海賊に殺された現代船乗りだけど、異世界転生のしたので、色々あって海軍に入隊します! 〜知恵と経験を武器に、海賊だらけの海を生き抜いていく~

ノベルバユーザー379152

第1話 宿屋の娘 シャロレッタ

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 ???

(ん……俺は生きてるのか?)

 撃たれた所までは覚えていたが、その先が思い出せない。
 現在、寝かされている状態だが、起き上がろうにも体に力が入らなかった。

 仕方なく、視界に入るものだけで状況を把握しようとするも、目に写る景色は、パッと思い付くかぎりでは、記憶に無いものだった。

(ここは……船の中でもなけりゃ、日本でもなさそうだな)

 等とヒロが困惑していると、二十代くらいの外国人風の男が視界に入る。

[あぁ、シャロレッタ……起きたのかい?]

(あ? 何だその名前は……って、おい! 抱き上げるな! 男に抱かれる趣味は……嘘だろ!?)

 ヒロ改めシャロレッタの目に映ったのは、部屋の鏡に映る自分の姿だった。

(あれ~? おかしいな……この外人に抱かれる赤ん坊は俺なのか?でも俺は成人してるし、なにより男だし……)

 鏡に映る自分は、どうみても生後数ヶ月位の赤ちゃんで、着ている服装からして、女の子の様だった。

[よしよし、そろそろご飯の時間かな?]

 シャロレッタを抱き上げるこの男は、恐らく父親なのだろう、彼女と同じく蒼い瞳、金色の髪をしている。
 シャロレッタの中のヒロは察した。
[前世の記憶を保ったまま転生してる]、と。

[あなた、シャロレッタのミルク持ってきたわよ]

 次に、女の人の声が聞こえた。
 まだ首が座ってないので首を回してその姿を見ることは出来ないが、この人が母親なのだろう。
   
  ────────
 そして、時は流れ……
 シャロレッタの家 廊下

 シャロレッタは15歳になり、自身を取り巻く状況について色々と分かってきた。
 まずこの場所は、かつてのヒロが住んでいた世界とは、全く異なるものだった。

 初めは、どこぞやの外国の家にでも産まれたのかと思ったが、外に連れ出される内に、早い段階でそれは全くの検討違いと判明した。
 分かりやすく言うなら[異世界]と言うやつだろう。

 昔遊んだRPG系のゲームが、こんな感じの中世~近世のような世界観だった。
 魔法が存在していたり、魔物らしき見たことのない生物も生息しているらしい。

 それについては、まるでゲームの世界に入ったようで、ワクワクしていた……が、それも初めの内だけだった。
 彼女は、成長するに従って、生きづらさを覚えていった。

「シャロレッタ、客室のシーツは代えたの? お母さん、今手が離せないのよ」

 廊下で母とすれ違う際、大荷物を抱えた彼女に早口で捲し立てられる。

「やったよ。それに、こっちだって忙しいんだって! 店先の掃除頼んだの、忘れたのか?」

 若干イライラしながら返答をする。
 会話の内容から察しが着くだろうが、シャロレッタの実家は宿屋だ。
 当然、彼女も色々と手伝わされている。

「こら! いつも言ってるでしょう! 女の子なんだから、ちゃんとした言葉遣いをしなさいって」
「はいはいはい……耳にタコが出来る程聞いたよ」
(うるせぇな……本当の親でも無いくせに)

