蓮華伝

ノベルバユーザー347503

蓮華伝

 華の世、蓮の国に蓮華という見目麗しい少女がおりました。

 
 彼女の出生には極めて稀な由緒があり、なんでも、とある媼と翁がある神社に子授け祈願をした数日後、媼が天つ池の前を通りかかると、天つ池に群生する蓮の一つが、キラキラと輝いているではありませんか。

 
 
 媼が不思議に思って近づくと蕾であったその蓮がふわり、と花開きその中から現れ出たのは一寸ばかりの小さ子でした。媼は『申し子である』そう大いに喜び、その子を家へと連れ帰ります。蓮の華から産まれたその子は蓮華と名付けられました。
 
 

 そう、その子こそ先に語った彼女、蓮華であったというのです。
 
 
 
 摩訶不思議なのはその出生だけではとどまらず、彼女はその身に霊力を宿し、立ち枯れた苗を蘇らせ、ついには人の病を癒す奇跡をも起こしてみせます。蓮華はその神通力で蓮の国に尽力していくうちに、国の人々から化生、つまり神の化身として持ち上げられていく事になりました。
 
 
 
 そんなある日。
蓮華の夢に美しい女性が現れ、自分は太陽の神だと名乗った後、告げます。

『蓮華、如意宝珠にょいほうじゅを探し求めなさい。華の世は徒花の如く、緩やかに終末へと向かい、枯れつつあるのです。如意とは思った事がその通りになる、という意味。その名が示すように如意宝珠とは人の願いを思いのままに叶える宝珠。それを不動の国におわす龍神様から授かり、扱うには神性という資格が必要です。そして、如意宝珠を使い、華の世を永遠のものとすることが出来る可能性を持つ者は蓮華、貴女しかいない。それこそが貴女が下界で成すべき役目、使命なのです』
 
 
 
 蓮華はお告げを聞いたその晩の内に旅の支度を整え――次の日、決然と翁と媼に切り出します。昨夜に見た夢の内容を。自分が成すべき使命を。
 
 
「お爺様、お婆様。手前勝手にこの地を立つことをお許し下さい。ですが、かねてより私はどうして、このような【力】を授かったのか、その理由を探しておりました。昨晩の太陽神様の神託により、ようやく、それがはっきりしたのです」
 
 
 今は戦乱の世。二人は最初こそ「行かないでおくれ」そう懇願しておりましたが、決意のこもった眼差しに次第に何も言う事ができなくなります。
 
 
「蓮華や、どうやら決心は固いようじゃの。行ってくるがいい。わしらは、もう止めはせん。だが、神の子であろうと。主はわしらの子じゃ、一寸の頃からその成長を見守ってきた。その覆らない現と共に、主の郷里はここにある。……いつでも戻っておいで、蓮華」
 
 翁の意見に媼も頷きます。
 
「ありがとう……お爺様、お婆様」
 
 翁と媼の温かな計らいに背を押され、蓮華は蓮の国を立つことになりました。
 
 
 旅立った蓮華は身に宿す異能で旅先の様々な困却している人々を救っていきます。


その永い旅路の果てに――ついに、蓮華は龍神様のいる不動の国へと、たどり着き、そこで龍神様と相見えることになったのです。
 
 蓮華は膝ま付き、龍神様に積年の願いを懇願します。
 
「どうか、華の世のため、貴方様の持つ【如意宝珠】を授けては頂けないでしょうか。華の世はこのままでは衰退し、枯れてしまうのです」

 その懇願に龍神様がお告げになりました。

『授ける事は容易である。だがこれを扱うには、資格が必要だ。【神性】という資格が。しかし、視たところ汝の神性は永い永い旅を経る内にとうに絶え果て、枯渇してしまったとみえる。……神通も、無償ではない』
 
 
「そんな……では、どうすれば……?」
 
 彼女はその事実に愕然とします。

 すると、蓮華の心情を見てとった龍神様は、
 
『……そう悲観することはない。華の世の枯死は極めて緩やかに進行している。汝の行ってきた善行に答え、我が力をもって汝の神通を代々汝の族に受け継がれるようにしよう。蓮の国へ戻り、子を成すがよい。汝の次の、そのまた次の代か――我の与り知る事柄ではないが、だが確言しよう。いずれ、汝の神性を遥かに凌駕し、華の世を救い得る童が生まれ落ちる。継承した神通により、善き業を積む事を族の役目とせよ。それが族に課す我からの代価である。神性を備えたその子が我の元へたどり着けたならば、我はその子に無限の価値を持つ珠。如意宝珠を授けよう。しかし、ゆめ忘れるな。願いには代償が付き物。それだけの願いを叶えるというならば、珠はその子の魂を要求するであろう。その条件を飲んだ時こそ永遠の繁栄が約束される』
 
 と、お答えになりました。
 
 
 龍神様のお言葉を聞き届けた蓮華は自身の族にそのような宿命を負わせてしまってよいものか……心に澱を抱えながらも蓮の国へと帰還します。そこで図らすも、以前より心を寄せていた相手と結ばれ、子宝にも恵まれて、蓮華はようやく自身の使命から解き放たれたのです。ただの村民として、幸せな余生を送ることができたのでした。


コメント

コメントを書く

「童話」の人気作品

書籍化作品