繰り返す日々

七夕

3

 
 あいつらを殺すと決めてから、ボクはずっとそのことだけを考えている。

 一気に殺すか。じわじわと殺すか。それとも事故を装って殺そうか。

 最終的にはすべての方法で殺すつもりだが、記念すべき最初の一回だけは趣向を凝らしたい。

 バレても構わない繰り返しの日々だけど、それでも完全犯罪を目指したい。

 どんなことも初めては大切にしたい。

 きっとあいつらを殺すときは最高の瞬間だろうから。

 だからいつも通りあいつらに呼び出された時、ボクは笑い出しそうになるのを我慢して観察する。

 ひったくりを断ったらどうなるか。

 反撃したらどうなるか。

 本当にひったくりをしたらどうなるか。

 お金を渡さなかったらどうなるか。

 思いつく限りのことをやってみて、あいつらの反応をみる。

 あいつらの行動パターンを確認してからあいつらを殺してやるんだ。

 

 半月ほど試して、ようやくあいつらを殺す計画を練り終えた。

 色々悩んだけど、最初はシンプルに行こう。

 とりあえずリハーサルだ。

 予行演習をしておかないと、いざというときに失敗してしまうかもしれない。

 お婆さんの横を駆け抜けたボクは、あいつらから見える位置で足を緩めた。

 するとあいつらはバカみたいな面をしてボクのことを追いかけてくる。

 走って、走って、走った。吊り上がる口元を隠すことが出来なかった。

 土手沿いにある高架下。

 そこまであいつらを誘導して、ようやくその足を止める。

 電車の音が轟き、息を切らせて追いついてきたあいつらの怒声はかき消された。

 この時間、この場所に他に誰もいないことは確認済み。

 あいつらがノコノコとついてくることも今確認できた。

 ボクはそのことに満足すると、逃げるようにその場をあとにした。



 更に数日が経過した。

 何度も高架下へ誘い出し、実験と検証を繰り返した。

 いつも決まってあいつらはボクをここまで追いかけてくる。

 今日も当然追いかけてきた。

 もう十分だ。明日結構しよう。

 家に帰る途中、ホームセンターで包丁を買おうと思ったがやはり止めた。

 だって明日になったら元に戻ってるんだから。

 そのことが可笑しくて、そして楽しみで。

 まるで遠足の前のこどもの様にボクは笑った。

 いつもうるさいくらいに響くセミの声が今日は気にならなかった。



 早朝。

 今日は決行の日。

 あいつらにつけられた痣は消えていて、最高の日に拍車をかけるようだった。

 学校へ行くといつものように岡本たちがボクに絡んでくる。

 表面だけ普段通りを装い、心の中で笑う。

 今は見逃してあげよう。何しろ今日は最高の罰が待ってるんだから。

 いや、今日だけじゃない。ボクが飽きるまでしばらくはキミたちで遊んであげる。



 放課後になり、あいつらに呼び出された。

 ボクはリハーサル通りにあいつらを高架下までおびき寄せる。

「米井ぃ、てめぇなに逃げてんだよ」

 須藤がバカ面を歪めて詰め寄ってくる。

 この反応も確認済みだ。

 ボクは口元を吊り上げ、須藤の懐に体当たりをするように飛び込んだ。

ーートスッーー

 軽い音だった。

 一拍遅れて須藤が痛みに呻き倒れこむ。

 そこからは更に痛快だった。

 他の四人はこともあろうに須藤のことを頬って逃げたのだ。

 それも情けなく小さな悲鳴をあげて。

 可笑しくてバカみたいに笑った。

 そしてまだ息のある須藤に告げる。

「バイバイ。思ったよりあっけないね。それに罪悪感なんてまるでない。害虫駆除と変わらなーーあ、もう死んじゃった?」

 瞳孔が開きっぱなしになった須藤の顔を踏みつけると、ボクは家に帰る。



 家に帰ったボクはベッドの上で明日のことを考える。

 明日は別の武器で殺そうか。それより、他の四人が逃げられないように罠でも仕掛けてみようか。

 まるでゲームのタイムアタックを試みるように色々なことを考える。

 そんなときだった。

 部屋の窓ガラスに小さな雫があることに気がついた。

「え?」

 窓にかけより確かめる。

 するとその雫はあっという間に数を増やし、外は篠つくような雨が降り始めた。

 

 一睡もできなかった。

 未だ降り止まない雨の中、ボクは通学路を歩く。

 どうして雨が降るのか。

 もしかして繰り返しが終わってしまったのかと震え上がっていたが、両親の反応からそうじゃないことは判明した。
 
 では何故?

 それを知るためにもボクは学校への道を急ぐ。



 教室であいつらが来るのをじっと待つ。

 つい最近まであいつらなんか来なければいいと思っていたのに、今日は早く気て欲しいと思った。

 しばらくすると廊下からあいつらの声がした。

 ほっと胸を撫で下ろした。

 しかしそれもつかの間、すぐに違和感に気づきまたも不安がボクを襲う。

 須藤がいない。

 いつまで経っても須藤は教室のドアを潜ることはなく、また岡本たちも須藤がいないせいかボクのところへはやってこない。

「あの…須藤くん、は?」

 思い切って聞いてみることにした。

 いじめられているボクの方から話しかけたためか、教室中を一瞬の静寂が包み込む。

「うるせぇな、米井。話しかけんな、ボケ」

 ボクに話しかけられたことが気に食わなかったのか、藤田はボクを突き飛ばすと話は終わったとばかりに背を向けて談笑を始めた。

 気になることは色々とあったが、とりあえず大人しくしていることにした。

 今日の放課後は呼び出されなかった。



 その翌日、雨が止んでいた。

 僅かな希望を感じて学校へ向かうも、昨日と同じで須藤は欠席だった。

 その日も放課後呼び出されることはなかった。

 

 更に2日が経過した。

 相変わらず世の中は同じことを繰り返していたが、それでも須藤は戻らない。

 ついに気になってボクはあの時の高架下へ向かうことにした。

 学校をサボり何度も通った高架下までの道のりを進む。

 やはり人通りは少なく、誰ともすれ違うことはなかった。

 ようやく高架下に辿り着く。

 高鳴る心臓を抑えこみ、ゆっくりと歩み寄るとそれはあった。

 カラスの鳴き声とたかる蝿。強い腐敗臭によりボクはその場で嘔吐した。

 いつかの岡本たちのように、ボクは小さな悲鳴をあげてその場から逃げる。

 そうしてどれくらい走っただろうか。そこでようやくボクは気づいたんだ。

 セミが鳴いていないことに。


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