色災ユートピア

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32.真実

「ん……。」

ふと、目を覚ます。
誰かの想いゆめを見ていたようだ。

「……あれは、コドクの…。」

「おはようございます、お兄様。」

「白……。」

白理もちょうど目を覚ましたようだ。

「お兄様も見ましたか?」

「うん…。」

「良い目覚め…とは言い難いですね。」

「…そうだね。」

元気がない赦無。
どうしようかと考えた末に、白理は抱きついた。

「そんな顔をしないでください、お兄様。ドクちゃんの願いは叶ったんです。それに、まだ死んだと決まったわけでもありませんし。事実確認もまだ終わってませんよ。」

「あ…そっか、そうだね。」

「はい、ですので行きましょう、お兄様。みんな生きてたら、それでいいじゃないですか。血が繋がってなくったって、私たちは家族なんだって。今さら血の繋がりどうこう騒いだってしょうがないですよ。ゼロもお兄ちゃん、ドクちゃんもお兄ちゃん、それでいいです。」

「…白には敵わないなぁ。そうだよね、まずは行ってみないと分からないもんね。」

「そうです、ドクちゃんが私たちのことを恨んでたら、その時はその時です。」

「その時は、うん、大人しく罰を受けようね。」

「お供しますよ、お兄様。」

二人は満足するまで抱き合い、笑う。
そして、白理は隣で眠っていた枉徒を起こす。

「おはようございまーす!朝!!朝ですよー朝!!!カンカン!!」

「ひゃあああああっ!?」

驚いて枉徒は飛び起きた。
白理は面白そうに笑っていた。




それから、ナナキに一度事情を伝えて、三人は領域にいるS.0たちの元へと向かった。
道中出会ったセンチネルには、S.0が元気なかったんですけど、と聞かされた。

S.0たちを尋ねると、そこにはS.0の他にベッドで眠っているS.10と、咎喰の姿があった。

「おはようございます、三人とも。顔色が優れませんね、悪い夢でも見ましたか?」

「うんまぁ…悪いといえば悪いかな…。」

「遠回しに聞くのもあれなので直球で聞きますけど、ゼロとドクちゃん、咎喰ちゃんたちは私たちの家族だったんですか?」

「まぁ…そうなるよな。」

S.0は苦い顔をする。
まだ真実を伝えるべきか迷っているようだ。

「正確には、家族になるはずだった…ってところだ。もし俺とこいつが産まれられてたなら、俺たちはお前たちのお兄ちゃんになってた。」

これで合点がいった。
どうりで赦無と白理に対して既視感があるわけだ。
赦無と白理の兄だったというのなら、仕草や姿が似ていても、何ら不思議ではない。
初めて赦無と白理に出会った時、枉徒が感じた既視感。
その理由に、枉徒は納得した。

「でも、俺はその前に殺された。水子なんだよ、俺。殺された後、俺の魂はアウトサイダーに引き取られて、変質した。でも、ヘレティクスにあるような肉体は持ってなかった。」

「なるほど。アウトサイダーに近いというのは、そもそもゼロが産まれる前に殺されたからなんですね。ナナちゃんが言ってました、アウトサイダーは恨みを持った水子の集合体みたいなものだって。」

「そう。センチネルだと言ってはいるが、俺だけは結局、アウトサイダーには変わりないんだ。」

「ゼロは俺たちの親を憎んでたよね。俺たちのことは嫌いじゃないの?なんで助けてくれたの?」

「お兄ちゃんだから、そうしようと思った。お前たちの存在を知るまでは、殺してやろうと思ってた。俺を殺したんだから、殺されて当然だって、そう思ってたんだ。でも…いざあいつらに会うと、俺は何も出来なかった。怖くて、気持ち悪くて、吐き気がして、体が震えてたんだ。憎くて、殺したくてたまらないのに、俺は殺された恐怖に負けた。」

情けないよな、と自傷気味に呟く。
だが、二人にはS.0が勝手に気負いすぎているとしか感じられなかった。

「俺が産まれてこれたら、少しくらいはお前たちの役に立てたんじゃないかって。お前たちの苦労を肩代わりで来たんじゃないかって、そうやって悔やんでた。そんなことしたって、そんなこと思ってたって、お前たちのところに産まれられるわけでもないのにな。」

