冷寧である俺は戦争に行かないし、救護手当てもしない。~完結済み~
闇のある俺達は
「愛花さんもお兄の
オムライス好きなんですか?」
野菜と豚肉の焼ける匂いが
キッチンに広がり、
リビングから聞こえる
西難と葉月の声が
より一層匂いを
引きたたせる。
「うん。なんだか
懐かしい味がして、
すごく好きなんだ」
自分の料理が
美味しいと言ってもらえると、
作った側からすれば
これ以上に嬉しいと
思うことはない。
更にそれが自分の
得意料理だったなら、
感無量である。
「愛花さんもってことは
葉月ちゃんも好きなの?」
そろそろ仕上がってきたな。
さて、味はどうだ?
……うん、美味い。
我ながらいい出来だ。
キャベツの食感が
いい具合に残ってるし、
人参は柔らかくなってる。
豚肉も国産だから
柔らかく食べやすいし、
しっかりタレ味が染みてる。
味噌汁もあとは
味噌を溶くだけだから
もうすぐ完成だ。
「はい!ずっと昔から
食べてるんですけど
いつ食べても美味しいんです。
それに、オムライスは
私とお兄の思い出の
品でもあるんです」
葉月。その話は止めろ。
空気が悪くなるし、
飯が不味くなる。
「葉月ー、もう出来るから
3人分の配膳頼むわー」
西難には申し訳ないが、
あの話を客には
聞かせることはできない。
家族を捨てた父親の話など、
思い出せば反吐が出る。
特に家庭内で辛い経験を
している西難には、
余計と苦い思いをさせる。
「はーい」
パタパタと足音が近づく。
葉月は棚にある茶碗と
お椀、コップと3人分を
キッチンのテーブルに並べる。
毎日のようにやっているので
葉月はその作業に慣れているが、
そのせいで俺の心は傷んでしまう。
「葉月、あの話は
たとえ冗談でもするな」
手鍋に味噌を溶きながら
俺は葉月に釘を刺す。
葉月の手が1度止まったが、
すぐに動きだした。
「…うん.......ごめんなさい」
葉月は、か細い声で
そっと謝った。
葉月の顔は先程までの
明るさは消え、
影が差していた。
「私も手伝おうかー?」
リビングから顔を出し、
西難がこちらを
伺っている。
「大丈夫だ、西難は
客なんだから
ゆっくりしてな」
そう言うと西難は
リビングに引っ込んだ。
うん、客は大人しく
犬みたいに待ってなさい。
「よし、出来た」
茶碗にご飯、お椀に味噌汁、
コップに麦茶を注ぐ。
丸い皿に炒め物を分け、
今日の夕食の完成だ。
「おーい、出来たぞー」
リビングに向かい、
声を届かせる。
すると、西難が
パタパタとやってきた。
「おー。美味しそうだね」
4人掛けのテーブルに
3人分の食事が並ぶ。
俺の向かいに葉月が座り、
葉月の隣りに西難が座った。
これが一般の家庭ならば、
兄妹が隣りに座り、
向かいに両親が
座るのだろうが、
俺達に父親らしい父親は
存在しないし、母親も
ほとんど家にいない。
「いただきます」
「「いただきます」」
まず西難が挨拶をして、
その後俺と葉月が
2人で手を合わせる。
「美味しい」
野菜をひと口食べた
西難が感想を言う。
俺は当然、悪い気はしない。
「どうも」
それきり、会話が途切れた。
3人とも、黙々と食べ続ける。
咀嚼音と箸の音しか、
キッチンに響いていない。
何か不安気な顔を
西難はしているが、
俺は気にしない。
何も言われなければ、
こちらから何か
手を出すことはない。
葉月も暗い表情のまま
あまり変わっていない。
普段なら2人で何かしらの
会話をしながら
食べるのだが、今日は違った。
結局、その後食べ終えるまで
誰も口を開かなかった。
──────────
「またね。葉月ちゃん」
時計の針が8時半を
回った頃、我が家の玄関。
西難はそろそろ帰るらしい。
なので俺は西難を
家まで送るべく、
また、葉月はその見送りに
意図せず3人で玄関に集まった。
「葉月、留守番頼むぞ」
俺の言葉に葉月は
ただ頷くだけだった。
先までの顔よりは
大分マシになったが
それでもまだ葉月の顔は
元気な葉月ではなかった。
心配だが、夜道の中を
西難1人で帰すわけにも
いかなかった。
「すぐに帰るからな」
そう葉月に言い残して、
俺達は外に出た。
6月のこの時間は
ちょうどいい気温で
目を閉じれば
眠ってしまいそうだ。
俺達はしばらく無言で
歩いていたが、
我慢できないと言わんばかりに
西難が俺に聞いてきた。
「ねぇ、昴。
葉月ちゃんに聞いちゃいけない
話って何?」
西難には聞こえたようだ。
俺が葉月にその話を
するなと言ったことが。
西難は、不安気で
どこか寂しそうな
瞳を俺に向けた。
そんな目で見られて
何も感じないほど、
俺の心は腐っていない。
「…話してもいいが、
絶対に秘密にすると
ここで誓ってくれ」
いいだろう、俺達の全てを
ここでさらけ出してやる。
だが、お前も道連れだ。
「うん、誓う。
誰にも話さない」
西難が誓ってくれたので、
俺は話すことにした。
なぜ、俺達に父親がいないのか。
なぜ、俺が心に闇を
抱えているのか。
なぜ、お前達以外に
俺が心を開かないのか。
それらの全てを、
俺は語りだした。
━━━━━━━━━━━━━━━
あとがき
どうも、夢八です。
読んで頂き、感謝します。
次回はかなり
胸クソ悪い内容に
なると思います。
我慢してね?
