異世界で神から最強の力を手に入れたはずがそれが最弱だった件について
第二十六話 盲目の少女
広い草原。辺り一面が建物や木々が一切なく、このまま歩いて行っても無事に着くのか不安になりそうだ。
それに加えて、日が直接俺たちの体に当たり、体温を徐々に上げている。
俺は黒コートの懐にしまってある木で作られた器に入っている水を口を含む。
大分飲むのを我慢していたので水がとても美味く感じる。
俺の後ろについてきているエリシアやアリシャ、明日香は森の中で発見した木の枝を突きながら草原を歩いている。三人とも今にも死にそうな顔をしていた。
「竜二ー。このまま歩いて、本当に洞窟に着くんですか?」
木の枝を突いて、下を向きながらゆっくりと歩いているアリシャが俺に問いかけてきた。
「あぁ、もうすぐで次の街のサガステラに着くと思う。多分だけど」
俺は森でいい枝を見つけられなかったので、普段通りに歩いている。
「何ですか、多分って。保険をかけないで下さい。私はもう倒れそうなんですよ。希望を持たせてくださいよ!」 
「私も倒れそう。竜二、まだー?」
「俺に誓って、もう見えるはずだ」
下調べした情報によればもう少しで着くはずなんだ。
 
「私は竜二を信じるしかありません」
 
「エリシアちゃん、アリシャちゃん、私の肩貸そうか?」
明日香も死にそうな顔なのに、エリシアやアリシャを気遣うなんてなんか変だ。
「いえ、気持ちは有り難いのですが不要です」
「私もまだ何とかいけるわ」
「そう、なら竜二は?」
「うるさい。それより見えてきたぞ」
明日香からの申し出を断り、俺は遠くの方に見える街に指を指す。
「やっとだな。もう少しで着く!」
「もうここで死んでも良いくらい、嬉しいです」
「その例え怖いからやめろ」
「竜二、抱っこして」
「いや、さっき肩貸そうかとか言っておいて俺になにか求めるなよ!」
 
「さぁ、みんな後、一息。頑張っていきましょう」
エリシアがみんなに声をかけ、元気な後押しをした。
そして、20分程歩き、巨大な門の前まで辿り着いた。高さ30メートルは超える高い壁はもの凄く迫力がある。
門の前では、多種多様な種族が並んでいて、俺たちはその最後尾に並んだ。
また、門の入り口では、全身に鎧を着た、二人の衛兵らしき人物が入国審査をしていた。
エルフ、ドォワーフ、ゴブリン、ヒューマンなどが次々と街へ入っていく。
それにしてもまだまだ街の入り口への行列は一向に減らない。
昔、家族と行ったディズニーランドの行列で計算すると後30分は待ちそうだ。
「さて竜二、これからどうする?」
エリシアが俺の方を向き疑問顔を浮かべてくる。
「そうだな。洞窟への道のりはまだ長い。だか、この街には馬車があるらしい。それを手に入れて、冒険の疲れを二、三日この街で取り、そしてまた出発しよう」
「賢明な判断だな。私もそれで構わない、他のみんなはどうだ?」
「うん。私も竜二とイチャイチャ出来るなら何でも構わない」
「......」
「どうしたアリシャ?」
「い、いや何でもないです。少しボーッとしていただけです。私も竜二に賛成です」 
アリシャがどこか上の空で落ち込んでいた気がしたのだが、俺の気のせいか。
「なら決まりだな」
「あのー何でこんなに長いんですか?」
「この街、サガステラは他の街と比べて一番大きな街。その賑わいは他国の人々からも注目を浴びていて、産業や貿易などの中心になっている」
「エリシア詳しいな」
「私を甘く見ないで下さい。この世界の情報は小さい頃学ばされましたから」
そうか、王女様だった。エリシアと冒険していくうちにすっかり忘れていた。
「大きな街...私少し楽しみです!こんなに旅をするのも、街を巡るのも初めてでとても新鮮です」
 
