冷寧である俺は戦争に行かないし、救護手当てもしない。~完結済み~

青篝

呼びつけられた俺は

「いってきまーす」

時刻が8時を回る少し前、
葉月が先に家を出る。
それを見送るのも、
兄である俺の役目だ。

「行ってらっしゃい」

こちらに手を振る葉月に
俺も手を振り返す。
葉月の背中が角を曲がり
見えなくなるまで
立ち尽くしてから
俺も忌々しい学校への
準備をするために
家の中に戻った。



8時20分頃に
俺は教室に入る。
この時間になると
既にクラスメイトの
半数以上が来ている。
騒々しい空気の
前方を突っ切り
俺の席に座る。
窓側の前から3番目、
ここが俺の席だ。
片側にしか通路が無い分、
ここの周辺には
人は集まらない。
それに、クラスの
上位カーストの連中は
廊下から2列目の最後尾、
つまりは千岡せんおか梨花りか
席の周辺にたむろする。
窓側であり、
人も集まらないこの席を
俺は気に入っている。
席に座るとすぐに
鞄から一冊の本を取り出す。
山田悠介の作品だ。
『スイッチを押すとき』
俺が山田悠介の作品を
知るキッカケになった本。
自分の立場を顧みず、
救おうと思った少年少女の夢を
命懸けで守った先に
残酷な運命が明らかになる。
この作品に出会った約4年前、
当時中学1年生の俺は
この作品を読み、
誰かのために命を懸けて
自分を貫く主人公に心打たれ、
もし葉月に危機が
迫ろうものなら
自分もこんな風に
命を張るのだろうかと
予想図を描いたものだ。
今ちょうど主人公が
最後の夢と海辺で
話をしているシーンだ。
このシーンを読むと、
結末が分かっていても
目頭が熱くなってしまう。

「ん?」

薄ら涙を拭おうと
本から顔を上げると
俺の机上に1枚の紙切れが
置いてあるのに気づいた。
白く、1辺が10㌢㍍程の
ほぼ正方形の紙切れである。

「.......(キョロキョロ)」

辺りを見渡してから
紙切れに手を伸ばす。

『北極うさぎさんですよね?
私は東雲小町です。
少しお話をしたいので
昼休みに図書室に
来ていただけますか?
もし来てくだされなければ
毎日このようなお手紙を
出させていただきます。
何卒宜しくお願い致します』

その紙には
女の子らしい小さな字で
以上のことが書かれていた。
だが、字は女の子らしくても
その内容は酷なもので、
一方的に喋ったと
思ったら来なければ
毎日出すって…
誰かも知らん輩の
イタズラに付き合うほど
俺は暇じゃないんだが。

「…フン」

俺は紙を丸めて
そのまま教室の後ろにある
ゴミ箱に捨てた。
…その時に教室の前の
ドアから誰かが
覗いていたのを、
俺は気付かなかった。



──時は過ぎて昼休み。
俺は弁当箱を持って
図書室へと向かった。
名前も知らない誰かの
呼び出しに応じるのは
すこぶる癪だったが、
自分の秘密を
握られている以上、
無視するわけにも
いかなかった。
まぁ、そうでなくても
毎日あんなもの出されたら
たまったものじゃないので
否が応でも来るしか
なかったのであるが。

「…あいつか?」

どこかで見たことが
あるような奴の後ろ姿が
1人で椅子に座っていた。
肩まで程のショートヘアに
清楚な雰囲気が漂っている。
俺とそいつの他には
不思議なことに誰もいない。
いつも誰かしらが
いるはずの受け付けにも
空の椅子があるだけだった。

「東雲小町はあんたか?」

ゆっくりと歩み寄り、
恐る恐る後ろから声をかける。
すると女は見覚えのある
鉄仮面をこちらに向けた。
―というのが俺の
思い描いた展開なのだが、
振り向いたのはマスクをつけた
パッチリ目の女であった。

「はい…そうです…」

恥ずかしいのか、
緊張しているのか、
はたまた恐れているのか、
その本命は不明だが、
女はか細い声で答えた。
それも俺の顔を見ずに。
人を呼びつけておいて
何なんだこの女は、
と俺は思ったが、
腹が減ったので
とりあえず女の
向かいの席に座る。

「できるだけ早く終わらせたい。
いいか、2つ聞くぞ。
まず1つ、話ってなんだ」



━━━━━━━━━━━━━━━
あとがき



どうも、夢八です。
読んで頂き、感謝します。


新型コロナウイルスの影響で
最近マスクがないって
テレビで報道してます。

皆さんは大丈夫ですか?
あのコロナってね、
感染力強すぎて
目からも感染するらしいですよ。

まぁ私には関係ないです。


え?なぜかって?


外に出ないからね。


「冷寧である俺は戦争に行かないし、救護手当てもしない。~完結済み~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「学園」の人気作品

コメント

コメントを書く