色災ユートピア
20.喰罪
久々に見る気がする、本部。
離れてからさほど時間は経っていないが、酷く懐かしく感じた。
ナナキはS.10とともに本部に入る。
以前と見比べて、無駄な装飾品が多くなっている気がする。
「お待ちください!そんな状態で無茶をされてはいけません!」
「病室に帰りますよ!ただでさえ怪我人なのに!…あっ、そんな駄々っ子みたいなことをしてもダメですからね!」
雰囲気と覚悟をぶち壊すかのように、そんな会話が響いてきた。
何事かと思って見に行く。
「赦無!?」
そこには、手すりに掴まって断固として病室に戻るのを拒絶している、包帯まみれの赦無の姿があった。
普段は無表情な顔も、少しだけ眉が下がっている。
心底嫌なようだ。
「って、ナナキさん!?」
「……ナナちゃん…?」
不機嫌そうに眉をひそめていた赦無が、ナナキを見た途端、珍しく驚いていた。
それと同時に、手すりを掴んでいた手の力が弱まる。
「どうしたんだ!?こんな酷い怪我して!」
ナナキは急いで駆け寄った。
あんな別れ方をした後でも、やはり心配なのだろう。
「別に、ちょっとやんちゃしただけ。」
「やんちゃってレベルじゃないだろ!」
「どうせこのくらいじゃ死なないんだし、いいじゃん。それよりそっちの、だれ?」
「酷いなぁ、忘れたのかい?」
「君みたいな知り合いは記憶にない。」
『"約束"守ってあげたのに?』
エコーがかった声。
その声は、幼い頃聞いたアウトサイダーの声と似ていた。
そして、つい最近、その声を聞いた。
「お前……」
「正解、ごきげんよう、お兄様。そして初めまして、僕はS.10。」
「アウトサイダーだったはずだが。」
赦無は敵意を露わにしている。
S.10は飄々として笑ったままだ。
「僕は後天性のアウトサイダーでね、センチネルにもヘレティクスにもなれるんだよ。その気になれば人間にだって化けることが出来る。」
「なんでお前がナナちゃんと一緒にいる、ナナちゃんを攫う気か?」
「違う違う、ゼロの命令で彼の護衛をしてるだけ。」
「ゼロの…?じゃあ、お前が、三日前に俺を助けたのも、ゼロの命令か?」
ん?とS.10とナナキは首を傾げた。
三日前と言えば、襲撃事件があった時のことだろう。
「待ってくれよ、三日前はずっとこいつと一緒にいたぞ?」
「え…?でも…、エコーがかった声は同じだ。銀色の髪も同じだし…。」
「それって、こいつが言ってた別れたのコドクなんじゃないのか?そこのところどう…なんだ……?」
さっきまで飄々として笑っていたS.10が、急に神妙な面持ちになった。
その顔は、どこか苦虫を噛み潰したような感じがする。
「あれが目を覚まして出てきた…?トリガーになるようなものはないはず…。」
「出てきちゃまずかったのか…?」
「まずいも何も、アウトサイダーが犠牲を出してまで幽閉しようとした奴だ。いや、僕自身といえばそうなんだけど。」
「ど、どんだけやばいんだ……。」
「そいつは、ヘレティクスを殺した後に、俺が突き立てたナイフを返して消えたよ。」
「ナイフ?」
「これ。」
ん、とナイフを突き出して見せる。
相変わらず赤黒い色をしている。
「…あー、なるほど。」
納得したのか、S.10はそのナイフを見て頷き、事情を説明し始めた。
「それは僕がゼロに渡した、護身用のナイフだ。使ってないと思ったらそこにあったのか…。それを見たから、アイツはまた眠りに入ったんだ。それがなかったら、その場に居合わせた人間も殺してた。」
「…あれは何?」
「全盛期の僕。センチネルになる時に、別けられたんだ。まぁ、その辺りは後で知ることになるだろうさ。」
「じゃあ、最後に一つだけ。…どうしてナナちゃんを連れて戻って来た?」
「その質問をするってことは、ナナキが殺されそうになっていることを知っている、と解釈するけど。」
「合ってる、そのうえで聞いたんだ。」
ナイフを握ったまま、警戒を解かない赦無。
「なら簡潔に。ミカゲ・シイナはヘレティクスを呼び出す方法を知っていて、実行している。その証拠を突きつけて、あいつを最高責任者の椅子から引きずり降ろす。それが僕の役割だ。」
「…………。」
明らかな不信感。
赦無は隠そうともしない。
別に危害を加えられたわけではないが、得体が知れないのだから、警戒するしかない。
それを見兼ねて、ナナキが恐る恐るフォローに回る。
「コドクは嘘を吐いてない、信じてやってくれないか?俺も、兄貴の行動には、あまりいい思いをしてないんだ。」
「ナナちゃんが言うなら、別にいいけど。」
