、教師失格だ・・・・あんなに多くの荷物を私が居ながら一人で持たせるなんて・・・顧問失格だ」


明津 義則あきつ よしのり先生、サバゲー部の顧問で、メンバーの一人・・・・。


「ふん・・・私にひなちゃん取られるのが嫌だからってそんな手を使うの?卑怯者ね・・・・ホント、卑怯」


彼女は時任ときとう 美玖みくちゃん。私の友達で、サバゲー部のメンバー・・・私にベットリな子、くーくんをいつも目の敵にしてたけど、今回ばっかりはいつもの喧嘩口にも覇気がなかった。


「くーくん・・・・・何処にいったの・・・?」




私達が気付いたのは、程なくしてだった。
一向にくーくんが登って来ないから、道を戻ってみてみたら道の泥濘に滑った後があって、それは斜面の下に続いていた・・・・
なのに、一番下には触れた後すらなくて、ただただそこに落ちていたくーくんの生徒手帳が彼の身に何かあったことを暗示していた。


「あなたは・・・・どこにいますか・・・?・・・・くーくん」


ただ空には、三日月があざ笑うだけだった。




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朝起きると、目の前にはエミィが居た。


「おはようクウガ、ほら、朝御飯よ早く支度して」
「ああ・・・・ん、ありがとエミィ・・・・」


寝ぼけ眼で廊下を歩き、席にすわると朝食に入った
どれも暖かくて、旨かった・・・・ハーフとはいえ日本人だから、なじみ薄い食事だったけど、旨かった。
食事を食べ終わるとマリア姫がこちらに近づいて来た。
なびく銀髪にふわっとしたフローラルな香りが良く似合う。


「あの、クウガ様、もしよければこの後ご一緒に御散歩いたしませんか?」
「ふぇ?あ、いいすよ」
「うふふ、ありがとう御座います」


花の様な笑顔を浮かべ、にこやかに告げたオレを引っ張り、どこかへ案内される


「ここは、私お気に入りの中庭なんです・・うふふ、お父様、お母様、お兄様にしか見せたことないんですよ」
「・・・・・すげぇ」


目の前には一面の花だった。
花の丘とも言える程の壮大な様だった。


「私、良くここに来るんです。ここだけは、私が、私で居られる場所ですから」
「私が私で居られる場所?」
「はい」
「・・・・どういうこと?」
「・・・・私、自分がどうしたいのかって、最近わからないんです」
「わからないって?」
「結婚が・・・嫌になってしまって・・・・」
「・・・・・・」
「私は王族です、民の安寧の為この命を捧げる覚悟はあります。ですが・・・」
「・・・が?」
「恥ずかしい話なのですが・・・時折、そんなのは嫌だと、そう考える自分がいるのです・・・」


伏せ目がちに弱々しく語る彼女。
ああ、本当、優しくて生真面目なんだな。
そう考え、励ますように言った。


「じゃあ、そんな時はまたこうやって話を聞くし、出来ることなら手伝うよ」
「え?」


驚いた表情で顔を上げるマリア姫。


「オレは王族なんて無い世界で育ったからさ、打ち明け易いと思うしそれぐらいしか出来ないしな」
「いえ、充分です・・・ありがとうございますクウガ様」
「一人で出来ることなんて限られてる。何でも出来るって思うなよ」
「はい、クウガ様」


にっこり笑顔を見せるマリア
ドキッと、胸が高鳴る。
んー・・・なかなか素直な好意ってのは照れるもんだな


「あ、そうだ、ちょっとまってて」
「はい?」


部屋に戻ると、自分の荷物からごそごそと、ある物を探す。
すまん、日向。今度ちゃんと埋め合わせは買う。


「これ、オレの世界の簡単なアクセサリーだけど」


そこには、赤いカチューシャが入っていた。


「これは・・・?」
「カチューシャって言って、髪の乱れを抑えるアクセサリーだよ。よければ、かな?」
「どうしてそれを私に・・・?」
「あー・・・うん、この場所を教えてくれたお礼と、その、似合うと思ってさ」
「本当よろしいのですか・・・?このような物いただいて」
「ああ、そんな高いもんじゃないから嫌かも知れねーけどさ」
「そんなことありません!」


力強く否定するマリア。
いつもと違う意志の強い瞳をこちらに向ける。


「私に送っていただいた、こんな、大切な物を・・・嫌だなんてとんでもありません」
「そ、そんなに言ってもらえるとありがたいな」


ぽりぽりと照れくさくて頬をかく。


「ありがとうございます、クウガ様・・・私、どうしてでしょう。あなたと居るととても楽しいんです、すーっとした風の様に、心が晴れやかになるんです」
「そ、そんなの買いかぶりすぎだよ、マリア姫」
「いいえ、ありがとうございます、私、貴方に逢えたことを神の使徒ノアに感謝致します」
「・・・神の使徒ノア?」


不思議な単語を耳にする
ノア?箱舟?


「私達は神、ノアの子孫であり、来るべき時の為に魔法を鍛えているの」
「そういう宗教、ってこと?」
「はい、そういうものです・・・何も考えなくて済むから、つい信じてしまうんです」
「・・・それはダメだ」


しっかり見据え、言葉を紡ぐ。


「思考を止めたら、それは癖になり、やがて楽な方へと流されていく。思考を止めることは死と同義だ、マリア」
「クウガ様・・・・・」


あ、しまった、ツイ姫って付け忘れた。


「ごめんなさい、偉そうなことを、マリア姫」
「いえ、いいのです、私にそうやって真剣に怒ってくれたのはお兄様以外誰も居ませんでした・・・ありがとうございます、クウガ様・・・それに、呼び捨てにしていただいて大丈夫です、私も嬉しいですから」
「じゃあ、マリア」
「はい、クウガ様♪」


満面の笑みを浮かべるマリア


「・・・・あー・・・うー・・・・」


ぼりぼりと頭をかく
あー、スッゴイこっぱずかしい、なんだこれ!なんだこれ!!
スッゴイこそばゆくて、体中が痒くてかきまくるオレ。
そんなオレを可笑しそうにクスクス笑うマリア。


空は、青く、蒼い。
でも、影も、同じくらい濃くなっていた事に、気付かなかった。






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