冷寧である俺は戦争に行かないし、救護手当てもしない。~完結済み~

青篝

妹がいる俺は

「あ~、今日も疲れた~」

体育館での練習を終え、
部室に戻ってきた。
各自の椅子に座ると
1番に疲労を口にしたのは
他でもない散原である。
散原は背もたれに
ギシギシともたれかかり、
顔を天井に向ける。

「お前今日手ぇ抜いてたろ?
スマッシュ遅かったぞ」

その散原に反論したのは、
部室に入って早々に
上半身裸になった左白だ。
左白には脱ぎ癖があるのだが、
本人曰く、窮屈なのが
どうにも性に合わないとか。
だが、俺は違うと思っている。
なぜなら、左白の体は
これ以上ないくらいに
仕上がっているのだから。
左白は夢が警察官なだけに
日々体を鍛えている。
俺には左白がその体を
皆に見せびらかしたいとしか、
思えないのである。

「抜いてねぇし。今日は
調子出せんかっただけやし」

いつもと同じ言い訳だ。
まるで小学生しているような
こんなやり取りを
毎日のように繰り返して
果たして飽きないのか?
と心で思っても、
俺は口に出さない。
口に出してしまうと、
その後の返しが
いちいち面倒臭いからな。

「なぁ、陰キャ?
俺今日は調子悪いよな?」

散原は俺も方へと
顔を向け、意見を求めてきた。
ほらな。俺にはこんな
質問が飛んでくる。
ただでさえ、
話しかけなくても散原が
こうやって話しかけてくるのに
俺から話しかけるなんて
想像するだけで
気が遠くなっちまう。

「すぐに手を抜くのは、
散原の悪い癖だな」

そんな散原には、
俺から素敵なプレゼント。
この部室に俺の味方と
呼べる存在はいない。
これは周知の事実で、
同時に俺は誰に対しても
平等であることを意味する。
なので、俺のこの発言は、
散原に集中砲火を浴びせる
引き金となった。

「はい、決定~。
翔は今日、手を抜きました~」

手を叩きながら
罰ゲーム決定みたいなノリで
左白は散原を煽るが、
その格好が故に、
左白が手を叩く度に
鍛えられた胸筋や
上腕がこちらの目を引く。

「は?抜いてねぇって!
陰キャ、お前ふざけんなよ!」

1度左白に否定をいれ、
散原は話の矛先を
俺へと向けてきた。
あくまでも自分は
手を抜いていないと
言い張るつもりらしい。

「翔、言い訳すんなよ」

次に散原に攻撃を
仕掛けたのは、
俺でも左白でもなく、
副部長の織田だった。
今までの俺達の
やり取りを外から
見ていた織田は、
その内容を客観的に
裁判できる十分な
立ち位置だった。

「桝北の言う通り、
翔には手を抜く癖がある。
自分でも分かっとろ?
だから桝北に聞いた。
…違うか?」

織田は感情的にならず、
且つ容赦なく散原に
問いかける。
散原は分かっていたのだろう、
黙って俯いたまま
マスクの下で口を
もごもごさせている。
部長である左白はたまに
羽目を外し過ぎる。
それを理解した上で
時に助長し、時に抑止する。
そして甘えの雰囲気を
決して許さない。
それが副部長として
織田に与えられた使命だ。
まぁ、助長して
部長と副部長揃って
騒ぐ方が多いのは
揺るぎない事実であるが。

「はぁ~ぁ。分かりましたよ。
俺は今日手を抜いてました。
すみませんでした。
…これでいい?」

散原は諦めて
負けを認めたようだ。
嫌いな上司に敬語を
使えと言われ、
分かったと言いながらも
カタコトのように話し、
全く誠意のこもっていない
敬語で謝る。
散原の言葉は、
俺にそれを連想させた。

「分かればよろしい」

だが、スポーツにおいて
負けを認めるというのは
己を成長させる
十分な要素となる。
負けを認め、悔しいと
思うことが、人を強くする。
それを分かっているから
ここにいる誰も
散原を責めることはしない。

「おーっす。やってる?」

部室のドアを開けて
入ってきたのは
わが京興きんこう商の
生徒会副会長、山寺やまでら降助こうすけだ。
天然パーマのもじゃ毛は
髪型という概念を
全く感じさせず、
その頭を支えている
顔は肌色が良く、
ほどよい焼け具合い。
口の右下にあるホクロが
チャームポイントと
よく聞くが、俺は
よく分からない。
細身に175㌢㍍程の長身は
猫背でなで肩なため、
スポーツは苦手かと
思われるのだが、
中学時代はテニス部で
全国大会の経験がある。
しかも彼女持ちの現役リア充で
相手は同じ生徒会の
構成員らしい。
.......〇ね。

「おぉ、山にぃ。
生徒会の仕事は?」

真面目で、誰にでも
優しいお兄さんのような
存在だから『山にぃ』、
という呼び名で
親しまれている。
そんな山寺は
生徒会副会長として
毎日のように放課後は
何かしらの仕事を
しているようだが、
それでも部内ランキングは
最下位ではなく、
それは山寺の実力を
容易に想像させる。

「仕事はさっき終わった。
まだ皆おるかなー思って
顔出しに来た」

山寺は放課後、生徒会としての
仕事を終えた後は
すぐに帰らずにこうして
時間がある時は
部室に顔を出しに来る。
そしてこの行動が、今や
あまり部活に来れない
山寺を部の一員として
認めている理由でもある。

『今日は2人分の
ご飯よろしくね』

制服に着替え終わり、
スマホを確認すると
一通の着信があった。
それは母からのもので、
妹の分の夕食も
頼むとの内容だった。

「おっ、桝北お疲れ」

リュックと鞄、
ラケットを持ち椅子から
立ち上がると、
山寺が声をかけてきた。

「お疲れー」

それに左白も続き、
織田、散原と
口々に聞こえてきた。
我がバド部は、
練習の後はこうやって
お互いに声をかける。
理由までは知らないが、
お互いに悪い気はしない。
恐らくだが、この一言が
部内の雰囲気を
良く保っていると
俺は思っている。

「お疲れ」

俺は彼らにまとめて返し
今日の夕食の材料を
スーパーに買いに行くべく、
部室から出た。


━━━━━━━━━━━━━━━
あとがき


どうも、夢八です。
読んで頂き、感謝します。



徐々にキャラも増え、
小説ぽくなってきました。
続きもお楽しみに。


それでは、アディオス!

「冷寧である俺は戦争に行かないし、救護手当てもしない。~完結済み~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「学園」の人気作品

コメント

コメントを書く