攫えるならとっくに攫ってるか、と納得した赦無はナイフをしまう。
「でも、ナナちゃんに何かあったら許さないから。具体的には、ゼロに言いつける。」
「ぜ、善処するよ…。ゼロ怒ったらめちゃくちゃ怖いし…。」
明らかにうろたえるS.10。
得体の知れない元 アウトサイダーと言えど、S.0を引き合いに出されれば下手な動きは出来ないだろう。
「それと、俺もついて行く。それなら、許す。」
「その怪我で行くのか!?」
「多少動かないと固まる。」
いいから連れてけ、とでも言いたげな視線を向ける赦無。
「別に、殴る殺すするわけじゃないんだけどなぁ。まぁいいや、いざって時に一緒にいてもらった方が都合がいいし。」
「あのー…すみません、お話の途中で割り込んで申し訳ないのですが…」
「ミカゲ・シイナ様なら学園に用事がある、と先程出かけていかれましたよ?」
看護師の言葉に、三人は嫌な予感がした。
アイコンタクトをすると、S.10はナナキを抱えて、赦無とともに学園の玄関へと転移した。
「移動するならするって言えよ!心臓止まるわ!」
「僕も心臓止まりそうなほど焦ってるんだよ。ここまで来るの初めてなんだ、許して。」
「逃げ場のない場所は、屋上か地下の防護シェルターだけど。」
「兄貴のことだ、絶対に防護シェルターにいるはず!急ごう!」
地下へと続く階段を降りて、防護シェルターに向かう。
だが、中に入る扉は、固く閉ざされていた。
「おっと、内部は転移防止の策まで張られてるのか。」
「今更鍵を持って開けようにも、時間がかかる。どうしたら…」
「あー、じゃあ空間を繋げよう。君はミカゲ・シイナを殴るなり蹴るなりして止める。」
「ヘッドショットは?」
「ノーキルでお願いします。」
仕方ないな、と呟く赦無。
S.10が軽く腕を縦に振ると、空間が裂けて、その奥にはミカゲの背が見えた。
赦無は裂けた空間を通って、ミカゲの背中を蹴り倒した。
「ガッ!?」
手に持っていた瓶のようなものが宙を舞う。
だが、その瓶のようなものはいつの間にかミカゲの隣に立っていたS.10の手に、すっぽりと収まった。
瓶のようなものが割れなかったことで、防護シェルターに閉じ込められていた生徒と教師は、安堵の息を漏らした。
「回収成功〜、おかえり僕のおもちゃ。」
「き…貴様ら……!」
「三人とも無事…?」
白理の足元には、ぐちゃぐちゃに踏みつけられた花束が散乱している。
おそらくミカゲが踏みつけたのだろう。
赦無は心配そうな表情で、S.0、白理、枉徒に近付く。
どちらかというと心配なのは赦無の方なのだが。
「助かったよ、ありがとな。」
「赦無さぁん!」
「おはようございますお兄様、どうしてここが分かったんですか?」
「おはよ、白。看護師さんが教えてくれたんだ。最近、ミカゲ・シイナの様子がおかしかったから警戒してた。あいつのおかげで、それは確信に変わった。」
恐怖で泣き出してしまった枉徒をなだめつつ、赦無は事情の説明を行う。
なるほど、とS.0は頷いた。
「ミカゲ・シイナは、ナナちゃんの暗殺を目論んでた。多分、それはあいつがよく知ってると思うけど。」
「コドクお前…また何か迷惑かけたのか…?」
「酷いやゼロ、事実だけどさ。」
「やっぱり迷惑かけたんじゃないか。」
「その説教はおいおい、ね?今はナナキ暗殺計画の種明かしをしたいと思って。って言っても、お粗末な計画だけどねぇ。」
「何だと貴様…!!」
「黙って寝ていろ、人間。」
すうっ、と背筋が凍りつくような殺意。
散らばったゴミを見ている方がマシと言えるほどの、嫌悪に満ちた、冷めきった視線。
本能的に従ってしまい、ミカゲは黙り込んだ。
だが、ミカゲ本人は本能的に従ってしまったことに気付いていない。
だからこそ、何かの妖術かと思い、困惑する。
「さて、邪魔が入ったけど本題に戻ろうか。」
あぁ、やはり人間を憎んでいるのだと、背後で見ていたナナキは実感する。
「まず、前回の襲撃事件。あれは襲撃事件に乗じて、ナナキを殺そうとしたミカゲの犯行だ。ナナキを殺した後に、これを買ったヘレティクスに死体の処理をしてもらう予定だったんだろう。」
「なるほど、では今回は?」
「双子 兄が負傷したからね。君たち、失礼な態度をとったってこいつに逆恨みされてたんだよ。で、殺そうと思ったわけ。」
「なんと、私よりろくでなしですね!」
「そのとーり、ろくでなしなんだよねぇ。」
ニコニコと笑い合うS.10と白理、似た者同士と言ったところだろうか。
赦無のように敵意を向けているわけでもなく、どちらかというと興味あり、な感じだ。