それでは、アディオス!
オムライス好きなんですか?」
野菜と豚肉の焼ける匂いが
キッチンに広がり、
リビングから聞こえる
西難と葉月の声が
より一層匂いを
引きたたせる。
「うん。なんだか
懐かしい味がして、
すごく好きなんだ」
自分の料理が
美味しいと言ってもらえると、
作った側からすれば
これ以上に嬉しいと
思うことはない。
更にそれが自分の
得意料理だったなら、
感無量である。
「愛花さんもってことは
葉月ちゃんも好きなの?」
そろそろ仕上がってきたな。
さて、味はどうだ?
……うん、美味い。
我ながらいい出来だ。
キャベツの食感が
いい具合に残ってるし、
人参は柔らかくなってる。
豚肉も国産だから
柔らかく食べやすいし、
しっかりタレ味が染みてる。
味噌汁もあとは
味噌を溶くだけだから
もうすぐ完成だ。
「はい!ずっと昔から
食べてるんですけど
いつ食べても美味しいんです。
それに、オムライスは
私とお兄の思い出の
品でもあるんです」
葉月。その話は止めろ。
空気が悪くなるし、
飯が不味くなる。
「葉月ー、もう出来るから
3人分の配膳頼むわー」
西難には申し訳ないが、
あの話を客には
聞かせることはできない。
家族を捨てた父親の話など、
思い出せば反吐が出る。
特に家庭内で辛い経験を
している西難には、
余計と苦い思いをさせる。
「はーい」
パタパタと足音が近づく。
葉月は棚にある茶碗と
お椀、コップと3人分を
キッチンのテーブルに並べる。
毎日のようにやっているので
葉月はその作業に慣れているが、
そのせいで俺の心は傷んでしまう。
「葉月、あの話は
たとえ冗談でもするな」
手鍋に味噌を溶きながら
俺は葉月に釘を刺す。
葉月の手が1度止まったが、
すぐに動きだした。
「…うん.......ごめんなさい」
葉月は、か細い声で
そっと謝った。
葉月の顔は先程までの
明るさは消え、
影が差していた。
「私も手伝おうかー?」
リビングから顔を出し、
西難がこちらを
伺っている。
「大丈夫だ、西難は
客なんだから
ゆっくりしてな」
そう言うと西難は
リビングに引っ込んだ。
うん、客は大人しく
犬みたいに待ってなさい。
「よし、出来た」
茶碗にご飯、お椀に味噌汁、
コップに麦茶を注ぐ。
丸い皿に炒め物を分け、
今日の夕食の完成だ。
「おーい、出来たぞー」
リビングに向かい、
声を届かせる。
すると、西難が
パタパタとやってきた。
「おー。美味しそうだね」
4人掛けのテーブルに
3人分の食事が並ぶ。
俺の向かいに葉月が座り、
葉月の隣りに西難が座った。
これが一般の家庭ならば、
兄妹が隣りに座り、
向かいに両親が
座るのだろうが、
俺達に父親らしい父親は
存在しないし、母親も
ほとんど家にいない。
「いただきます」
「「いただきます」」
まず西難が挨拶をして、
その後俺と葉月が
2人で手を合わせる。
「美味しい」
野菜をひと口食べた
西難が感想を言う。
俺は当然、悪い気はしない。
「どうも」
それきり、会話が途切れた。
3人とも、黙々と食べ続ける。
咀嚼音と箸の音しか、
キッチンに響いていない。
何か不安気な顔を
西難はしているが、
俺は気にしない。
何も言われなければ、
こちらから何か
手を出すことはない。
葉月も暗い表情のまま
あまり変わっていない。
普段なら2人で何かしらの
会話をしながら
食べるのだが、今日は違った。
結局、その後食べ終えるまで
誰も口を開かなかった。
──────────
「またね。葉月ちゃん」
時計の針が8時半を
回った頃、我が家の玄関。
西難はそろそろ帰るらしい。
なので俺は西難を
家まで送るべく、
また、葉月はその見送りに
意図せず3人で玄関に集まった。
「葉月、留守番頼むぞ」
俺の言葉に葉月は
ただ頷くだけだった。
先までの顔よりは
大分マシになったが
それでもまだ葉月の顔は
元気な葉月ではなかった。
心配だが、夜道の中を
西難1人で帰すわけにも
いかなかった。
「すぐに帰るからな」
そう葉月に言い残して、
俺達は外に出た。
6月のこの時間は
ちょうどいい気温で
目を閉じれば
眠ってしまいそうだ。
俺達はしばらく無言で
歩いていたが、
我慢できないと言わんばかりに
西難が俺に聞いてきた。
「ねぇ、昴。
葉月ちゃんに聞いちゃいけない
話って何?」
西難には聞こえたようだ。
俺が葉月にその話を
するなと言ったことが。
西難は、不安気で
どこか寂しそうな
瞳を俺に向けた。
そんな目で見られて
何も感じないほど、
俺の心は腐っていない。
「…話してもいいが、
絶対に秘密にすると
ここで誓ってくれ」
いいだろう、俺達の全てを
ここでさらけ出してやる。
だが、お前も道連れだ。
「うん、誓う。
誰にも話さない」
西難が誓ってくれたので、
俺は話すことにした。
なぜ、俺達に父親がいないのか。
なぜ、俺が心に闇を
抱えているのか。
なぜ、お前達以外に
俺が心を開かないのか。
それらの全てを、
俺は語りだした。
━━━━━━━━━━━━━━━
あとがき
どうも、夢八です。
読んで頂き、感謝します。
次回はかなり
胸クソ悪い内容に
なると思います。
我慢してね?
それでは、アディオス!
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