 心の中で悪態を突く。
 この世界で自分に接してくる人間は、父母すらも偽りの間柄だと認識しており、未だに生前の人間関係に未練を感じていた。

 最近、老いを感じてきた父母、学生時代から接してきた親友、仕事終わりに愚痴を語り合った仕事仲間等々、それらすべての人間に別れも告げられず、殺されてしまった。

 こんなことなら、生前の記憶等無ければ良かったとさえ思えた。

「だったら、ちゃんと言うことを聞きなさい! お嫁に行けなくなるわよ!?」
「あ~……表の掃除があるから、お小言なら後でな!」

 母の呼び止める声がキンキンと背中に響くが、取り合うことをせず、箒を片手にその場を後にする。

 表に出るため、受付けのあるロビーを通ると、今日も宿泊客で賑わっていた。
 両親の経営する宿屋は、このフォルトルナの町唯一の宿泊施設だ。

 町自体は大きくないが、周辺に点在する主要な都市との間に位置するため、商人や観光客が、骨休めとしてこの町に滞在する。

「あ、お嬢様! 旦那様がお呼びです。掃除の方は女中に任せますので、お部屋の方に向かって頂けますか?」

 受付で作業をしていた若い奉公人が、シャロレッタに気付き、声を掛ける。

 宿は大変繁盛しており、何人か奉公人を雇っていた為、彼等からは「お嬢様」と呼ばれるくらいには裕福な暮らしをしていた。
 本人は、その呼ばれ方が好きでは無かったが……

「そうか、悪いな。じゃあ……ここ置いとくからな?」

 箒を壁に立て掛けて、父の私室兼執務室に向かう。

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 シャロレッタの家 父の私室兼執務室

「親父、入るぞ?」

 シャロレッタが部屋に入ると、机に向かって支払い関連の書類の処理をしている、30代後半の男がいた。
 彼がこの宿屋の主人にして、シャロレッタの父親だ。

 現在は事務作業をしているが、彼の主な仕事は調理だ。
 この宿屋が繁盛しているのには、彼の作る料理の評判の良さが、大きく関係していた。

「来たか、シャロレッタ。ちょっと話があってな……大事な話だから、そこに掛けなさい」

 娘の入室に気づいた彼は、机の前に置かれた椅子を示して言った。

「何だよ、改まって……俺の口調や服装に関する話なら、何度したって同じだぜ?」

 彼女は普段、両親の反対を押し切って、髪を短く切り落とし、男物のズボンを履き、同年代の女子より発達した胸を、布でキツく押さえるという、男の様な姿をしていた。

 徐々に女性らしくなっていく自身の身体に対する、せめてもの反抗心の表れだった。

「ちょっとは関係してるかもな……シャロレッタ、お前はもうすぐ中等学校を卒業するな?」
「まあ、来月にはな」
「そうだな。お前は早生まれだから、その一年後にはもう16だ……この意味がわかるな?」

 ここまで聞いて何となく察した。
 16歳とはこの国の結婚可能年齢である。
 まさか、結婚させようというのだろうか?

「何が言いたいんだよ?」
「分かるだろう? 結婚だよ。お前はこの宿屋の一人娘だ。いずれは婿を取って、その人と力を合わせてこの宿を盛り立てていかなければならない」

 そのまさかだった。

「は? 冗談じゃねえ、俺は結婚なんてしねえぞ!」
「ならこの先、どうやって暮らしていくつもりだ? 女のお前が一人で生きていくなんて、並大抵の事じゃできないんだぞ?」

 父の言うことは最もだった。
 この国では、女は結婚して家事子育て、男は労働という考え方が、最近まで定着していた。
 今でこそ、[性別で仕事を制限されてはならない]という考え方が広がりつつあり、様々な職業に女性が進出していたが、女一人で生きていくにはまだ難しい状況だった。

「まあ、お前の男嫌いは今に始まったことじゃないのは分かってる。父さんがお前に相応しい立派な男を探してやるから、まずは会うだけ会ってみなさい」
「俺は……俺は、絶対に親父の思い通りにはならねぇ! 俺一人でも生きていける方法を見つけて、お前らに離縁状を叩き付けてやる! 今に見てやがれ!!」
「シャロレッタ、待ちなさい!!」

 別に男を嫌って居るわけではなく、元男だから、男と結婚したくないだけだ。
 シャロレッタは父の制止を無視して、部屋を飛び出した。

 第二話に続く

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