「…ゼロはやっぱりおかしいよ。」

「え?」

素っ頓狂な声をあげるS.0、赦無は首をかしげていた。

「だって、いくら俺たちがゼロの弟妹だからって、ゼロが俺たちをそこまで思ってくれる必要はないじゃん。”お兄ちゃん”だからと言っても、ゼロはゼロだから…俺たちには、ゼロがどうしてそこまで俺たちを愛してくれるか分からないよ。言うなれば、それは病気に近い。だから、ゼロはおかしい。」

「病気ですって、ゼロ。やっぱり病気なんですよ。」

「お前はどっちの味方なんだよ。」

「まぁ、おそらく今までの反動ってやつでしょうね。親がクズだったから。反面教師ですよ。」

「なぁ、お前までだんだん辛辣になってきてない?俺の気のせい?」

ニコニコと笑う咎喰。
若干、外道味が感じられ始めてきた。

「というか、私たちのお兄ちゃんって執念がすごいですよね。ゼロの愛情然り、ドクちゃんのループ然り。そりゃあ、二人と比べたら私たちは頼りないかもしれないですけど。」

少し拗ねたように、白理は口先をとがらせる。
しまった、と慌ててS.0がフォローに入る。

「そ、そんなことないぞ!お前たちは充分に強いから!」

「そうですよ、頼りになってます。でもゼロは心配性なので、勝手にあれこれやっちゃうんです。」

「そうそう…って、おい。」

「本当ですか?私たち、頼りになってます?」

「当たり前だろ!」

「…嘘だったら覚悟してね、ゼロ。」

「なんで!?嘘じゃないから!なんでここでその不信を、ここぞとばかりに発揮すんの!?」

「ゼロが無茶をしないようにです。何だかんだで、まだ全然ゼロにお礼返し出来てませんし。」

「え、いや、二人が元気に生きてたらそれでっと何でもないですありがたく頂戴します。」

素晴らしい手のひら返し。
どうしてこんな時だけいつも以上に息が合うのか。
そりゃあ双子だから考え方も同じなのかもしれないが。
時間遡行をしてるのは、実はこいつらなんじゃないのか。
そう考えずにはいられないS.0だった。

「それでいいんです。」

むふーっ、と満足げに笑う白理。

「あの、ゼロお兄ちゃんさん、一つ聞きたいことがあるんですけど。」

「なんだ?」

「どうして、私だけ皆さんとあざの形が違うんでしょうか?」

「あぁ、簡単な話だ。いわゆる血縁関係だな。一応、肉体はあったんだよ。母体の中にだけど。そこから多分、血が繋がってるってことにされたんだろう。赦無と白理は双子だから、あざが分けられたんだと思う。なんでそこでちょっと手を込んだんだよ。」

「ちなみに僕はアイデンティティー保護のため、あざの色を変えています。まぁ、武器に必要ないだろと言われたらその通りなのですが、僕だけ仲間外れはとても寂しいので。」

「案外寂しがり屋なんですね…。」

咎喰の一人称も素に戻っている。
隠す必要がないということなのか、それとも偽る必要がなくなったのか。
どちらにせよ、来た当時の暗い雰囲気がなくなったことはいいことだろう。

「ん…賑やかだね、おはよう。」

ふと、ベッドで寝ていたS.10が目を覚ました。
体を起こし、こちらを見て笑っているが、どこか違和感を感じる。

「あれ、みんな少し大きくなった?」

「すみません、少し記憶が混同しているようです。数日経てばいつも通りに戻ると思います。」

「?」

S.10は首をかしげている。

「そういえば、ゼロはドクちゃんのことをかくりと呼んでいましたよね。」

「うん、僕の名前は幽だよ。忘れちゃったの?」

「だって、コドクだって自分で名乗ってたし…。」

「えぇ…何そのボッチみたいな名前。好き好んでそんな名前にするなんて、僕はおかしくなってたんだね。」

へらへらと笑う姿が、酷く痛々しく見えた。
こうしていると、本当に力も何もなかった子供だと確信出来る。
それと同時に、それを歪めてしまったことが、悲しく思えた。

「ねぇ…」

「ん?なぁに?」

「俺たちがあなたをおいて死んでいったこと…怒ってないの?」

「うーん、寂しいけど怒ってないよ。それに、今生きてるってことは、もうみんな幸せになれるんでしょ?よく分からないけど。えーっと、なんて言えばいいかなぁ。…あぁ、うん、こういう時はこう言うんだよね。"終わり良ければ全て良し"って。」

