冷寧である俺は戦争に行かないし、救護手当てもしない。~完結済み~

青篝

待ち合わせた俺は

次の日の日曜日の朝。
昴は岡山の中心、岡山駅に来ていた。
中心というだけあって人も多く、
大きなショッピングモールもある。
他にもカラオケや電器屋、
商店街も近場にあり、
休日は特に家族連れで賑わう。
ちなみにこれは岡山の豆知識だが、
カラオケの発祥はここ岡山だ。
元々、カラオケボックスという名の
ただの倉庫を借りて、
その中で歌っていたのが
カラオケの始まりとされている。
つまり何が言いたいのかというと、
岡山は倉庫でしか歌えないくらい
貧乏なところということである。
ホントに『大都会岡山』って
誰が名付けたんだろう…
まぁ確かに倉敷とかあっちの方は
割と儲かってるらしいけど。
昴がなんてことを考えていると、
西難と南関が一緒にやってくる。

「おはよー!」

元気な声と共に、
黄色のサイドテールが揺れる。
今日の西難の派手Tシャツには、
『可愛く歌え!可愛く舞え!』
とデカデカと書かれていた。
お前今日別に歌いに来てねぇだろ…。
あと、これから夏っていう時期に
なんて暑苦しそうな格好してんだよ。

「さすが昴だな。
集合場所には必ず一番乗り」

一方の南関はというと、
西難とは違い、爽やかな印象を受ける。
白地のシャツの上に水色の羽織り。
紺色のデニムパンツ。
目つきは怖いくせに
爽やかイケメン風だなと、
昴が思ったのも束の間。
よく見ると白地のシャツに
小さな文字で何か書いてある。
『伸びきったうどん』と。
あれ?南関ってこんな服着てたっけ?
…ダセェ。
いつもの様子の西難と
いつもとは違和感を覚える南関に、
昴は右手を挙げて応える。

「俺は人を待たせるの嫌いなんだよ。
待たされるのは構わないんだけどな。
…っていうか南関。
お前のそのシャツ何?」

昴、西難、南関と揃えば
あとは一人を残すのみだ。
言わずもがなのこと、東真である。
東真を待つ間、特にすることもないので
昴は南関のシャツに話を振った。

「あぁ、これか?
フッ、昴よ。よくぞ聞いてくれたな」

シャツの胸のところを
少し引っ張りながら、
南関はわざとらしく鼻で笑う。
殴ってやりたい。

「普段なら親が買ってきたのを
なんとなく選んで着てるんだが、
今日はちょっとだけ
気合いを入れようと思ってな。
だから俺が自分で見つけた
お気に入りの服を着てきたのさ」

南関は得意気に黒縁メガネを
持ち上げ言ってみせた。

「なるほど。
お前イケメンのくせに
ファッションセンスねぇのな。
それも俺以上に」

今日の昴の格好は、
黒と青のチェック柄Tシャツに
黒の短パンと黒のスニーカー、
と全身黒色ばかりで
陰キャブリを存分に発揮していた。
だが、昴はファッションに
自信があるわけではないので、
昴のコーディネートは
いつも葉月に任せている。
その昴よりもセンスのない南関は、
恐らく相当ヤバい部類だろう。
しかし、慣れとは恐ろしいもので、
南関と初めて会った時、
南関の目つきの悪さに
昴は結構ビビっていた。
それが今となっては
いつ見てもイケメンだなぁと
思うようになっている。
全く、慣れとは恐ろしいものである。

「みんな、ごめん!待った?」

そうこうしている内に、
東真が小走りにやってきた。
別に集合時間には遅れていないし、
東真が謝る必要はないのだが、
そこに理由を求めてはいけない。
相手を一秒でも待たせてしまえば、
それは謝る理由になり得る。
それに、この何でもない
ただのやり取りをするのが、
『友達』というものなのだろう。

「待ってないよ。大丈夫」

「そうそう、私達も今来たところだから」

南関と西難がそう言うと、
東真はそっと胸を撫で下ろす。
すると、東真の胸元に
何かがキラリと光った。
何だろうと疑問に思い、
チラチラ東真を伺っていると、
昴のいやらしい視線に東真は気づき、
その場でくるっと回ってみせる。

「私の服、そんなに変、かな?」

不安な様子で東真は昴に視線を送る。
しかし実際のところ、東真の服装は
全くもって変ではない。
白のワンピースと
淡い海色のふわふわスカート。
陽射し除けの為なのか
麦わら帽子を被り、
生足お披露目のサンダルに
胸元に光るネックレス。
いかにもこの夏を生きる
女子高生、というよりは、
高貴なお嬢様といった具合だ。

「いや、変ではない。
むしろよく似合ってて可愛いくらい。
ちょっとネックレスが気になっただけだ」

そして、何が一番印象的かって、
学校以外でしか見せない
化粧気のない清楚な可愛いさである。

「か、可愛い…」

何でもないと昴が手を横に振ると、
東真は頬を染めながら
両手で顔を隠してしまった。
その一連のやり取りを
二人の横から見ていた西難と南関は、
顔を見合わせ、ため息を吐く。

「はぁ。二人とも時間来たぞ。
星奈、案内してくれ」

南関がそう促すと、東真ははっとなり、
三人の1歩前に立つ。

「じゃあ、行きましょうか」

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