「アリシャ、それは私もよ。私も何もかもが新鮮で、そして美しい」
「美しい?」
アリシャが疑問に思ったようだ。
「うん。竜二を旅をして改めてこの世界が美しい事に気づかされた。綺麗な街や湖、川や森、そして空気まで。やっぱり私は冒険者になれて良かったって思うわ」
「そんな事ない!」
「竜二、何か言った?」
 
「何でもない...」
少しその場が凍りついたが、特に気にしている様子がなく一安心する。黙っているつもりだったが思わず声に出してしまった。
この世界は残酷なんだ、狂っているんだ、間違っているんだと今すぐにでも言葉に出したいが心の中で思うことにして、必死に抑え込む。 
「私は竜二がいるだけで何もかもが美しくなる、だから私には竜二が必要なの」
「お前の事に、俺を巻き込むな!」
 
「えー、だって竜二が大好きなんだもん。しょうがないじゃーん」
「しょうがなくない!お前のそのノリにはもう散々だ」
「私はやめないからね。竜二の想いを言葉にするのは」
「あ、あ、あ、あのー。一緒に来てもらえますか?」
俺と明日香が話している最中に突然、声をかけられた。
「え?わ、私?」
明日香に突然声をかけられて慌てている。
「そ、そ、そうです。ご主人様が貴方をご所望です。お願いですから一緒に来てください」
明日香に声をかけた人物は汚れている灰色の髪にどこか可愛げのある顔、それに加え、目に包帯が巻きつけられてあった。背は低く、10歳ぐらいだろう。首につけられているのは奴隷の首輪なのだろうか。
この子が発する言葉だけでも声が震えているのがわかった。
「へー、貴方奴隷ね。主人に命令されたのね、それで貴方のご主人様はどこにいるの?」
「い、い、言えません。来てください。」
「嫌だ、気色悪いわ」
「で、で、ですからお願いします。何でもしますから」
必死にお願いしている少女を見ると心細くなる。
「だからやだって言ってるでしょ」
「そ、そ、そんな...」
「なぁ、君の名前はなんて言うんだ?」
俺は明日香と少女の間に入った。
俺はしゃがみ込み、少女と同じ高さで話す。
「ティ、ティ、ティア・グリーンウッドです...」
「そうか、この包帯解いていいか?」
「い、い、いですよ」
俺は薄汚れている包帯をほどき、目を見ようとしたが、そこにあるはずのものがなかった。
目は抉られていて、二つの空洞の中には暗闇が広がっていた。
「そんな...酷すぎる」
「も、も、もういいですか?」
盲目の少女は笑顔を崩さず、俺の握っている包帯を取り、自ら巻いていく。 
「り、竜二!私を差し置いて女を口説くなんて最低ね!」
これを見て、何にも思わなかったのか、明日香はよくわからない疑いをかけてきた。
明日香も俺の彼女の理沙の目を抉りとったんだよな。
「違うって、俺も行くんだよ」
「行くって、この子のご主人様の所に?」
「そうだよ。そしてこの子を解放してやる」
こんなご主人の所にいてはこの子が可愛そうだ。
「だ、だ、ダメです。ご主人様は強くて手も足も出ません。だけど、来てくださると言うならお願いします」
「あぁ、ティアよろしくな」
「はー、もう竜二は、まぁ私もこの子のご主人様に一発食らわせてやろうと思う」
明日香はため息をつき、俺の決意に賛同する。 
「その域だ明日香。なら案内してくれ」
「わかりました。ではこちらです」
俺と明日香はその少女についていこうと足を踏み出した時、後ろから声がかかった。
「ちょっっと、竜二ーーー」
エリシアが少し大きな声で俺に呼びかけてくる。
「そうだエリシアとアリシャは先に街に入っておけ」
「しょうがない。アリシャ、私たちは中に入って宿でもとって二人を待っていましょう。あの二人なら上手くやってくれるでしょう」
「ですね。任せて良さそうですね」
エリシアとアリシャは待つことを決め、門の方へ向き直る。
俺たちは前を行く、少女について行くのだった。
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※お読み頂きありがとうございます。それと感想欲しい!これからもぼちぼちと投稿して行くのでよろしくお願いします。
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