「本当なら前回の襲撃事件で双子 兄を殺せたはずだった。人間を守りながら戦うのには限度があるからね。室内で銃を乱射するわけにもいかないし。」
「前回失敗したから、今回で確実に殺そうと思ったわけですね。まずは私から。」
「そう、君の武勲は嫌という程耳に届いているだろうからね。」
「あはは、おかしな話ですね。」
ケラケラと白理は笑う。
「私よりお兄様の方が強いのに、私から殺す気だったんですか?おバカにも程があるというものです。」
目は、笑っていなかった。
赦無を見くびった、ということで白理の怒りを買ったのだろう。
「あの人数ならお兄様は殺せました。人間がいたから本領の発揮が出来なかった。ただそれだけの理由でお兄様に傷を付けられたというのに、思い上がっているようですね。」
「君たちの武器は、人間に対して使うことを想定されてないからねぇ。」
「で、お前が来たってことは、失敗に終わるんだな?」
「うん、証拠も揃えた。あとこっそりゼロのポッケに録音機を入れて置いたんだ。気付いてた?」
「気付かなかったけどさ。たまーにお菓子入ってるの、お前が犯人かよ。」
「お腹空いてると思って。録音はバッチリ、購入した写真もある。現行犯だね。おめでとう、人生終了のお知らせだよ。」
「ふ…ふざけるな……!」
歯を食いしばり、ニヤリと笑うミカゲ。
「知っているんだぞ!ヘレティクスは人間が変質したものだってな!貴様らも所詮人殺し!それも大量に虐殺した殺人鬼だ!!!!」
真実を知っている中で、唯一まともな反応をしたのは、S.0だけだった。
白理、赦無、S.10は首を傾げ、それぞれが個々に口を開く。
「人間とは死ぬものでしょう?私はしたいことをしているだけですし。」
「それがなんだって言うんだ?お前は自分のした事を棚に上げる気か?俺たちは何も悪いことなんてしてないよ。殺したって消える訳でもないだろう。」
「人間なんて何度だって転生するのに、いつまでもヘレティクスにしておけって言うの?うっわないわー、畜生以下のド低脳な考えにコドクさんもドン引きでーす!」
「き、貴様らに人の心はないのか!?」
「お前に言われたくないですね!」
「人の心がないのはお前も一緒だろ。」
「人間の心なんて綺麗なものだと思うなよ。お前みたいにな。」
一言で、三言返る、オーバーキル。
哀れみとともに、若干申し訳なくなるS.0。
「そもそも、人の作ったおもちゃを勝手に使って、恐怖で支配しようなんて片腹痛いね。僕はお前の自己満足のためにこれを作ったわけじゃない。これはきっちり、責任を持って廃棄させてもらうよ。」
「き…貴様が作った…だと…!?」
「そうだよ、今となっては必要ないけどね。」
「か、金ならいくらでも出す!!!!」
「お前は、僕の命にいくら出せる?全人類を黙らせるくらいの金額が、お前に支払えるのかい?」
歪んだ笑みを浮かべるS.10。
感情が読めない笑みに、身の毛がよだつ。
「お金は嫌いじゃないけど、僕には不要なものだ。腐るほど持っているからね。さてと、これ以上お前との対話は不要だと判断する。」
S.10が取り出したのは、真っ黒いハンドガンだった。
殺す気はない、と言っていたが、どういうことだろうか。
「こ、殺す気か!?俺はアルフ族の中でも高位の存在で───」
「ミカゲ・シイナ、傲慢の罪で断罪する。」
乾いた銃声が響いた。
打ち出された銃弾はない。
だが、その代わり、飴玉のような粒が、ミカゲの頭からポロッとこぼれ落ちた。
喰罪、S.10が扱う武器の一つ。
感情を圧縮し、具現化させ、失わせる力を持つ。
兄弟武器として、咎喰も存在する。
「これで無力化成功だ。終わったよ、ナナキ。」
「し…死んでないよな…?」
「心配なら脈を確認してみたらどうだい?この武器自体の殺傷能力は、皆無に等しいけどね。」
ナナキが近付いて脈を確認すると、トクン、トクン、と正常に脈を打っている。
S.10はミカゲからこぼれ落ちた粒を拾い上げる。
「それ、なんなんだ?」
「ミカゲ・シイナの感情だよ。傲慢さだけを取り除いた。もっとも、これは人格の否定であることには違いないし、本人の意思も尊重せず変えてしまうものだけど。」
どうせ要らないだろ?と笑って、拾い上げた傲慢の具現を噛み砕いた。
「んー、まずい。」
「味するのかよ…、つーか食うのかそれ…。」
「仕方ないじゃん、今の僕は一部の感情が欠落している状態なんだ。このまま欠落した状態が続けば、また昔みたいにこわーい僕に戻っちゃうよ?」
「それは嫌だな…。」
「だからこうして代用してるんだよ。それよりどうだい?生きてたろ?」
