冷寧である俺は戦争に行かないし、救護手当てもしない。~完結済み~

青篝

オムライスに誓った俺は

話は、俺がまだ8歳で、
葉月が6歳の時に遡る―。


──────────


「おい!金は!」

母を殴り飛ばし、
俺達の前で大声を張り上げた。
…俺達の父親だ。
父は、小さな会社の
営業部長を務めていた。
ホントに小さな会社なので
社員は10人程度しか
いなかったが、
父は営業部長という肩書きの
優越感に浸り、
毎日のようにパチンコや
競馬場を転々としていた。
たまに家に居ても
朝から酒、夜まで酒。
そのような男に
神が微笑むはずがなく、
帰ってくる度に
こうして怒りを
よく母にぶつけていた。
そして、いつも家のお金を
盗むように持っていく。
お金は母が投資と株で
かなり儲けていて、
結婚したのだから俺のものだと
力ずくで持っていく。
それが父の日課だ。
母は泣き、葉月もその光景に
恐怖で震えていた。

「....何見てんだ?あぁ!?」

その怒りの矛先も
母ばかりではなく、
俺や葉月にも向けられた。
父に睨まれた途端に
俺の右腕を強く握ったのは、
怯えた葉月である。
俺の後ろに隠れ、
更に腕に力が走った。
俺の腕に小さな振動が
プルプルと伝わってくる。
それだけで、葉月が
どれだけ父を恐れているのか、
8歳の俺は
まだ幼いながらに
分かってしまった。

「お?てめぇがやんのか?」

右腕はそのままに、
左手を横へ伸ばす。
そして精一杯の怒りを
込めた眼光を
父に向けた。
俺はまだ8歳で、
その眼差しが父にとって
恐るるに足らないことは
百も承知だったが、
俺は何もしないわけには
いくはずがなかった。

「なんだその目はぁ!」

顎に強い衝撃が走る。
俺は父の蹴りをまともに
顎にくらい、2㍍程飛んで
壁に激突した。
背中にも衝撃がくる。
口の中に血の味が充満し、
意識も朦朧としてきた。

「ちょっと!子どもには
何もしないって言ったでしょ!?」

母の声が聞こえた。
その後の母と父の声は
ほとんど聞こえてないが、
また父が母を殴り、
母は泣いていたと
いうことは分かった。
薄れていく意識の中で
父の罵声、母の泣き声、
葉月の俺の名前を呼ぶ声が
頭に響いていた。



そんな日々を
繰り返して数年、
ついに我慢の限界だと
母は俺達を連れて
家を出ていった。
母は父がいない間に
俺達の荷物をまとめ、
お金もほとんど残さず、
次の日の朝早くに
神奈川から岡山に
越してきた。
家は事前に母が
契約していたので
困らなかった。
小学校の転校手続きも
母が全て行っていた。
その時の事は今も
大いに感謝している。
が、母は俺が12歳の時に
時価で約5000万円分の株券を
遺して死んでしまった。
父からの暴行や
ストレスにより
心臓が悪くなっていたらしい。
その時に父からの暴行などを
医者に話すと、
父親を訴えることが
できるけど、どうする?
って聞いてきた。
俺は当時中学1年生で
葉月もまだ小学生、
裁判なんて難しいし、
父を訴えたところで
母は帰ってこない。
葉月にも一応聞いたが、
首を横に振ったので
俺は医者の提案を断った。
それからは里親ということで
別の母親ができたが、
俺達は心を彼女に
開くことはなかった。
だが、葉月は俺には
心を開いてくれた。
だからその時誓った。
里親でも誰でもない、
俺だけは葉月の傍にいると。
そしてその日の晩、
里親が今夜は遅くなるから
2人で食べてと
料理の材料を置いて
どこか行ってしまった。
葉月に料理は
させられないので
俺はこの時に初めて
料理を作った。
その料理こそが
オムライスであった。
ご飯はベチャベチャで
卵もボロボロだったが、
葉月は美味しいと言って
平らげてしまった。
自分で作ったし、
一緒に食べたから分かる。
あれは不味かった。
今思い出してもはっきりと
言い切ることができる。
あのオムライスは不味かった。
だが、葉月はただただ
美味しいと食べた。
里親の何の料理を
食べても美味しいとは
1度も言わなかった葉月が
美味しいと食べた。
泣きながら食器を洗い、
絶対に二度と
そんなことはさせないと
同時に俺は誓った。


──────────


「―こんなとこだ」

一通りの話を終えて
俺は西難に時間をやった。
西難も俺の心中を悟り、
深く聞いてくることもなかった。
重苦しい空気の中、
場の雰囲気を変えようと
俺は再び口を開いた。

「まぁ料理は
まだまだ勉強中だがな」

自虐ネタを入れ
西難の笑顔を誘う。
俺の心が分かってか否か、
西難は笑ってくれた。

「そうだね、今日の料理は
まだまだ上を目指せそうだもん」

2人で笑った。
暗い夜道に街灯が
点々の並び、静かな
夜に俺達の笑い声が響く。

「ここまででいいよ。
今日はありがとね」

数歩前に出た西難が
こちらに手を振る。
俺も手を振り返し
西難を見送った。
真っ白なスカートの裾が
ヒラヒラと舞っていたが、
それとは正反対に
西難の心は沈んでいた。



━━━━━━━━━━━━━━━
あとがき



どうも、夢八です。
読んで頂き、感謝します。



自分で書いてて
なんか気分が
悪くなってきました。


次回は妹で癒されます。



それでは、アディオス!

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