海賊に殺された現代船乗りだけど、異世界転生のしたので、色々あって海軍に入隊します! 〜知恵と経験を武器に、海賊だらけの海を生き抜いていく~
第1.5話 転機
────────
フォルトルナの町 大通り
勢いに任せ、父の部屋を飛び出したシャロレッタは、行く宛も無く町をさ迷っていた。
「男と結婚して宿屋を継ぐなんて、冗談じゃねえぞ……」
彼女は、あまり宿の仕事が好きでは無かった。
気遣いや、心配りというものを過大に要求され、宿泊客の理不尽なクレームにも対応する必要があり、生前から細かい事には気にしないシャロレッタには、向いている仕事ではなかった。
その点、ヒロだった頃にしていた船員という仕事は、自信を持って好きな仕事だと言えた。
元々、海が好きで目指した仕事でもあり、その為なら多少の不満や理不尽も飲み込めた。
「また、船の仕事に就けねえかな……」
勿論、シャロレッタは幾度となく船乗りの求人を探した。
が、現代世界でも多くはない女性可の求人は、なかなか見付からなかった。
そんな、どうしようも無い事を思いながら道を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
「シャロレッタ、何してるの? 今仕事の途中じゃないの?」
「ん? ……あぁ、ミア。まあ、ちょっと色々あってな」
シャロレッタが振り返ると、そこには彼女と同年代位で、ナチュラルボブの髪型をした少女が立っていた。
「そうなんだ! じゃあ、どこか遊びに行こ?」
「悪いな、今そんな気分にはなれないんだ。それと、あまり人前でくっつくな……色々と悪く言う奴も居るから」
ミアと呼ばれた少女が、シャロレッタの腕に抱きつきながら遊びに誘ってきたが、それを軽く突き放す。
このミアと言う少女は、一応シャロレッタの恋人ということになっている。
15年間女の体で、純粋な女の脳で生きて来たが、どういう訳か、シャロレッタの思考回路は男だった頃のままで、恋愛対象・性的対象も女性のままだった。
「えぇ? 私達、付き合ってるんだよね? じゃあ他の人達なんて関係無いじゃない?」
「俺たちが良くても、世間はそう甘くないんだ」
女として転生したこの世界……少なくともこの国では、同性愛に対する風当たりは非常にキツかった。
それでも、シャロレッタは男と交際するつもりはない為、恵まれた容姿を武器に、隣に連れる女性を取っ替え引っ替えしていた。
ミアもその一人に過ぎなかったが、シャロレッタが交際してきた相手の中で、一番付き合いが長かった。
「む~! シャロレッタ、最近付き合い悪すぎ! また浮気してるの!?」
「もうしてないって! 実を言うと、親父とちょっと喧嘩して飛び出してきたんだ。……婿を取らせて、そいつと宿屋を継がせるつもりなんだ。だから、少しムシャクシャしてるだけだ 」
「え!? シャロレッタ、結婚しちゃうの?」
「するかよ、男となんて冗談じゃねぇ……。そういや、ミアの親は何も言わないのか?」
「ん~、特に言われないね。二人とも私には優しいからかな?」
ミアもシャロレッタと同様、それなりに裕福な家庭に生まれているため、両親からはかなり甘やかされた箱入り娘だ。
彼女の両親は、多少の事は黙認しているようだった。
「へぇ……まあ、こっちの問題はどうにか片付けるから、落ち着いたらまたどっか行こうな?」
「うん! 約束だよ?」
そう簡単に片付く問題では無かったが、とりあえずミアには、社交辞令的な言葉を掛けてやった。
勿論、シャロレッタは大人しく両親の宿を継ぐ気は無い、男と結婚するとなれば尚更だ。
機会が有れば家出をしてでも、一人立ちしようと考えていた。
その機会は思いの外、直ぐにやって来た。
───────
後日
シャロレッタの家 早朝
朝、宿泊客が目覚める前から宿屋の仕事は始まる。
父は朝食の仕込み、母は一部の早発ちする客の世話をしていた。
勿論シャロレッタにも役割があり、ポストに投函された朝刊の回収も彼女の日課の一つだ。
「うぅ……寒っ!」
彼女が中等学校を卒業して間もない、つまり日本でいう3月上旬頃の早朝の寒さは、まだ上着を脱ぐには程遠いと感じさせる。
「新聞ぐらい家の中まで持ってこいよ……」
ブツブツ文句を言いながらも、働かざる者食うべからずの精神で、与えられた仕事はこなすシャロレッタは、投函された新聞を回収して、記事に目を通す。
「うわっ、また海賊被害かよ。どこの世界でもロクなことしねぇな」
飛行機等存在しないこの世界では、国家間での人や物の輸送を船に頼っている。
当然、それらを狙う海賊被害も後を絶たない。
シャロレッタは、この世界での海賊達の悪行を知る度に、15年前に海賊に殺されたことが蒸し返される様で、虫酸が走る思いだった。
「数年前も病院船が襲われたし、海賊マジ滅べ……ん? この記事は……」
海賊被害を報じる記事の近くに、海軍入隊者を募る記事を発見した。
普段ならその手の記事には見向きもしない。
しかし、今回はいつもと違うことが記載されていた。
それは[男女不問]の四文字。
シャロレッタの生まれた国、ガリア王国では、長らく男尊女卑の時代が続いていた。
今まで女の就ける仕事と言えば、娼婦を除くとほとんど無かった。
しかし、近年では[性別で仕事を制限されてはならない]という考え方が広がりつつあり、様々な職業に女性が進出していた。
それが軍の入隊に関することも、今年の採用から取り入れられたのだ。
[これだ!]