「生きてるけどさぁ……。」
なんとも納得がいかないナナキ。
ようやく落ち着き、泣き止んだ枉徒が、ふと声を上げた。
「あの……ヘレティクスが元は人間だって…本当ですか…?私たちは、人間を殺してきたんですか……!?」
それは、その場に居合わせた自衛団も思ったことだった。
自分たちは、元とはいえ人間を殺してしまっていたのか、と。
「枉徒ちゃん、ヘレティクスは死なないんだよ。ヘレティクスは死ねないんだ。人間には、殺せない。」
「なんで、私の名前を…?」
「君の持ってる銃、あれは僕が身を守れるよう君にあげたものでね。君が脱出する手助けをしたのは僕だ。覚えてないだろうけど。」
「え……?」
「覚えてないのも無理はないよ。君の逃げる手助けをする代わりに、君の記憶をもらう。そういう約束だったからね。」
「どうして…私はそんな約束を…?」
「人間を攫うヘレティクスになるってことは、君の人格をぐちゃぐちゃにするってこと。それは君自身を狂わせ、否定させるほどのものだ。だけど肉体は覚えてるものなんだね。戦い方も、ゼロや僕についても。」
「………!」
記憶喪失で赤子も同然の枉徒が、本来ならば戦えるはずがない。
だが…もし、記憶を失う以前に、肉体が覚えるほどの命の駆け引きをしてきているのなら…その限りではないだろう。
「ヘレティクスは元々人間、それは合ってる。死ねないってことはね、どれだけ痛くても、どれだけ苦しくても、憎んでも、それを抱えて生きていかなきゃいけないってことだ。そんなのあんまりだと思わない?」
何とも言えない表情をするS.10。
昔のことを思い出しているのだろうか。
「人間は死んだら記憶を失って、転生する。確かに思い出は消えてしまうかもしれない。でも、痛みや憎しみからも解放されるんだ。それは決して、悪いことじゃないと思うよ。」
「コドク、さん……。」
「だって、殺されたって消えるわけじゃないだろう?ヘレティクスを殺さないでって言う方が、よっぽど酷だよ。もし、ヘレティクスを殺すのが非道だと言うのなら…」
枉徒は、目を見開く。
その笑顔が、酷く悲しみを抱えているように見えた。
「そう言う人間の方が、ずっと恐ろしい怪物だよ。」
その場に居合わせた生徒たちも、自衛団も、雰囲気に飲み込まれていた。
何も言えなかった。
あまりにも悲痛な声に。
「だから、殺すことを戸惑わないでほしい。戸惑って傷付ければ、その分痛みは増えるから。優しい君なら、苦しめることはしたくないはずだ。」
「…はいっ」
「よし、いい子だ。それじゃあ、後のことは任せたよ、ゼロ。」
「待って。」
S.10を引き止めたのは、意外なことに赦無だった。
若干不信感が垣間見えるが、出会った当時と比べるとだいぶ警戒心を解いたようだ。
「それは、本心?」
「本心だよ、僕も痛いのは嫌いだしね〜。」
ケロッとおどけるが、どこか隠しきれていない。
赦無はそれ以上聞かず、そう、とだけ答えた。
「コドク、お前は先に戻ってるんだな?」
「うん、報告書の整理も終わってないでしょ?」
「ゔっ……」
図星を突かれて、S.0は目を逸らす。
S.10はそんな様子を見て、笑っていた。
「暇だからね、僕がやっておくよ。ただでさえ長期休暇で羽根伸ばししてるみたいだし。じゃーねー。」
ふらりと手を振って、S.10は霧のように消えていった。
相変わらずだなぁと頭を悩ませるS.0。
「ねぇ、ゼロ、コドクはいつもああなの?」
「大抵あんな感じだよ。」
「本当に本心?」
「あいつ、かなり気がやられてたみたいだからな。おどけるので精一杯だったろうから、本心だろう。お前にはちょっかい出すけどさ、あいつはあいつなりにお前たちの心配をしてるんだよ。」
「なんで俺にだけちょっかい出すの?」
「お前、頑張りすぎるところがあるからな。白理と枉徒の前だと、いいお兄ちゃんでいようと必死だろ?悪くないけど、たまにはストレスの発散もしないとな〜。」
「あいつに会うことがストレス発散?」
「お前が気負わないでいられるのってあいつくらいだろ。近所の悪友というか。」
「そーなのかな。」
「そういうことにしておこうぜ。」
「…うん。」
赦無は素直に頷く。
その後、ミカゲは襲撃事件を起こした犯人として、重大な処罰を受けることになった。
今回の騒動を未遂に終わらせた功績を称え、代表として赦無が表彰台に上がった。
そして、この一件から、センチネルとディープ・ネロの存在が一般的に広まり、恐怖の象徴だったディープ・ネロへの見方が変わり始めていた。
