龍神転生!世界の守護者は今日も気まま

シーチキンたいし

初対面



「んー……暇ねぇ」

こんにちは、龍神に転生したマリアヴェールです。

転生して3ヶ月ほど経ちましたが、全く何もすることがない。あ、たまに神罰は落としてるし、寝ている間に仕事はしてるよ。

でも、それ以外は何もない。この身体は食事の必要がない。嗜好品として食べることは出来るけど、もともと食事よりマナを取り込んで生きてるので、食べることもなければ、仕事以外で眠ることもまた然り。

はっきり言って暇なのだ。

しかし、こうして自由に動けるだけで嬉しいので、今はこの神殿みたいなところを住処にして、精霊達と暮らしている。

『りゅーじんさま!りゅーじんさま!』

『きんきゅーじたいなの!』

「ん?んんー?あぁ、人間か……」

どうやら、面倒臭そうなことが向こうからやって来たみたいだ。

最近更に身体と心が馴染んで、龍神らしくなったところでこれか。あんまり人間に会うのは気乗りしない。

「大丈夫だ、見えてる」

私の能力の一つ、私はあらゆる精霊たちとどんなに離れていてもいろいろと感覚を共有することが出来るのだ。

神罰もこれで落としている。

精霊達は世界にいるので、世界中のことがわかる。まさにチートである。

「あれは……この国の騎士か?」

紋章には精霊を通して見覚えがあった。確か、リューティエス王国の紋章。最初に精霊の保護を訴えた国の末裔だ。

「うーん……暇だったし、会ってみるか」

『にんげんにあうのー?』

『りゅーじんさま危ないよ!』

『りゅーじんさまは私たちが守る!』

「やれやれ、心配するな。少し話して見るだけだ」

心配性な精霊達。ここで生まれた多くの精霊は、先代の時に消えてしまった子達もいるのだ。私の影響を受け、再びこの世界に帰ってきた子達。そのせいか、人間嫌いな子がほとんどなのだ。

