冷寧である俺は戦争に行かないし、救護手当てもしない。~完結済み~

青篝

打ち上げした俺は

「それじゃあ…」

春が近づてきた三月の下旬。
徐々に気温も暖かくなり、
窓を開けていれば
たまに吹き抜ける風が
涼しく気持ち良い。
その心地よい空間で、
部屋に朱空の声が響く。

「乾杯!」

昴達のコラボ企画が
決定してから約一ヶ月半。
彼らは再び朱空の部屋に
集まりテーブルを囲んでいた。

「「「乾杯!」」」

彼らが共同で制作した曲、
『ストレリチア』は、
動画サイトで驚異の
5千万回を記録した。
今日はその打ち上げである。

「んぐっんぐ……っプハー!
やっぱ、ジュースっていえば
『ゴロっとロンガン』だよねー!」

西難がサムネイル画像と
動画背景のイラストを、
南関が作曲と動画の編集を、
そして昴と朱空が作詞を
担当した曲は今も
ものすごい勢いで
再生回数を伸ばし続けている。

「愛花、まだそんな
気色の悪い飲み物飲んでんのか」

南関の指摘した
西難が飲んでいる飲み物、
『ゴロっとロンガン』は
黄色と黄緑色がメインで
派手にデザインされた缶ジュースだ。
ロンガンというのは
龍眼リュウガンとも呼ばれ、
東南アジアから中国南部を
原産とした果実で、
2㌢㍍ほどの丸く茶褐色の実を
ぶどうのように実らせる。
そのロンガンの果実が
ゴロっと入っている飲み物は、
西難のお気に入りらしい。

「気色悪いって何よ。
飲んだことないから
そんなこと言ってるんでしょ。
あーあ、可哀想に。
ロンガンの美味しさが分からないなんて」

そう言って西難は
ロンガンジュースを
高く掲げてみせた。

「分かりたくもない」

本当にロンガンが
美味しいかはいいとして、
この一ヶ月半で四人は
とても親しくなった。
とは言っても、
元々昴だけ二人と
面識が無かっただけであったのと、
二人は昴に対して
憧れを抱いていたので、
仲良くなるのに
そう時間はかからなかった。

「フーンだ。
別に和斗に分かってもらわなくても、
昴は分かってくれるもーん。
ねー?昴ー?」

まるで子どもみたいに
西難は昴に話を振る。
こうやって自然な流れで
人に話を振れる西難のおかげで、
打ち解けるのが早かったのかなと、
昴はつくづく思う。

「そうだな。
自分の知らないことを
知ろうとするのが人だからな」

小悪魔のような笑顔を
向けてくる西難に、
俺も笑顔で応える。
南関はバツが悪そうに
メガネを持ち上げて、
コップに注がれた
お茶を勢いよく飲み干した。

「はいはい、分かったよ。
でも今は喉乾いてないから、
また今度飲ませてもらうぜ」

それ飲む気ないでしょ、と
西難はコメントするが、
南関は顔を背けた。

「まぁまぁ、愛花。
いつか和斗にも
その味の良さが分かるよ。
そんなことよりも、
今日は打ち上げなんだから、
もっと明るくパーっといこう」

二人の間に朱空が入り、
再び四人の中に
活気が蘇ってくる。



夕方、まだ明るいうちに
帰ろうかとなり、
打ち上げは幕を閉じた。
また今度皆で集まろうねと
西難は呼びかけるが、
この日が四人で集まる
最後の時間になるとは、
誰も思わなかった。



━━━━━━━━━━━━━━━
あとがき


どうも、夢八です。
読んで頂き、感謝します。




作中に登場した
『ストレリチア』なんですが、
私の別の作品に作詞として投稿してます。
以前に登場した『赤い慟哭』も
そちらに載っけてますので、
合わせてよろしくお願いいたします。


それでは、アディオス!

コメント

コメントを書く

「学園」の人気作品

書籍化作品