シャロレッタは早朝にも関わらず、近所にも聞こえそうな大きな声を上げて、記事の続きを食い入るように読む。
仕事内容 軍艦内での船務、海賊、海獣の討伐
給与 金貨15枚/月(この世界の平均月収は金貨10枚位)
男女不問※但し15歳以上19歳未満とする
「海軍だ……海軍に入れば、俺の大嫌いな海賊を取り締まれるし、この忌々しい家からも離れ、好きな海に携わって、自分の力で生きていくことも出来る!」
別にこの世界の海賊に殺された訳ではないが、現在は海賊そのものを憎んでいた。
単なる当て付けに過ぎないが、この際海賊なら誰でも良かった。
それに、この家にいる限り男と結婚させられるのは目に見えていた。
記事に書いてある給金なら、女であるシャロレッタが得るには、十分過ぎる金額であった。
シャロレッタはその日の内に荷物をまとめて家を飛び出した。
勿論、両親には何も言わず、海軍に入隊するとだけ書いた手紙を残した。
仮にも、15年間育ててくれた二人には悪いと思ったが、言ったところで許してくれないのは分かっていた。
因みに……ミアにもこの事は全く話していない。
目指すはガリア王国首都マリンバール、そこにある募兵所で入隊に関わる審査が行われるそうだ。
第2話に続く
フォルトルナの町 大通り
勢いに任せ、父の部屋を飛び出したシャロレッタは、行く宛も無く町をさ迷っていた。
「男と結婚して宿屋を継ぐなんて、冗談じゃねえぞ……」
彼女は、あまり宿の仕事が好きでは無かった。
気遣いや、心配りというものを過大に要求され、宿泊客の理不尽なクレームにも対応する必要があり、生前から細かい事には気にしないシャロレッタには、向いている仕事ではなかった。
その点、ヒロだった頃にしていた船員という仕事は、自信を持って好きな仕事だと言えた。
元々、海が好きで目指した仕事でもあり、その為なら多少の不満や理不尽も飲み込めた。
「また、船の仕事に就けねえかな……」
勿論、シャロレッタは幾度となく船乗りの求人を探した。
が、現代世界でも多くはない女性可の求人は、なかなか見付からなかった。
そんな、どうしようも無い事を思いながら道を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
「シャロレッタ、何してるの? 今仕事の途中じゃないの?」
「ん? ……あぁ、ミア。まあ、ちょっと色々あってな」
シャロレッタが振り返ると、そこには彼女と同年代位で、ナチュラルボブの髪型をした少女が立っていた。
「そうなんだ! じゃあ、どこか遊びに行こ?」
「悪いな、今そんな気分にはなれないんだ。それと、あまり人前でくっつくな……色々と悪く言う奴も居るから」
ミアと呼ばれた少女が、シャロレッタの腕に抱きつきながら遊びに誘ってきたが、それを軽く突き放す。
このミアと言う少女は、一応シャロレッタの恋人ということになっている。
15年間女の体で、純粋な女の脳で生きて来たが、どういう訳か、シャロレッタの思考回路は男だった頃のままで、恋愛対象・性的対象も女性のままだった。
「えぇ? 私達、付き合ってるんだよね? じゃあ他の人達なんて関係無いじゃない?」
「俺たちが良くても、世間はそう甘くないんだ」
女として転生したこの世界……少なくともこの国では、同性愛に対する風当たりは非常にキツかった。
それでも、シャロレッタは男と交際するつもりはない為、恵まれた容姿を武器に、隣に連れる女性を取っ替え引っ替えしていた。
ミアもその一人に過ぎなかったが、シャロレッタが交際してきた相手の中で、一番付き合いが長かった。
「む~! シャロレッタ、最近付き合い悪すぎ! また浮気してるの!?」
「もうしてないって! 実を言うと、親父とちょっと喧嘩して飛び出してきたんだ。……婿を取らせて、そいつと宿屋を継がせるつもりなんだ。だから、少しムシャクシャしてるだけだ 」
「え!? シャロレッタ、結婚しちゃうの?」
「するかよ、男となんて冗談じゃねぇ……。そういや、ミアの親は何も言わないのか?」