離れてからさほど時間は経っていないが、酷く懐かしく感じた。
ナナキはS.10とともに本部に入る。
以前と見比べて、無駄な装飾品が多くなっている気がする。
「お待ちください!そんな状態で無茶をされてはいけません!」
「病室に帰りますよ!ただでさえ怪我人なのに!…あっ、そんな駄々っ子みたいなことをしてもダメですからね!」
雰囲気と覚悟をぶち壊すかのように、そんな会話が響いてきた。
何事かと思って見に行く。
「赦無!?」
そこには、手すりに掴まって断固として病室に戻るのを拒絶している、包帯まみれの赦無の姿があった。
普段は無表情な顔も、少しだけ眉が下がっている。
心底嫌なようだ。
「って、ナナキさん!?」
「……ナナちゃん…?」
不機嫌そうに眉をひそめていた赦無が、ナナキを見た途端、珍しく驚いていた。
それと同時に、手すりを掴んでいた手の力が弱まる。
「どうしたんだ!?こんな酷い怪我して!」
ナナキは急いで駆け寄った。
あんな別れ方をした後でも、やはり心配なのだろう。
「別に、ちょっとやんちゃしただけ。」
「やんちゃってレベルじゃないだろ!」
「どうせこのくらいじゃ死なないんだし、いいじゃん。それよりそっちの、だれ?」
「酷いなぁ、忘れたのかい?」
「君みたいな知り合いは記憶にない。」
『"約束"守ってあげたのに?』
エコーがかった声。
その声は、幼い頃聞いたアウトサイダーの声と似ていた。
そして、つい最近、その声を聞いた。
「お前……」
「正解、ごきげんよう、お兄様。そして初めまして、僕はS.10。」
「アウトサイダーだったはずだが。」
赦無は敵意を露わにしている。
S.10は飄々として笑ったままだ。
「僕は後天性のアウトサイダーでね、センチネルにもヘレティクスにもなれるんだよ。その気になれば人間にだって化けることが出来る。」
「なんでお前がナナちゃんと一緒にいる、ナナちゃんを攫う気か?」
「違う違う、ゼロの命令で彼の護衛をしてるだけ。」
「ゼロの…?じゃあ、お前が、三日前に俺を助けたのも、ゼロの命令か?」
ん?とS.10とナナキは首を傾げた。
三日前と言えば、襲撃事件があった時のことだろう。
「待ってくれよ、三日前はずっとこいつと一緒にいたぞ?」
「え…?でも…、エコーがかった声は同じだ。銀色の髪も同じだし…。」
「それって、こいつが言ってた別れたのコドクなんじゃないのか?そこのところどう…なんだ……?」
さっきまで飄々として笑っていたS.10が、急に神妙な面持ちになった。
その顔は、どこか苦虫を噛み潰したような感じがする。
「あれが目を覚まして出てきた…?トリガーになるようなものはないはず…。」
「出てきちゃまずかったのか…?」
「まずいも何も、アウトサイダーが犠牲を出してまで幽閉しようとした奴だ。いや、僕自身といえばそうなんだけど。」
「ど、どんだけやばいんだ……。」
「そいつは、ヘレティクスを殺した後に、俺が突き立てたナイフを返して消えたよ。」
「ナイフ?」
「これ。」
ん、とナイフを突き出して見せる。
相変わらず赤黒い色をしている。
「…あー、なるほど。」
納得したのか、S.10はそのナイフを見て頷き、事情を説明し始めた。
「それは僕がゼロに渡した、護身用のナイフだ。使ってないと思ったらそこにあったのか…。それを見たから、アイツはまた眠りに入ったんだ。それがなかったら、その場に居合わせた人間も殺してた。」
「…あれは何?」
「全盛期の僕。センチネルになる時に、別けられたんだ。まぁ、その辺りは後で知ることになるだろうさ。」
「じゃあ、最後に一つだけ。…どうしてナナちゃんを連れて戻って来た?」
「その質問をするってことは、ナナキが殺されそうになっていることを知っている、と解釈するけど。」
「合ってる、そのうえで聞いたんだ。」
ナイフを握ったまま、警戒を解かない赦無。
「なら簡潔に。ミカゲ・シイナはヘレティクスを呼び出す方法を知っていて、実行している。その証拠を突きつけて、あいつを最高責任者の椅子から引きずり降ろす。それが僕の役割だ。」
「…………。」
明らかな不信感。
赦無は隠そうともしない。
別に危害を加えられたわけではないが、得体が知れないのだから、警戒するしかない。
それを見兼ねて、ナナキが恐る恐るフォローに回る。
「コドクは嘘を吐いてない、信じてやってくれないか?俺も、兄貴の行動には、あまりいい思いをしてないんだ。」
「ナナちゃんが言うなら、別にいいけど。」
攫えるならとっくに攫ってるか、と納得した赦無はナイフをしまう。
