貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸88

第4話 コンビニとかに置いてるアレ




 黒崎加恋視点


 平日の授業合間にある休憩時間。
 ログインのためにこの時間も利用して勉強に励んでいた。
 急に優等生になった私を見てクラスメイト達が何があったのかと不思議そうにしている。
 素行不良とまでは言わないけど、ここ最近ゲームの方で色々あった私は不真面目に見えていたのかもしれない。

(早いとこ挽回しないとなー……)

 すると、友達が「ねぇねぇ」と、声をかけてくる。

「加恋に朗報なんだけどさ~」

「ん?」

 そんな椚木優良の一言が始まりだった。

「どうしたの?」

 顔を上げると優良は、ここじゃちょっと……と、声を抑えてきた。
 なんだろ。私に朗報でここで話せないこと……奏さん関連?
 廊下にまで出ると、優良は周囲を確認した。私の耳元まで顔を寄せて言ってくる。

「カナデにそっくりな男優さん見つけたんだよね……商店街の外れにあるコンビニに並んでたんだけどさ」

 どうかな~凄くない? と、得意げな優良に私は素っ気なく返した。
 男性が少ない昨今。R18向けの雑誌、写真集は確実にその生産量を減らしていた。
 男優という仕事は超が付くほどの好待遇らしい。女性側から必死に頭を下げて撮影に挑むとか。
 昔ネットで調べた時に知ったんだけど、女の人達は奴隷なんじゃないかってくらい酷使されているらしい。
 だというのに男性の仕事量は雀の涙ほどに微量なんだとか。男の人の裸と言っても顔も映ってないことが多いし、昔より肌色少なめだし。
 興味がないわけではない。だけど、最近はエロ本も相当減ってきたよねーくらいの感想しか抱かない。

「……カナデに似てるんだよ?」

 意外そうに聞いてくる優良。だけど私からしたらそれは心外というものだ。
 だって似てるって言っても奏さんじゃないんだよね。興味0とまでは言わないけど、似てるなんて言われても……って思っちゃう。
 確かに今時のコンビニのエロ本の表紙がイケメンなら貴重ではあるけどさ。
 成年誌コーナーってほぼ漫画だし、リアルな写真とかだと万額普通に超えるし。

「それはそうだけどさ……でも100年に一人の逸材みたいに書かれてたよ?」

「うーん、でもなんか気が引けるかな」

「そっか~……なんか段々開き直ってきたよね加恋って」

 一途と言ってほしい。
 なんて話をしていると同級生が近づいてきた。
 あれは確か隣のクラスの子だ。咄嗟に声を落とすと彼女は優良を呼んできた。

「椚木さーん! ちょっといいかなー!」

「は~い! じゃあ行ってくるね。加恋も暇なら見に行ってよ。ほんとにちょっとだけど似てるんだよ!」

 そう言って慌ただしく去っていく。
 廊下を小走りで走る優良の後ろ姿を確認して、私は教室へと戻った。







 放課後を迎えて帰宅途中。

『クエスト達成。なんか一杯貰えた』

 咲からだった。
 わざわざ言ってこなくても……なんて思ったけど、そういえば以前には私も奏さんがフレンドになってくれてから友達に自慢したっけ。 
 色んな人に声かけた気がする。今となってはゲーム仲間たちも大所帯だ。
 咲の貼ったスクショにどこか懐かしさを感じながら返事を返した。

『たぶん初回報酬だね。リプレイ報酬からは貰えるものが変わってくるクエストもあるから要注意だよ』

『あ、ほんとだ』

 そうこうしている内に目的のコンビニが見えてきた。
 ここ数日ほどで勉強の疲れが一気に出てきた気がする。ということで栄養ドリンクでも買おうと入店した。
 休憩時間まで使うのはさすがに詰め込み過ぎたのかもしれない。知恵熱が出そうだよ。
 ドリンクコーナーに向かうと色んな種類の飲物が並んでいた。
 滋養強壮、タウリン配合、疲労回復、色々なキャッチコピーがある。
 どれがいいんだろう。全部同じように見えるけど。

「すみません。失礼します」

「あっ、ごめんなさい」

 気付かず道を塞いでしまっていたらしい。
 咄嗟に謝った。
 OLっぽいスーツ姿の女の人はそのまま私の隣を通ってお手洗いへと駆け込んだ。


――カナデにそっくりな男優さん見つけたんだよね。


 いや……まあ、うん。
 そうだよね。ここまで来たらそりゃさすがにちょっとは意識するよ。
 優良の言葉を思い返して、僅かばかりの好奇心が沸き上がってきた。
 コンビニの隅。視界に入ってしまったお手洗い前に設置された雑誌コーナーにチラリと目を向ける。
 中学生の頃を思い出す。
 夜の遅い時間に、こっそり見に来たら変なテープが貼ってて中を見れなかったんだっけ。
 それでも表紙を飾る異性の裸に当時は大いに興奮した記憶があった。
 あの時は捗ったなー……
 いや、でも置いてあるのは別人。私は奏さん以外に興味なんてないし……万が一奏さんに知られたらという不安だってあった。

