色災ユートピア
1.続編 色虐ディストピア
これはとある世界の、無限に広がる可能性。
パラレルワールドと称される、少し先の未来からやって来た、人工生命の話。
細胞の一つ一つがコピーされ、混ざっていく。
姿も、力も、記憶すらも、刻まれた記録によって、染められていく。
誰かの生きた人生を、まるで自分が生きたかのように錯覚する。
ただの一つも自分のものではないというのに。
───やがてソレは、人格を持つ。
「産めばお金になるって言うから産んだけど、やっぱり気持ち悪いわ。」
女性が冷めた目で、こちらを見下ろしている。
「ま、別にお腹を痛めて産んだわけでもないし。それじゃあね。」
他の赤子より、ずっと小さな体。
それでも生きることは可能だ。
産まれてしまえば、カプセルの中にでも入れておくことで、やがて嫌でも成長する。
じいっと女性を見る。
理解している。
泣き叫ぶこともなく、すがることもない。
そんなことをしたところで、目の前の人間が助けてくれるはずもない。
彼女はそういう人間だ。
彼女の腹から産まれたとはいえ、血の繋がらない母親で、その赤子は人工的に造り出された生命。
"人間"ではないのだ。
───さて、こういう時はどうしたものか。
細胞に刻まれた記録から、答えを模索する。
無駄な体力は使わない。
解、現状は行動しない。
こんな小さな体で何が出来る。
何も出来はしない。
なら、来るはずもない人間を待ちながら、死に思いを馳せて、眠るのがいいだろう。
来たら生きる、来なければ死ぬ。
ただ、それだけのこと。
ぼんやり空を見上げる。
白雲が悠然と流れ、時の流れを感じ取る。
さっきから、きゅうーっとお腹が鳴るが、食べ物がない現状、気にするだけ無駄だろう。
───何故、気持ち悪いと思われたのだろう。
時間を持て余した赤子は、考え始める。
───歯が生えていたから?
───目が開いていたから?
───髪が生えていたから?
───泣かなかったから?
───感情がないから?
否、そんなもの後付けでしかない。
結局、生まれると決まったその時から、嫌われるのは必然だったのだろう。
人造人間が人間の奴隷として、使い捨てられるように。
ぽつり、ぽつりと何かが落ちてくる。
冷たいそれは、"雨"だ。
気温はそれほど低くないが、夜までに乾かねば風邪をひいてしまうかもしれない。
もしくは、箱に水が溜まって溺死するか。
───運がないなぁ。
ぼんやりと空を見上げる。
晴れているのに雨は降る。
どことなく、幻想的だ。
目を閉じる。
このまま眠ってしまおうか。
ぽつり、ぽつりと頬を打つ、冷たい雨の感覚はない。
───?
目を開く。
あぁ、日除けの傘だ。
───傘?
本当にこの傘は今までここにあったか?
───違う。
こんな傘は無かった。
「───さすがに露骨すぎたかな。」
いつからそこにいた?