「まぁ、こればかりは自業自得だからな」












リューティエス王国の騎士達は警戒しながら森の奥深くへと歩いていた。

龍神が甦ったと知ったリューティエス王国の王は、直ぐ様捜索命令を出した。そして、情報収集の後、異常なほど森の精霊が増えた場所をつきとめた。

そこに龍神がいるとにらみ、王は王太子であるラティオス・リューティエス第一王子に調査命令を下した。


「ほんとにこんなところに龍神がいるのか?父上がこればよかっただろうに」

「殿下、口が悪いですよ」

「今はお前たちしかいないだろ?外ではちゃんと王子様やってんだから問題ないだろ?」

「はぁ……」

王子直属の近衛騎士であるリーフェンは、溜め息をついた。

長い間仕えているので、王子の性格は熟知していた。彼は外では、にこにこと聖人のような微笑みを浮かべてまさに『完璧な王子様』を演じているが、実態はこんな感じなのだ。

かなりの俺様自信家。だがそれに見合う才能と努力をした尊敬できる君主なのだ。

剣もでき、頭もかなりいい。さらには魔法も宮廷魔導師以上使える、本物の天才だ。精霊から名を教えてもらえるほど、精霊にも愛されている。まさに『完璧な王子様』である。

故に、リーフェンの苦労も絶えない。

「精霊の多い森とはいえ、魔物も出ます。油断しないでくださいね」

「それなら大丈夫だ。こい、エスティ」

『呼んだ?』

現れたのは、ラティオスの契約している精霊、風を司る最上位精霊、王子に名を預ける最古の精霊だ。

「この先に龍神がいるかもしれん。そこまで魔物が出ないようにしてくれ」

『イヤよ』

「は?!何でだよエスティ!」

『龍神さ・までしょ!いくら名を預けてるラティオスでも、龍神様を敬わない人間は嫌いよ!』

「わ、わかった、龍神様な」

気安くラティオスが龍神と呼んだことに、怒っていた。契約している精霊は、魔力の相性で契約を結んでくれる。

魔力を渡せば、大抵のことは拒まないのに、エスティがはじめて自分を拒否したことにラティオスは驚きを隠せなかった。

『あと、協力してあげたいけど無理ね。ここ、あの子が居るから』

「……あの子?」

『大地の最上位精霊よ』

「お前以外の最上位精霊はみんな消滅しちまったんじゃねぇのか?」

以前、エスティと契約した初めの頃、「エスティ以外の最上位精霊はいるのか?」という質問をしたことがあった。

しかし、エスティは「すでに人間に弱らされ、消滅してしまった」と答えた。

『そうよ、だけど龍神様がお帰りになったから、龍神様のお陰で復活したみたい』

「まじか……」

「そんなことが……」

『魔法の四大属性と同じように、精霊にも相性があるのは知ってるでしょ?』

「あれか?水は火に強く、火は地に強く、地は風に強く、風は水に強いってやつだろ?」

『そう。大地の最上位精霊がここにいるなら、私じゃ勝てないし』

「まじかぁ……これ、無謀じゃねぇ?」

「しかし、王命ですから」

「やるしかない…か」


しばらく歩くと、やたらと精霊が集まっている場所に出た。

『人間だよ!』

『にんげんだ!』

『りゅーじんさまにちかづくな!』

全部喋っている。つまりここにいる精霊全てが、上位精霊に分類されるのだ。

しかも、結構威嚇している。

下手なことをすれば、精霊を怒らせかねない。そんなことになれば、国は滅びる。

「どうします?」

「ここまで来て……進むしかないだろ」

「畏まりました」

『風の!なんで人間なんかをここに連れてきてんのよ!』

そこに現れた一人の精霊。他の精霊とは違い、エスティのように人語をあやつる。つまり彼女はエスティと同格の精霊。最上位の精霊ということだ。

『大地の……しょうがないでしょ?彼は私の契約者なんだし』

『人間なんかと契約するなんてね』

『彼は他の人間とは違うわ』

『そうかもね。でも、ここで新たに生まれた私達は、人間のせいで消えたのよ!もう二度と人間なんか信用しないわ!』

これは不味いのではないか?と会話の内容から察した。人間のせいで消滅してしまったことを酷く引きずっているようだった。

そんなとき、森の奥からとてもすんだ声が聞こえてきた。


「大地の、もういい。彼らを通してやってかまわん」


まるで音色のようにも聞こえるその声は、しっかりとラティオスの耳に届いていた。

『良いのですか?!龍神様!』

「良い。いつかは誰かが来ると思っていた。それが、今日だっただけのこと」

『……分かりました。』

「人間、私の前に来ることを許す。そのまま大地のについて前へ」

「……っ!」

誰もが声だけで、動くことすらままならなかった。

『言っとくけど、龍神様に無礼を働いたら、たとえ風のと契約してる人間でも容赦しないから!』

大地の最上位精霊はそういうと、着いてこいと言って更に森の奥へと進んでいった。

「これ、俺達大丈夫か?」

「わかりません。しかし殿下、ここで龍神様の気を損ねれば……」

「…わかっている」

ラティオス達は大地の最上位精霊について森の奥へと進むことにした。

しばらく歩くと先程よりも多くの精霊達が舞っていた。これほどの精霊が集まるところは今だかつて見たことがなかった。

そして、ラティオス達は目にした。美しい純白の鱗を持つ美しいドラゴンが、自分達を見下ろしていた。

これが、この世界の管理者。精霊の母─龍神なのだと。

「お、お初にお目にかかる!私はリューティエス王国の第一王子、ラティオス・リューティエスです」

「知っている。私は精霊を通して世界の全てを見渡すことができる。故に、私の知れぬことなどありはしない。」

「っ!?そ、そうなのですか。我らは龍神様が目覚められたと聞き、調査のためにやって来ました!」

「……調査、か」

「……っ!」

「このままでは話しにくいか……よし、少し待っておれ」

「え?」

すると、龍神の体がみるみると縮み、大きな爪は華奢な手に、純白の鱗は白い肌に、美しい鬣は白銀の髪に。

目の前にはこの世のものとは思えないほどの美しい少女が立っていた。



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