「…………」

 もし、仮にだけど――本当に奏さんに瓜二つだったらどうしよう。
 違う箇所もあるだろうけど、でも……と、期待してしまう。
 奏さんにそっくりな男の人の裸体なんて捗るなんてレベルじゃない。
 私のちっぽけな理性が消え去ってしまうことだろう。
 周囲を確認。
 知り合いは……見当たらない。人も少ない。

「これは……そう、不貞行為じゃないの。知的好奇心というかさ、私だって一人の女として普段見ることの出来ない異性の体の構造には興味があったんだよね。人体模型を見るみたいな感じ」

 誰に言うでもない言い訳をぶつぶつと呟く女子高生。
 不審者以外の何者でもないだろう。
 勿論相手が奏さんじゃないことは理解している。だけどそこは処女の妄想力がある。
 日頃から鍛えている奏さんとのシミュレーション。それを全開にすれば本当に奏さんだと錯覚することは造作もないだろう。
 そういえば今週はいつも読んでる週刊誌の発売日だったなー、あの続き楽しみだったなー、みたいな顔をしながら少女向けの漫画雑誌を手に取った。

「…………」

 ぺらりとページを捲っていく。
 だけどその情報は私の頭に殆ど入ってこない。
 作者の方には申し訳ないが、私の視線は別のところに向けられている。
 じりじりとすり足で距離を縮めて、優良の言っていたタイトル【美男子の淫らな性の悩みフルコース】を手に取った。
 右手には漫画雑誌。それを利用して隠すように成年向けの雑誌――エロ本を持ち上げる。
 中は未成年だから見れないけど――ということで表紙だけを確認。頭部がチラッと見えた。

「あ、加恋じゃん」

「!?」

 同級生だった。声を掛けられて体が、ビクン!? と文字通り宙に浮きそうなほど跳ね上がった。
 その様子を見て学友の月島綾香ことツッキーが「ほほぅ?」と、ニタニタしたいやらしい笑みを浮かべる。

「いやー分かってる分かってる」

「わ、いやいや、な、何が……?」

「加恋も女だったってことだね。大丈夫だよ誰にも言わないから」

 なんか全部理解してますよ? みたいな優しい微笑みで見られた。

「最近はそういう話に乗ってこないから心配だったんだよ? もしかして加恋ってレズの気があったんじゃ? みたいな噂も一部ではあったり」

 そんな不名誉なことになってたの?
 ツッキーは「どれどれ?」と、私の手から離れたR18の雑誌を手に取る。

「おおっ! そこそこイケメンじゃん! ちょっとレベル高いね……」

「お、う、うん……ちょっと待って。心の準備が」

「いひひっ、ほらほら、凄いよ。乳首は隠れてるけどそこが逆にエロいよね」

 期待を高めてその人物を見た。ドキドキ……
 表紙を飾っていたのは奏さん――

「…………」

 とは似ても似つかない青年だった。
 鼻は僅かに低い。太めだし、不健康そうだ。
 基準が奏さんだから、そう見えるんだろうけど、それでも私はこの人を奏さん似の美男子だとは思えなかった。

 何より一番の違和感はその瞳だった。

 目がこちらを見下すような感じで印象が宜しくない。
 確かに奏さんの面影があると言えばあるかもしれないけど、これが奏さんに”そっくり”だ。という情報には断固抗議したい。
 良く言えば奏さんの面影があるようにも見える気がするぽっちゃり美男子(?)。悪く言えば女を見下すありふれた男の人だった。
 というか優良ってそういうところあるよね。口にする情報が適当というかさ。 
 天然って言うのかなこれも。なんにせよ情報伝達は正確に行なってほしい。

「良い趣味してるねぇ、というか隙間から見れないかな」

 お店の商品だし、そういうことはやめたほうがいいよ。
 閉じた雑誌の隙間を指先でこじ開けようとするツッキーを私はどこか冷静に見ていた。
 なんかどうでもよくなった。いくらそっくりでも、奏さん以外の異性に興味を持つなんて本当にどうかしてた。
 唆されたなんて言い訳にもならない。あれこれ意識してソワソワしてた自分が恥ずかしく思えてしまう。
 そんな私の感情を察したのかこちらを振り向いたツッキーが「あ、あの、加恋?」と、名前を呼んでくる。

「……なんでそんな冷めてるの?」

「え、別に」

「別にじゃないよ。一瞬本気で別人かと思ったんだけど……」

「これからツッキーのあだ名は【フルコースさん】だね」

「なんで私だけ!?」

 店内でツッキーの「理不尽だよっ!?」と言わんばかりの声が響いた。
 ハイテンションなクラスメイトとは反対に私の心は冷え切っていた。
 ここ公共の場だから静かにね。









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