「うん…そうだな、お前なら気付く。幼体とはいえ、お前は理解しているから。」
黒い髪、ところどころ白いメッシュが入っていたり、髪の毛先が白く変色している。
そして、隻眼。
目の前のソレは、無感情にこちらを見ている。
観察している…とでも言うべきだろうか。
「俺…俺は観察者。少しだけ、お前の手助けをしよう。」
酷く既視感を覚えるソレは、静かに目を伏せた。
違和感を確かに覚えた。
「これからお前は、一人の老人に拾われる。その老人はお前にとって、かけがえのない存在になるだろう。そして、その時からお前は、お前の人生を歩み始める。行き着く先が孤独でも、それは結末ではない。」
ロボットのような、機械的な口調。
言っている意味が、真意が、理解出来ない。
「可能性は無限にある。お前は、その可能性を選び、掴み取る力を持つ。それをどう扱うかは、お前次第だ。そしてやがて、お前は様々なものを得るだろう。お前が、お前の願いを叶えるために動くのならば、世界はお前の意思の通り、周り始める。」
願い───
「今はまだ、その時ではない。お前が感情を受け継いだ時、お前は初めて願いを持つだろう。」
姿が揺らぐ。
きっとどこかへ行ってしまうのだろう。
また、興味深いものを探しに。
やがて気配も消えて、またひとりぼっちになった。
ぼんやりと空を見る。
心地好い雨音。
赤子は静かに目を閉じた。
ぽん、ぽん、と誰かが優しく腹を撫でている。
背中が妙に暖かい。
赤子はふと目を覚ました。
目に映るのは、自分の腹を優しく撫でている、大きな手。
数秒後、赤子は誰かの膝の上に乗せられていることを理解した。
「…………。」
細胞に刻まれた記録が、酷く懐かしさと安堵を感じさせた。
間違いなく、信頼出来る人間だ。
懐かしさや安堵と同時に、無性に寂しさが込み上げてくる。
おそらく、細胞の記録がそうさせている。
たとえそれが、自分自身の持つ感情ではないことを理解していても。
甘えずにはいられない。
「んん?おー、起きたかい。」
優しげな声が頭上から聞こえた。
赤子はきゅうっと手を握る。
「おやおや、ひとりぼっちで寂しかったんだね。どこへも行ったりはしないよ。」
頭を撫でられる度、声を聞く度、満たされていく。
「そうだ、お腹が空いているだろう。美味しいミルクをあげよう。」
車椅子ですーっと移動して、厨房に向かう。
便利だなぁ、と見当違いな感想を持った赤子。
慣れているのか、ささっと素早くミルクを作り終えた。
赤子は手を伸ばす。
「はっはっは、賢い子だ。やけどしないようにね。」
ミルクの入った哺乳瓶を受け取ると、酔っ払いよろしく一気に飲み干した。
そして、けふーっ、と満足気に噯気。
妙に肝が座っているというか、若干将来が気になる。
「なんでも一人で出来てしまうんだねぇ。」
満腹になり、今度は眠気が襲ってきた。
ぽん、ぽん、と心地好い一定のリズム。
赤子はぎゅうっと抱きついて、そのまま眠りについた。
パラレルワールドと称される、少し先の未来からやって来た、人工生命の話。
細胞の一つ一つがコピーされ、混ざっていく。
姿も、力も、記憶すらも、刻まれた記録によって、染められていく。
誰かの生きた人生を、まるで自分が生きたかのように錯覚する。
ただの一つも自分のものではないというのに。
───やがてソレは、人格を持つ。
「産めばお金になるって言うから産んだけど、やっぱり気持ち悪いわ。」
女性が冷めた目で、こちらを見下ろしている。
「ま、別にお腹を痛めて産んだわけでもないし。それじゃあね。」
他の赤子より、ずっと小さな体。
それでも生きることは可能だ。
産まれてしまえば、カプセルの中にでも入れておくことで、やがて嫌でも成長する。
じいっと女性を見る。
理解している。
泣き叫ぶこともなく、すがることもない。
そんなことをしたところで、目の前の人間が助けてくれるはずもない。
彼女はそういう人間だ。
彼女の腹から産まれたとはいえ、血の繋がらない母親で、その赤子は人工的に造り出された生命。
"人間"ではないのだ。
───さて、こういう時はどうしたものか。
細胞に刻まれた記録から、答えを模索する。
無駄な体力は使わない。
解、現状は行動しない。
こんな小さな体で何が出来る。
何も出来はしない。
なら、来るはずもない人間を待ちながら、死に思いを馳せて、眠るのがいいだろう。
来たら生きる、来なければ死ぬ。
ただ、それだけのこと。
ぼんやり空を見上げる。
白雲が悠然と流れ、時の流れを感じ取る。
さっきから、きゅうーっとお腹が鳴るが、食べ物がない現状、気にするだけ無駄だろう。
───何故、気持ち悪いと思われたのだろう。
時間を持て余した赤子は、考え始める。
───歯が生えていたから?
───目が開いていたから?
───髪が生えていたから?
───泣かなかったから?
───感情がないから?
