ファンタジー生物保護ってなんですか?

真白 悟

第18話 秘密

 そんなこんなで、山田君と妹が家路につくのを見送って、僕たちは場所を移動する。空は完全に赤くなり、もうそろそろ日が暮れそうだ。
 一応補導されるような時間にはまだほど遠いが、あまり長い時間外労働というのもよろしくないだろう。僕だって、晩御飯の時間までには帰りたいし、先輩を遅くまで連れまわすのもどうかと思う。
 だから、僕は早速核心に迫ることにした。

「それで、先輩……犯人っていうのはやっぱり?」
「はい、彼女ですね」

 先輩は即答する。
 僕たちの予想はやはり間違っていなかったようだ。
 いや、僕的には少し外れてほしかったから、予想は外れたといった方がいいのかもしれない。

「にしてもどうして? 見る限りそんなことするような人じゃないと思うんですけどね……」
「人は千差万別です。そもそも、心が全く読めない時点で気がつくべきだった。どうして、心を完全に覆い隠す必要性があったのか……彼女なら、私と同じような能力者なら、力の制約のことを知っているはずなのに……」

 先輩も少しも彼女を警戒していなかったようだ。少しだけ残念そうな顔をしている。
 そりゃあ、先輩のことを好きだといった女の子を先輩が疑うというのもどうかと思うけど、それでも、どう考えても怪しいと思わなければならなかったはずだ。
 なのに、どうして、僕たちは……

「力の制約……僕にはないですけどね」
「それが誠君の力のすごいところであり、逆に制約でもあるわけですが……ともかく、心を読んだり、思考を読んだりする能力には制約があります。私の場合は知っていますよね?」

 ということは、彼女も同じなのだろうか。
 僕は小さな疑問を先輩にぶつける。

「ということは彼女にも?」
「はい、彼女の場合も何等かのデメリットがあると考えるべきでしょう。もちろんない可能性が0とは言えませんが……」
 
 それはいったいどれのことなのだろう? 僕の肩に触ること……もしくはキスをすること……告白すること……今思えばどれも怪しい、しかし、それほど密接な関係にならなければならないということは、少なからず、山田兄とも、以前から接触していたはずだ。
 だったら、山田兄が彼女のことを覚えていないというのはおかしいだろう。
 つまり、能力の発動条件は接触すること……だが、それだけなら、僕たちに必要以上にアプローチする必要がない。
 考えれば考えるほど、彼女の目的がわからなくなる。
 そんななか、一人だけ蚊帳の外であった先生が口を開く。

「それで、その彼女っていうのは誰なんだ?」

 まあ、もっともな質問だ。それを知らなければ、そもそも僕たちの話題に入ることすらできないのだから。

「僕の宮下クラスメートです」

 僕は先生に情報を提供する。
 しかし、意外にも生徒の中に隠れていたFA、山田兄の正体を知っていた先生が強めに否定する。

「馬鹿言え、あいつはFAじゃないぞ」

 それは、何かしらの確信があったからだろう。しかし、僕たちはこの目でしっかりと彼女の力を見ているわけだ。先生の言い分は通じない。
 だが先生の反応からは嘘をついているとは思えないが、ともかく、僕は事実だけを話していく。

「ですが、僕は直接彼女の力を見ました。まず間違いないでしょう」

 あの、部室での出来事が何かしらのトリックを用いたとは思えないし、何より、宮下が嘘をついていたとしても、僕の能力で見破ることなどたやすいことだ。
 それでも先生はひくことはない。彼はこれっぽっちも嘘をついていないからだ。

「しかしだな……FAに関することは俺と校長はすべて把握している」
「どうしてそう言い切れるんですか?」

 歯切れがいいとは言えないが、それでも先生は確信を持っているようだ。
 それでも僕だって同じで、彼女が能力者だということを知っている。一応それは先生にだって言葉で伝えているのだが、それよりも信頼できる何かがあるということなのだろう。それがなんなのか――

「……悪いが詳しくは言えない、だが、FAを見分ける方法がある」

――やはり、先生は機密事項を握っているということだ。

「先生……まさか、私の能力でも読み取れない部分があるのは……そういうことですか?」

 突然、先輩が驚いたような声でそう言った。
 僕はあまり深く考えていなかったから、先輩の言葉によって恐ろしい事実を知ることとなった。先生は能力に抵抗する手段を持っている。

「どういうことです!?」

 恐ろしいことは、先生が僕たちに対してそれを隠していたということだろう。それは思ったよりも心にくるものがある。胃が痛い。信じていたものに隠し事をされるということがこれほどつらいことだとは思っていなかった。
 今までに信頼できる人が少なかっただけに、結構しんどい。心が痛むなんて人間じみたことを言うつもりはないが、それでも愚痴の一つでもこぼしたい気分だ。
 そんな僕の心内を頭に入れず、先生はいつもと変わらない口調で言う。

「ああ、お前の言うとおりだ。葉月」
「つまり、私たちFAに対抗する力が存在すると?」

 先輩は初めて自分の能力に対抗する手段があると知って、淡々とした口調ながらも驚いている様子だ。先輩がそれほど驚くということは、実際に先生の心を読むことが出来ていない証拠となるだろう。
 すなわち、僕の能力だって同じだ。もしかしたら、今までだって僕の能力に対抗していたのかもしれない。
 
「ああ」

 先生は冷淡な表情をして頷いた。

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