「…………。」

「あ、あれ、変なこと言ったかな…。」

「…ううん、なんでもない。」

何だか随分と頼りなくなったなぁ、と思いつつ、いつの日か垣間見えた人間性の正体を理解した赦無は、ふっと笑った。

「よし、じゃあ、今日から幽お兄ちゃんですね!」

「またお兄ちゃんって呼んでくれるの?嬉しいなぁ。」

「なー、俺は?俺もお兄ちゃんって呼ばれたい。」

「ゼロは名前が無いので、今日から零邏れいらお兄ちゃんとします!」

「お、おう…なんかペットみたいだけどいいか…。」

どこか嬉しそうな雰囲気を、S.0…零邏から感じる。

「というか、ふと思ったんですけど、幽お兄ちゃんを殺せるなら、予め殺しておくべきだったんじゃないですか?」

「ふむ、いい考えです。まぁ、私たち全員を殺した時点で、強制的にアウトサイダーが人間になるよう理を改変しておいたので、無駄でしょうけどね。」

「人間に戻すことで何かあるの?」

「人間に戻すと時間遡行の影響を受けるので、消えた時間のことは覚えていないんですよ。対個人でなら記憶消去だけでいいかもしれませんが、念には念を入れて、というやつです。」

「なるほど、さすが元 アウトサイダー。やることがえげつない。」

「「いやぁ、それほどでも。」」

咎喰とS.10…幽は照れくさそうに笑った。
やはり、本人なだけあってシンクロ率が高い。

「そういえば、私が初めてここに来た時、零お兄ちゃんは私に対して謝罪していましたよね。あれって、お父さんとお母さんから守れなかったから、謝罪したんです?」

「そうだな、おおかたそんな理由。よく覚えてたな、そんな昔のこと。」

「零お兄ちゃんが意味深なこと言うからですね。」

「意味深じゃないし!」

「あ、咎喰ちゃん、怖い方のお兄ちゃんも呼んでもらえますか?みんなで家族写真を撮りましょう!」

「あ、僕だけ名前ちゃん付けなんですね…いいですけど。それじゃあ、マスターを呼びますか。」

「ほら、枉徒ちゃんも一緒に!」

「え、あっ、私もいいんですか!」

「そりゃあ、枉徒は俺たちの妹だもん。」

「この前は妹みたい、で留まってませんでしたっけ!?」

「零にぃの妹は、俺たちの妹。オーケー?」

「あっ、さては赦無さんもテンション上がってます!?分かりにくい!すごく分かりにくいです!」

「っていうか、赦無に零にぃって呼ばれるのすっごく違和感があるんだが…。」

「零邏お兄様。」

「ごめん、零にぃでお願いします。」

「あはは、カオスだねぇ。」

わっちゃわっちゃと騒がしくなる部屋。
その後、表世界で家族写真を撮った七人。
幽はまだ歩けないため、零邏に背負ってもらって写真を撮った。
この後、本部でゆっくりコーヒーを飲んでいたナナキが連行されるのは、言うまでもないだろう。

こうして、長い悪夢が終わり、やがて新たな時間がゆるゆると進み始めた。
アウトサイダーやヘレティクス、まだまだ脅威は残っているが、それもいつか、終わりを迎えるはずだ。
これからは、失った幸せな時間を取り戻すため。
七人はこの異常な世界で、平和な時間にあった些細な幸せを、ともに分かち合って過ごしていくのだろう。






おまけ

「叩き起された挙句、表世界まで引きずり出されて、訳の分からない間に写真を撮られたんだが。」

「今回あまり関わりがなかったですが、お兄様を助けていただきましたし、改めてお名前でも。」

「俺はペットじゃない。」

「マスターはあなたたちを助けられなかったことを、未だに悔やんでいますからね。絶対に同じ名字を受け取らないと思うので、別のを考えてあげてください。」

「おい。」

「なるほど!」

「いや、だから俺に名前は必要な───」

「よし、今日からあなたはリツお兄ちゃんです!しっかり者でちょっと怖そうなので!」

「…………。」

「あ、若干落ち込んでます。」

「はい!でもリツお兄ちゃんはなんかこう、悪いものを退けてくれそうなので、喰邪くいや  忌慄きりつにします!異論は認めません!」

「……仕方ないな。」

「嬉しそうですね。」

「お前はいい加減、武器としての役割を果たせ。」

この時はまだ知らなかった。
喰邪という名字が、後に領域内にいる零邏たちにも当てはめられるようになることを。

そして、新たな血縁関係者(?)が現れることを……

それは、そう遠くない未来の話───

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