否、そんなもの後付けでしかない。
結局、生まれると決まったその時から、嫌われるのは必然だったのだろう。
人造人間が人間の奴隷として、使い捨てられるように。
ぽつり、ぽつりと何かが落ちてくる。
冷たいそれは、"雨"だ。
気温はそれほど低くないが、夜までに乾かねば風邪をひいてしまうかもしれない。
もしくは、箱に水が溜まって溺死するか。
───運がないなぁ。
ぼんやりと空を見上げる。
晴れているのに雨は降る。
どことなく、幻想的だ。
目を閉じる。
このまま眠ってしまおうか。
ぽつり、ぽつりと頬を打つ、冷たい雨の感覚はない。
───?
目を開く。
あぁ、日除けの傘だ。
───傘?
本当にこの傘は今までここにあったか?
───違う。
こんな傘は無かった。
「───さすがに露骨すぎたかな。」
いつからそこにいた?
「うん…そうだな、お前なら気付く。幼体とはいえ、お前は理解しているから。」
黒い髪、ところどころ白いメッシュが入っていたり、髪の毛先が白く変色している。
そして、隻眼。
目の前のソレは、無感情にこちらを見ている。
観察している…とでも言うべきだろうか。
「俺…俺は観察者。少しだけ、お前の手助けをしよう。」
酷く既視感を覚えるソレは、静かに目を伏せた。
違和感を確かに覚えた。
「これからお前は、一人の老人に拾われる。その老人はお前にとって、かけがえのない存在になるだろう。そして、その時からお前は、お前の人生を歩み始める。行き着く先が孤独でも、それは結末ではない。」
ロボットのような、機械的な口調。
言っている意味が、真意が、理解出来ない。
「可能性は無限にある。お前は、その可能性を選び、掴み取る力を持つ。それをどう扱うかは、お前次第だ。そしてやがて、お前は様々なものを得るだろう。お前が、お前の願いを叶えるために動くのならば、世界はお前の意思の通り、周り始める。」
願い───
「今はまだ、その時ではない。お前が感情を受け継いだ時、お前は初めて願いを持つだろう。」
姿が揺らぐ。
きっとどこかへ行ってしまうのだろう。
また、興味深いものを探しに。
やがて気配も消えて、またひとりぼっちになった。
ぼんやりと空を見る。
心地好い雨音。
赤子は静かに目を閉じた。
ぽん、ぽん、と誰かが優しく腹を撫でている。
背中が妙に暖かい。
赤子はふと目を覚ました。
目に映るのは、自分の腹を優しく撫でている、大きな手。
数秒後、赤子は誰かの膝の上に乗せられていることを理解した。
「…………。」
細胞に刻まれた記録が、酷く懐かしさと安堵を感じさせた。
間違いなく、信頼出来る人間だ。
懐かしさや安堵と同時に、無性に寂しさが込み上げてくる。
おそらく、細胞の記録がそうさせている。
たとえそれが、自分自身の持つ感情ではないことを理解していても。
甘えずにはいられない。
「んん?おー、起きたかい。」
優しげな声が頭上から聞こえた。
赤子はきゅうっと手を握る。
「おやおや、ひとりぼっちで寂しかったんだね。どこへも行ったりはしないよ。」
頭を撫でられる度、声を聞く度、満たされていく。
「そうだ、お腹が空いているだろう。美味しいミルクをあげよう。」
車椅子ですーっと移動して、厨房に向かう。
便利だなぁ、と見当違いな感想を持った赤子。
慣れているのか、ささっと素早くミルクを作り終えた。
赤子は手を伸ばす。
「はっはっは、賢い子だ。やけどしないようにね。」
ミルクの入った哺乳瓶を受け取ると、酔っ払いよろしく一気に飲み干した。
そして、けふーっ、と満足気に噯気。
妙に肝が座っているというか、若干将来が気になる。
「なんでも一人で出来てしまうんだねぇ。」
満腹になり、今度は眠気が襲ってきた。
ぽん、ぽん、と心地好い一定のリズム。
赤子はぎゅうっと抱きついて、そのまま眠りについた。
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