童話アベンジャーズ

茜奏

第4話 桃太郎

 
「……とは、言ったものの」
「そう簡単に、見つかるはずないリスね」

 民家へ下りたウサギとリスは、警戒しながら人を探します。

「やっぱり、マタギにお願いした方がいいんじゃないリス?」
「ダメウサよ。きっと僕らが狩られちゃうウサ」
「マタギ以外で、クマさんと戦える人なんて……ん……あれは!?」
「どうしたウサ?リスさん」

 リスの指さした方を見ると、刀を携えた男が歩いているのが目に留まりました。

「あれは……かなり腕利きの者だと思うウサ」
「そうリスね。背中に『日本一』なんて書かれた旗を付けてるってことは、相当な剣豪だと思うリス」

 二匹は頷くと、その男……桃太郎の方へと走りました。

「桃太郎さん、桃太郎さん」
「……む?」

 ウサギがなぜ彼の名前を知っているかは置いておくとして、話しかけられた桃太郎は、顔をしかめます。

「実はお願いが……」
「いや、言わなくても分かっているさ」
「……え?」

 桃太郎はそう言って、腰につけた袋を手に取ると、中からきびだんごを取り出します。

「この団子が欲しいんだろう?ほら、遠慮しないで食べたまえ」
「そうではなく……でも、くれるならいただくウサ」
「美味しそうリス!」

 二匹はちょうど腹が減っていたので、きびだんごを頬張ります。それと同時に桃太郎は、にこりと微笑みました。

「ちょうど良かったよ。鬼退治の子分が欲しいと思っていたんだ。付いてきてくれるかい?」
「……へっ?」
「リスッ!?」
「リスじゃなくて鬼だよ。ここからだいぶ歩いて船を漕いだ先に鬼ヶ島があるんだ。最近、悪さばかりするから懲らしめないと」
「そ、そうウサか……でも僕たち、今それどころじゃ……」
「なに?」

 桃太郎は、きろりとウサギたちを睨みました。

「もしかしてキミたち、きびだんごをタダで貰えると思っていたのかい?」
「「……うっ!」」

 ウサギとリスは1歩後ずさり、ヒソヒソ話しを始めます。

「(こいつ……ちょっと卑怯ウサよ。物で釣りやがったウサ)」
「(でも、もう後には引けない様子リスよ。こっちは鬼どころじゃないというのに)」
「(とにかく、どうにかして説得して、この男を仲間にするしかないウサ。鬼ヶ島なんて御免だウサ)」

 ヒソヒソ話しを終えると、ウサギは深刻そうな顔で桃太郎に向き合います。

「鬼退治も大事かもしれないウサ。でも、この付近の森でもっと大変な事が起きたウサよ」
「……なんだと?」
「そうリス。森でクマが大暴れしてるリス。だから僕たち、ここまで逃げてきたんだリス」
「でも、それも時間の問題ウサ。そのうち民家にもやってくるウサ。そしたら、桃太郎さんの両親にも危機が及ぶに違いないウサ」

 ウサギとリスは桃太郎を納得させるために、必死に言葉を繕って話しました。
 少し無理があるような気がしますが、桃太郎は納得したように頷き、

「なるほど、確かに鬼退治も大事だが、ここの近隣が危険となると、住民として放ってはおけないな」
「そ、そうウサよ。だからクマさんをとっちめてほしいウサ」
「……よし、分かった。案内してもらおうか」

「ありがとうウサ!(上手くいったウサね)」
「助かるリス!(思ったよりチョロくて助かったリス)」

 こうして、クマ討伐の人材が1人集まりました。

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