「でも、ナナちゃんに何かあったら許さないから。具体的には、ゼロに言いつける。」
「ぜ、善処するよ…。ゼロ怒ったらめちゃくちゃ怖いし…。」
明らかにうろたえるS.10。
得体の知れない元 アウトサイダーと言えど、S.0を引き合いに出されれば下手な動きは出来ないだろう。
「それと、俺もついて行く。それなら、許す。」
「その怪我で行くのか!?」
「多少動かないと固まる。」
いいから連れてけ、とでも言いたげな視線を向ける赦無。
「別に、殴る殺すするわけじゃないんだけどなぁ。まぁいいや、いざって時に一緒にいてもらった方が都合がいいし。」
「あのー…すみません、お話の途中で割り込んで申し訳ないのですが…」
「ミカゲ・シイナ様なら学園に用事がある、と先程出かけていかれましたよ?」
看護師の言葉に、三人は嫌な予感がした。
アイコンタクトをすると、S.10はナナキを抱えて、赦無とともに学園の玄関へと転移した。
「移動するならするって言えよ!心臓止まるわ!」
「僕も心臓止まりそうなほど焦ってるんだよ。ここまで来るの初めてなんだ、許して。」
「逃げ場のない場所は、屋上か地下の防護シェルターだけど。」
「兄貴のことだ、絶対に防護シェルターにいるはず!急ごう!」
地下へと続く階段を降りて、防護シェルターに向かう。
だが、中に入る扉は、固く閉ざされていた。
「おっと、内部は転移防止の策まで張られてるのか。」
「今更鍵を持って開けようにも、時間がかかる。どうしたら…」
「あー、じゃあ空間を繋げよう。君はミカゲ・シイナを殴るなり蹴るなりして止める。」
「ヘッドショットは?」
「ノーキルでお願いします。」
仕方ないな、と呟く赦無。
S.10が軽く腕を縦に振ると、空間が裂けて、その奥にはミカゲの背が見えた。
赦無は裂けた空間を通って、ミカゲの背中を蹴り倒した。
「ガッ!?」
手に持っていた瓶のようなものが宙を舞う。
だが、その瓶のようなものはいつの間にかミカゲの隣に立っていたS.10の手に、すっぽりと収まった。
瓶のようなものが割れなかったことで、防護シェルターに閉じ込められていた生徒と教師は、安堵の息を漏らした。
「回収成功〜、おかえり僕のおもちゃ。」
「き…貴様ら……!」
「三人とも無事…?」
白理の足元には、ぐちゃぐちゃに踏みつけられた花束が散乱している。
おそらくミカゲが踏みつけたのだろう。
赦無は心配そうな表情で、S.0、白理、枉徒に近付く。
どちらかというと心配なのは赦無の方なのだが。
「助かったよ、ありがとな。」
「赦無さぁん!」
「おはようございますお兄様、どうしてここが分かったんですか?」
「おはよ、白。看護師さんが教えてくれたんだ。最近、ミカゲ・シイナの様子がおかしかったから警戒してた。あいつのおかげで、それは確信に変わった。」
恐怖で泣き出してしまった枉徒をなだめつつ、赦無は事情の説明を行う。
なるほど、とS.0は頷いた。
「ミカゲ・シイナは、ナナちゃんの暗殺を目論んでた。多分、それはあいつがよく知ってると思うけど。」
「コドクお前…また何か迷惑かけたのか…?」
「酷いやゼロ、事実だけどさ。」
「やっぱり迷惑かけたんじゃないか。」
「その説教はおいおい、ね?今はナナキ暗殺計画の種明かしをしたいと思って。って言っても、お粗末な計画だけどねぇ。」
「何だと貴様…!!」
「黙って寝ていろ、人間。」
すうっ、と背筋が凍りつくような殺意。
散らばったゴミを見ている方がマシと言えるほどの、嫌悪に満ちた、冷めきった視線。
本能的に従ってしまい、ミカゲは黙り込んだ。
だが、ミカゲ本人は本能的に従ってしまったことに気付いていない。
だからこそ、何かの妖術かと思い、困惑する。
「さて、邪魔が入ったけど本題に戻ろうか。」
あぁ、やはり人間を憎んでいるのだと、背後で見ていたナナキは実感する。
「まず、前回の襲撃事件。あれは襲撃事件に乗じて、ナナキを殺そうとしたミカゲの犯行だ。ナナキを殺した後に、これを買ったヘレティクスに死体の処理をしてもらう予定だったんだろう。」
「なるほど、では今回は?」
「双子 兄が負傷したからね。君たち、失礼な態度をとったってこいつに逆恨みされてたんだよ。で、殺そうと思ったわけ。」
「なんと、私よりろくでなしですね!」
「そのとーり、ろくでなしなんだよねぇ。」
ニコニコと笑い合うS.10と白理、似た者同士と言ったところだろうか。
赦無のように敵意を向けているわけでもなく、どちらかというと興味あり、な感じだ。
「本当なら前回の襲撃事件で双子 兄を殺せたはずだった。人間を守りながら戦うのには限度があるからね。室内で銃を乱射するわけにもいかないし。」
