繰り返す日々
2
翌日。
どうしても行きたくないと親に懇願したが、それでも家を追い出された。
今日学校へ行ったらもしかしたら殺されてしまうかもしれない。
胃の中身が逆流しそうになるのを堪えて、震える足で学校へ向かっていく。
教室に入ると周りを見回した。
どうやらあいつらはまだ来ていないようだ。
自分の席に座り、ビクビクと震えながらあいつらが来ないことを祈る。
だけどそんな祈りは届くはずもなく、やつらのうるさい声が廊下から響いてきた。
息が詰まる。
涙が滲みそうになりながらその時をじっと待つ。
ついにあいつらが教室に入ってきた。
ボクの姿を見つけると、岡本が真っ直ぐに向かってやってきた。
「よう、米井。今日も懲りずに来たんだな。どうした、その痣?」
にやにやと薄ら笑いを浮かべて岡本が肩を掴む。
「え?」
予想外の言葉に頭の中が真っ白になり、呆けたようにあいつらを見る。
他の四人も不思議なことに、適当にボクのことを小突いて去っていった。
どういうことだ?
あいつらの後ろ姿を眺めてボクはひとり考える。
もしかして昨日のことを忘れているのか。いや、そんなはずはない。
きっとひったくりのことがクラスの皆にばれないように口裏を合わせてるんだ。
頭のなかで考えをまとめていると、いつの間にかHRが終わっていた。
今日は終業式なので体育館へ移動しようと立ち上がるが、クラスの皆は教科書とノートの準備を始めた。
なんだ? どうして体育館へ移動しないんだ?
先のHRで先生が何か言っていたのだろうか。
訳も分からずもう一度席に座り直し、皆の様子を覗う。
それからしばらくして英語の授業の担当教師がやってきた。
誰一人としてそれに疑問を抱くことなく、授業はそのまま行われた。
授業の内容は昨日と全く同じだった。
それに今日は終業式のはずなのに誰もそのことに触れようとしない。
そしてあいつらは昨日のことをまるで無かったことのよう振舞っていた。
ループしている。
半信半疑であるがボクはそう考えていた。
答えは今日の放課後になってからだ。その時になればきっとわかる。
放課後。
「ちょっとこいよ」
やはりボクは呼び出された。
いつもの体育倉庫ではない。商店街だ。
「あの婆さんの荷物ひったくってこい」
ヘッドロックをかける須藤は昨日と同じくお婆さんを示して告げる。
ようやく確信することが出来た。
思った通り昨日と同じことが起こっている。
であればボクのやることは決まっていた。
昨日やったのと同じようにお婆さんの横を駆け抜けあいつらから逃げ出す。
乱れる呼吸を整え、追ってくるはずのない彼らから逃げのびられたことに安堵する。
家に帰るとベッドに寝転がり、明日のことを考えて眠りに落ちた。
やはり今日も昨日と同じ授業が繰り返された。
昨日と同じことを話し、昨日と同じ行動をとり、昨日と同じことをして過ごす。
しばらくは様子見をするために大人しくしていよう。
今日の放課後はあいつらに話しかけられると同時にかけだして、家へと逃げ帰った。
あれから一週間が経った。
今日は学校へは行かずに公園で過ごすことにした。
誰も同じ日々の繰り返しに疑問を抱くことはない。
人気のない公園のベンチにひとり座りながらジュースを飲む。
ようやく平穏な日々が戻ってきた。
ボクはこれからずっとこうやって自由に生きていくんだ。
あいつらなんてもう怖くない。
何しろ何をやっても日付が変われば無かったことになるんだ。
そうと分かればこれから何をしよう。
金やゲームでも盗むか。いや、そんなことをしても明日には元に戻ってるんだ。意味が無い。
「ああ、そうだっ」
あまりの名案に手を叩いて自分を賞賛した。
今ボクはきっと、とてもいい笑顔をしていることだろう。それくらい晴れやかな気分だ。
一気に飲み干したジュースの空き缶を投げ捨て、ボクは言う。
「あいつらを殺そう」
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