冷寧である俺は戦争に行かないし、救護手当てもしない。~完結済み~

青篝

怒られた俺は

休み明けの月曜日。
今日はあっという間に過ぎた。
昴は今日一日中、昨日の企画用の
作詞をしていたのである。
といってもどんな曲にするか
まだ定まっていないので、
今の段階では完成には程遠いのだが。
しかし、今日はこの後
部活に顔を出さねばならない。
ここのところ何日か
無断で部活をサボっているのだ。
そろそろ行っておかないと、
罰として一日中走れとか
そんなことを言われかねない。

「…さて、行くか」

今日家で勉強する為の
教材を鞄にぶち込んで、
昴は椅子から立ち上がった。

「おーい、桝北。
お前に用があるってー」

すると、教室の前から
昴を呼ぶ声が聞こえた。
こんな陰キャに誰が何の用だと
昴は思ったが、昴を呼ばせた人物を見て、
何となく納得した。

「ついに桝北君にもモテ期到来?」

「違ぇよ。殴られてぇのか」

昴を呼びつけた人物とは、
他の誰でもない、東真星奈であった。
そして、昴が女の子に
呼びつけられたのを見て、
冷やかしてきた奴が一人。

「ギャフンっ!ヒドくない?
折角この超絶可愛い美少年の
僕ちゃんがおめでとうって言ってるのに」

昴より一回り小さな身長の
この自称超絶可愛い美少年は
昴のクラスメイトの花愛かわい日向ひなた
何というか、可愛い。
可愛い以外にどう表現すればよいのか、
小説家である昴でさえ思いつかない。
綺麗な海色に染まった髪は
まるで本物の海のように
キラキラと光を反射し、艶がある。
瞳も透き通った青色で、無駄に大きい。
そして大きな瞳とは対照的に小顔なのだ。
…言っておくが、花愛は男だ。
初対面の人にはいつも確実に
勘違いされるが、男だ。
男のアレもちゃんとついている。

「はいはい、そりゃどーも」

鬱陶しい程にまとわりつく花愛を
昴は手で追い払い、
東真のいる教室の出口に向かった。
あれだけのルックスを持ち、
自分でも可愛いと自負する花愛だが、
実は昴と同じれっきとしたバド部員。
身長が低いため、スマッシュ等の
打点の高さが必要な技は苦手とし、
代わりにネットのギリギリに
シャトルを落とすヘアピンという技は
部内でもトップクラスに上手い。
――女の子を落とすのも
特技の一つであるらしい。
一度死んでこい。

「あっ、昴。詩はもう出来た?」

あれ?こいつ俺のこといつから
昴って呼ぶようになったんだ?
つい昨日まで『昴さん』だったよな?
それに、敬語じゃなくてタメ口だな。
それから…

「…今日は鉄仮面してるのか」

あの分厚い化粧も健在だった。

「え?鉄仮面?何のこと?」

東真は今の化粧に対し、
何とも思っていないらしい。
いくらこの学校の校則が
緩いからといって、
この化粧を指摘しない
教師もおかしいと思うが。

「いや、何でも無い。忘れてくれ。
…で、作詞の方なんだが、
もう少しかかりそうだから、
皆にも伝えておいてくれると助かる」

厚化粧のことを理解しきれていないが、
東真は昴の伝言を受け取ると、
じゃあ、またねと言ってかけて行った。
そのすぐ後、昴も部活に行くため
一人部室へと向かった。



部活中、昴はずっと頭を悩ませていた。
今回の企画の趣旨や意図が
昴にはほとんど分かっていない為、
どんな風に作詞すればよいのか、
検討もつかないのである。
東真に会った時に聞いていれば、
今もこうして考えることなど
なかったのだが、
忘れていたものは仕方がない。
後で電話でもすれば万事解決だが、
こういう時、昴は自分で
何かしらの結論を出さないと
落ち着かない性質なのである。

「…フンっ!」

見えないそれを振り払うように
昴はラケットに思いを乗せる。
パァンと甲高い音が体育館に響く。

「おぉー。ナイス陰キャ」

昴の放った強烈なスマッシュは、
見事にコートのライン上に
叩き付けられていた。
その様子を見て、感想を述べた奴がいた。

「こんくらい普通だ。
お前も早く打てるようになれ」

「無理」

やる前から出来ません、
とかアホかしやがる
この腐った野郎は見江みえ広大こうただ。
その場をうるさくするのが
三度の飯より好きで、
『見栄を張るのが呼吸の如し。』
とかいう謎の理念を掲げている。
ツーブロックヘアーが
トレードマークのポンコツだ。
ちなみに部内ランキングは
堂々最下位の九位である。

「ちょっと調子いいからって
調子乗んなよ、クソ陰キャ」

「あ?」

昴の前に、またも昴を馬鹿にする
クズ男が現れた。

「今にお前を団メンから
引き釣り下ろしてやる」

「フッ、やれるもんならやってみろ。
ただの女たらしが」

そうやって昴にケンカを
吹っ掛けてきた奴を昴は鼻で笑い、
挑発して返す。
こいつは軽追けいおい直樹なおきといい、
運動神経は悪くないのだが、
部内ランキングは七位と低く、
何かにつけて昴に突っかかる。
そして、最低の女たらしで有名。

「はいはい、そこまで。
広大は早くもっと上手くなれ。
直樹は強くなってから
団メン発言をしろ。
桝北はこいつらの挑発に乗るな。
…分かったか?三人とも」

そんな険悪な昴達を制したのは、
部長である左白さしらだ。
誰が相手でも分け隔てなく接し、
誰にでも注意できるからこそ
左白が部長に選ばれた一番の要因だ。
は~い、と昴達は返事をして
また練習へと戻る。
それを左白が見送り、
練習の様子を監視するのだが、
目の前に飛んできたシャトルを
盛大に空振った見江の憐れな姿を
その直後に見ることとなった。

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