「前回失敗したから、今回で確実に殺そうと思ったわけですね。まずは私から。」
「そう、君の武勲は嫌という程耳に届いているだろうからね。」
「あはは、おかしな話ですね。」
ケラケラと白理は笑う。
「私よりお兄様の方が強いのに、私から殺す気だったんですか?おバカにも程があるというものです。」
目は、笑っていなかった。
赦無を見くびった、ということで白理の怒りを買ったのだろう。
「あの人数ならお兄様は殺せました。人間がいたから本領の発揮が出来なかった。ただそれだけの理由でお兄様に傷を付けられたというのに、思い上がっているようですね。」
「君たちの武器は、人間に対して使うことを想定されてないからねぇ。」
「で、お前が来たってことは、失敗に終わるんだな?」
「うん、証拠も揃えた。あとこっそりゼロのポッケに録音機を入れて置いたんだ。気付いてた?」
「気付かなかったけどさ。たまーにお菓子入ってるの、お前が犯人かよ。」
「お腹空いてると思って。録音はバッチリ、購入した写真もある。現行犯だね。おめでとう、人生終了のお知らせだよ。」
「ふ…ふざけるな……!」
歯を食いしばり、ニヤリと笑うミカゲ。
「知っているんだぞ!ヘレティクスは人間が変質したものだってな!貴様らも所詮人殺し!それも大量に虐殺した殺人鬼だ!!!!」
真実を知っている中で、唯一まともな反応をしたのは、S.0だけだった。
白理、赦無、S.10は首を傾げ、それぞれが個々に口を開く。
「人間とは死ぬものでしょう?私はしたいことをしているだけですし。」
「それがなんだって言うんだ?お前は自分のした事を棚に上げる気か?俺たちは何も悪いことなんてしてないよ。殺したって消える訳でもないだろう。」
「人間なんて何度だって転生するのに、いつまでもヘレティクスにしておけって言うの?うっわないわー、畜生以下のド低脳な考えにコドクさんもドン引きでーす!」
「き、貴様らに人の心はないのか!?」
「お前に言われたくないですね!」
「人の心がないのはお前も一緒だろ。」
「人間の心なんて綺麗なものだと思うなよ。お前みたいにな。」
一言で、三言返る、オーバーキル。
哀れみとともに、若干申し訳なくなるS.0。
「そもそも、人の作ったおもちゃを勝手に使って、恐怖で支配しようなんて片腹痛いね。僕はお前の自己満足のためにこれを作ったわけじゃない。これはきっちり、責任を持って廃棄させてもらうよ。」
「き…貴様が作った…だと…!?」
「そうだよ、今となっては必要ないけどね。」
「か、金ならいくらでも出す!!!!」
「お前は、僕の命にいくら出せる?全人類を黙らせるくらいの金額が、お前に支払えるのかい?」
歪んだ笑みを浮かべるS.10。
感情が読めない笑みに、身の毛がよだつ。
「お金は嫌いじゃないけど、僕には不要なものだ。腐るほど持っているからね。さてと、これ以上お前との対話は不要だと判断する。」
S.10が取り出したのは、真っ黒いハンドガンだった。
殺す気はない、と言っていたが、どういうことだろうか。
「こ、殺す気か!?俺はアルフ族の中でも高位の存在で───」
「ミカゲ・シイナ、傲慢の罪で断罪する。」
乾いた銃声が響いた。
打ち出された銃弾はない。
だが、その代わり、飴玉のような粒が、ミカゲの頭からポロッとこぼれ落ちた。
喰罪、S.10が扱う武器の一つ。
感情を圧縮し、具現化させ、失わせる力を持つ。
兄弟武器として、咎喰も存在する。
「これで無力化成功だ。終わったよ、ナナキ。」
「し…死んでないよな…?」
「心配なら脈を確認してみたらどうだい?この武器自体の殺傷能力は、皆無に等しいけどね。」
ナナキが近付いて脈を確認すると、トクン、トクン、と正常に脈を打っている。
S.10はミカゲからこぼれ落ちた粒を拾い上げる。
「それ、なんなんだ?」
「ミカゲ・シイナの感情だよ。傲慢さだけを取り除いた。もっとも、これは人格の否定であることには違いないし、本人の意思も尊重せず変えてしまうものだけど。」
どうせ要らないだろ?と笑って、拾い上げた傲慢の具現を噛み砕いた。
「んー、まずい。」
「味するのかよ…、つーか食うのかそれ…。」
「仕方ないじゃん、今の僕は一部の感情が欠落している状態なんだ。このまま欠落した状態が続けば、また昔みたいにこわーい僕に戻っちゃうよ?」
「それは嫌だな…。」
「だからこうして代用してるんだよ。それよりどうだい?生きてたろ?」
「生きてるけどさぁ……。」
なんとも納得がいかないナナキ。
