冷寧である俺は戦争に行かないし、救護手当てもしない。~完結済み~

青篝

何もできなかった俺は

あの日からというもの、
朱空の様子は
以前と変わってしまった。
学校ではやけによそよそしく、
二人でいる時も
無理に明るく振る舞おうとする。
その度に昴が朱空に
何かあったのか聞いても、
朱空は何でもない、
新曲のことを考えていたんだと、
必ず誤魔化してしまう。

「なぁ朱空。
俺とお前は友達だよな?」

図書館からの帰り道、
話があるからと
昴は朱空を連れて
小さな公園に来ていた。
古びたイスに二人は腰掛け、
昴は朱空にそう投げかける。
何を当たり前のことを、
という顔で朱空は昴を見ると、
昴の表情は真剣そのものだった。

「うん、そうだよ。
昴は僕にとって他の何にも
変えることのできない、
大切な僕の友達だよ」

朱空は頬を指で
ポリポリとかきながら
昴の質問に答えた。
夕焼けに照らされてか、
朱空が紅潮しているのか、
その頬は朱く見えた。

「なら、朱空。
何があったのか
俺に話してくれないか?」

何度この問いを
昴は朱空にしただろうか。
もう昴自身も同じセリフを
言い飽きてしまいそうだ。

「大丈夫だよ、昴。
これは僕が乗り越えなきゃ。
誰の力も借りられないんだ」

そう言って、朱空は
昴の求める答えをしなかった。



その二週間後のある日、
朱空が学校を休んだ。
朝は一緒に学校に行くのに、
いつもの待ち合わせ場所に
朱空が来なかったのだ。
風邪でもひいたのかと思い、
放課後朱空の家に
お見舞いに行こうと思っていた。
学校が終わって朱空の
担任から朱空のプリントを受け取り、
一度昴の家に帰って
朱空の家に行こうと
準備をしていた時、
義母を通して
昴のもとに一報が届いた。
――朱空が亡くなったと。
それも自殺の可能性が高いと。

「昴、君…」

昴はすぐに朱空の
住んでいた家に走った。
渡すはずのプリントも忘れて。
朱空の家に着くと、
救急車が一台、
パトカーが二台止まっていて、
野次馬も群がっていた。
人混みをかき分けると、
溢れる涙が止められない
朱空の母親が昴に気づいた。

「朱空君のお友達かな?」

すると警察官の一人が
昴に声をかけてきた。
三十代前半くらいの
人の良さそうなお兄さんである。
名前を近藤というらしい。

「少しだけでもいいから、
話を聞かせてもらっていいかな」

話…?何の?俺の?
俺の何を話せばいいのか。
いや、俺じゃない。朱空の話だ。
最近の朱空の様子?
朱空の性格?
朱空の職業?
俺と朱空との関係?
なぜ、俺は昴の自殺を
止められなかったのか?
朱空の一番近くにいたくせに。

「俺…は…」

「昴!」

昴が理性を失いかけた
その刹那、夕方の住宅街に
西難の声が響き渡る。

「昴、おじさんもおばさんも、
えっと、あの、楽…は?」

昴も西難も完全に取り乱し、
どうすればいいのか
分からなくなっていた。
すると、二人を見かねた近藤さんが
二人に気を使ってくれた。

「二人とも、とりあえず
パトカーに乗って落ち着こうか。
お母様もどうぞ」

近藤さんは、パトカーの一台に
昴達と朱空の母親を乗せた。
朱空の母親を助手席に、
その後ろに西難、
運転席の後ろに昴を座らせた。
車内には母親の泣き声が
ずっと聞こえている。

「…昴はさ。どうしてだと思う?」

パトカーに乗って数分後、
西難は昴に問いかける。
どうして。
この問いは最もである。
まだ断定はされてないが、
朱空は自殺をした。
その理由を突き止めなければ
気がすまないのだろう。

「…あいつ、最近変だったんだ」

話すべきか悩んだ昴だが、
俺達の間に隠し事は
したくなかった。

「変?」

昴の言葉に西難は反応する。
昴は少しだけ間をおいて、
自分の知っていることを
ゆっくりと話し始めた。

「あれは入学式の日だった。
俺と朱空は一緒に帰ってて、
いつものように
俺は校門のところで
朱空を待ってたんだ。
でも、なかなか来ないんだ。
そしたら20分くらい経って
やっと来たと思ったら、
朱空のやつ、泣いてやがった」

「泣いてたの?どうして?」

「理由は分からない。
ただ、泣きながら来たんじゃなくて
泣いた後少し時間が経っていた。
涙は乾いていたけど、
瞼の腫れ、濡れた袖は
隠しきれていなかった。
なんで遅かったのか聞いたら、
クラスの連中と話してたって。
だけど不自然だった。
俺が待ち始めて10分位の時に、
もしかして先に帰ったのかと
思って靴箱を見に行ったら、
朱空の靴しかなかったんだ」

峰城中学の靴箱は
一つ一つに扉なんてない。
だから一目見ただけで
靴があるかないか分かるのだ。
――そこで少し間が空いた。
西難は昴の言葉を聞いて
自分で解釈しているようだった。
そして数分後、西難は言った。

「…昴。続けて」

「あぁ。朱空が変だったのは
その日から後のことだ。
学校ではまるで他人みたいに
よそよそしくするし、
二人だけの時は
やけに元気でうるさかった。
明らかにおかしかったから
クラスで何かあったのかと
聞いても聞く度に誤魔化してきた。
毎日そんな感じで、
そしたら今日は朝に
待ち合わせ場所に来なくて。
風邪でもひいたのかと思って
学校の後見舞いに行こうとしたら、
義母から朱空の一報を聞いて…」

そこまで話して、
昴は口を閉じた。
依然として朱空の母親の
泣き声は車内に響き、
西難も口を手で覆い
声にならない泣き声をもらす。
昴は自分が朱空に対して
何もしてやれなかったと、
自らの力不足を恨み、
体全身の震えと、
涙が流れるを止められなかった。


━━━━━━━━━━━━━━━
あとがき



どうも、夢八です。
読んで頂き、感謝します。



前回の予告通り、
この話は山になりました。
正直、人が泣く描写は難しくて、
かなり苦労しました。
もっと練習が必要ですね。



それでは、アディオス!

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