「ん~、特に言われないね。二人とも私には優しいからかな?」
ミアもシャロレッタと同様、それなりに裕福な家庭に生まれているため、両親からはかなり甘やかされた箱入り娘だ。
彼女の両親は、多少の事は黙認しているようだった。
「へぇ……まあ、こっちの問題はどうにか片付けるから、落ち着いたらまたどっか行こうな?」
「うん! 約束だよ?」
そう簡単に片付く問題では無かったが、とりあえずミアには、社交辞令的な言葉を掛けてやった。
勿論、シャロレッタは大人しく両親の宿を継ぐ気は無い、男と結婚するとなれば尚更だ。
機会が有れば家出をしてでも、一人立ちしようと考えていた。
その機会は思いの外、直ぐにやって来た。
───────
後日
シャロレッタの家 早朝
朝、宿泊客が目覚める前から宿屋の仕事は始まる。
父は朝食の仕込み、母は一部の早発ちする客の世話をしていた。
勿論シャロレッタにも役割があり、ポストに投函された朝刊の回収も彼女の日課の一つだ。
「うぅ……寒っ!」
彼女が中等学校を卒業して間もない、つまり日本でいう3月上旬頃の早朝の寒さは、まだ上着を脱ぐには程遠いと感じさせる。
「新聞ぐらい家の中まで持ってこいよ……」
ブツブツ文句を言いながらも、働かざる者食うべからずの精神で、与えられた仕事はこなすシャロレッタは、投函された新聞を回収して、記事に目を通す。
「うわっ、また海賊被害かよ。どこの世界でもロクなことしねぇな」
飛行機等存在しないこの世界では、国家間での人や物の輸送を船に頼っている。
当然、それらを狙う海賊被害も後を絶たない。
シャロレッタは、この世界での海賊達の悪行を知る度に、15年前に海賊に殺されたことが蒸し返される様で、虫酸が走る思いだった。
「数年前も病院船が襲われたし、海賊マジ滅べ……ん? この記事は……」
海賊被害を報じる記事の近くに、海軍入隊者を募る記事を発見した。
普段ならその手の記事には見向きもしない。
しかし、今回はいつもと違うことが記載されていた。
それは[男女不問]の四文字。
シャロレッタの生まれた国、ガリア王国では、長らく男尊女卑の時代が続いていた。
今まで女の就ける仕事と言えば、娼婦を除くとほとんど無かった。
しかし、近年では[性別で仕事を制限されてはならない]という考え方が広がりつつあり、様々な職業に女性が進出していた。
それが軍の入隊に関することも、今年の採用から取り入れられたのだ。
[これだ!]
シャロレッタは早朝にも関わらず、近所にも聞こえそうな大きな声を上げて、記事の続きを食い入るように読む。
仕事内容 軍艦内での船務、海賊、海獣の討伐
給与 金貨15枚/月(この世界の平均月収は金貨10枚位)
男女不問※但し15歳以上19歳未満とする
「海軍だ……海軍に入れば、俺の大嫌いな海賊を取り締まれるし、この忌々しい家からも離れ、好きな海に携わって、自分の力で生きていくことも出来る!」
別にこの世界の海賊に殺された訳ではないが、現在は海賊そのものを憎んでいた。
単なる当て付けに過ぎないが、この際海賊なら誰でも良かった。
それに、この家にいる限り男と結婚させられるのは目に見えていた。
記事に書いてある給金なら、女であるシャロレッタが得るには、十分過ぎる金額であった。
シャロレッタはその日の内に荷物をまとめて家を飛び出した。
勿論、両親には何も言わず、海軍に入隊するとだけ書いた手紙を残した。
仮にも、15年間育ててくれた二人には悪いと思ったが、言ったところで許してくれないのは分かっていた。
因みに……ミアにもこの事は全く話していない。
目指すはガリア王国首都マリンバール、そこにある募兵所で入隊に関わる審査が行われるそうだ。
第2話に続く
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,709
-
1.6万
-
-
9,544
-
1.1万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
9,171
-
2.3万
コメント