ようやく落ち着き、泣き止んだ枉徒が、ふと声を上げた。
「あの……ヘレティクスが元は人間だって…本当ですか…?私たちは、人間を殺してきたんですか……!?」
それは、その場に居合わせた自衛団も思ったことだった。
自分たちは、元とはいえ人間を殺してしまっていたのか、と。
「枉徒ちゃん、ヘレティクスは死なないんだよ。ヘレティクスは死ねないんだ。人間には、殺せない。」
「なんで、私の名前を…?」
「君の持ってる銃、あれは僕が身を守れるよう君にあげたものでね。君が脱出する手助けをしたのは僕だ。覚えてないだろうけど。」
「え……?」
「覚えてないのも無理はないよ。君の逃げる手助けをする代わりに、君の記憶をもらう。そういう約束だったからね。」
「どうして…私はそんな約束を…?」
「人間を攫うヘレティクスになるってことは、君の人格をぐちゃぐちゃにするってこと。それは君自身を狂わせ、否定させるほどのものだ。だけど肉体は覚えてるものなんだね。戦い方も、ゼロや僕についても。」
「………!」
記憶喪失で赤子も同然の枉徒が、本来ならば戦えるはずがない。
だが…もし、記憶を失う以前に、肉体が覚えるほどの命の駆け引きをしてきているのなら…その限りではないだろう。
「ヘレティクスは元々人間、それは合ってる。死ねないってことはね、どれだけ痛くても、どれだけ苦しくても、憎んでも、それを抱えて生きていかなきゃいけないってことだ。そんなのあんまりだと思わない?」
何とも言えない表情をするS.10。
昔のことを思い出しているのだろうか。
「人間は死んだら記憶を失って、転生する。確かに思い出は消えてしまうかもしれない。でも、痛みや憎しみからも解放されるんだ。それは決して、悪いことじゃないと思うよ。」
「コドク、さん……。」
「だって、殺されたって消えるわけじゃないだろう?ヘレティクスを殺さないでって言う方が、よっぽど酷だよ。もし、ヘレティクスを殺すのが非道だと言うのなら…」
枉徒は、目を見開く。
その笑顔が、酷く悲しみを抱えているように見えた。
「そう言う人間の方が、ずっと恐ろしい怪物だよ。」
その場に居合わせた生徒たちも、自衛団も、雰囲気に飲み込まれていた。
何も言えなかった。
あまりにも悲痛な声に。
「だから、殺すことを戸惑わないでほしい。戸惑って傷付ければ、その分痛みは増えるから。優しい君なら、苦しめることはしたくないはずだ。」
「…はいっ」
「よし、いい子だ。それじゃあ、後のことは任せたよ、ゼロ。」
「待って。」
S.10を引き止めたのは、意外なことに赦無だった。
若干不信感が垣間見えるが、出会った当時と比べるとだいぶ警戒心を解いたようだ。
「それは、本心?」
「本心だよ、僕も痛いのは嫌いだしね〜。」
ケロッとおどけるが、どこか隠しきれていない。
赦無はそれ以上聞かず、そう、とだけ答えた。
「コドク、お前は先に戻ってるんだな?」
「うん、報告書の整理も終わってないでしょ?」
「ゔっ……」
図星を突かれて、S.0は目を逸らす。
S.10はそんな様子を見て、笑っていた。
「暇だからね、僕がやっておくよ。ただでさえ長期休暇で羽根伸ばししてるみたいだし。じゃーねー。」
ふらりと手を振って、S.10は霧のように消えていった。
相変わらずだなぁと頭を悩ませるS.0。
「ねぇ、ゼロ、コドクはいつもああなの?」
「大抵あんな感じだよ。」
「本当に本心?」
「あいつ、かなり気がやられてたみたいだからな。おどけるので精一杯だったろうから、本心だろう。お前にはちょっかい出すけどさ、あいつはあいつなりにお前たちの心配をしてるんだよ。」
「なんで俺にだけちょっかい出すの?」
「お前、頑張りすぎるところがあるからな。白理と枉徒の前だと、いいお兄ちゃんでいようと必死だろ?悪くないけど、たまにはストレスの発散もしないとな〜。」
「あいつに会うことがストレス発散?」
「お前が気負わないでいられるのってあいつくらいだろ。近所の悪友というか。」
「そーなのかな。」
「そういうことにしておこうぜ。」
「…うん。」
赦無は素直に頷く。
その後、ミカゲは襲撃事件を起こした犯人として、重大な処罰を受けることになった。
今回の騒動を未遂に終わらせた功績を称え、代表として赦無が表彰台に上がった。
そして、この一件から、センチネルとディープ・ネロの存在が一般的に広まり、恐怖の象徴だったディープ・ネロへの見方が変わり始めていた。
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