オレの幼馴染が嫁候補!?
続、モテ期は賛否両論なんですが…
新京極から西へ一筋行くと、寺町通りに出る。
ここも昔ながらの老舗が立ち並ぶ反面、流行のファッションの店やサブカルの店など、新旧の文化が面白いように混ざり合った不思議な場所であり、それが人気のある理由の一つかもしれない。
そして、寺町通りを北から南へ下り、四条通り近くまで来ると西に伸びる細い路地が現れる。
『錦市場』
新京極通りのさらに半分ほどの道幅の中、所狭しと乾物や漬物、和菓子等々、京都の食文化や空気感を感じ取れる場所の一つだろう。
観光コースの一つとして、外国からの旅行者を見ない日は無い人気スポットである。
オレがまだ小さい頃、美咲が親父さんのお使いに行くというので、ここ錦市場に一緒に来た事があった。
あれは確か…
「悠ちゃん覚えてる?昔、ここに2人で来たん。」
「ああ…確か親父さんのお使いやったか…」
「そう…、そんで……あの…」
「???」
「な、何もない!」
「ええ〜!?」
美咲は顔を赤くして、スタスタと先を歩いていき、オレは置いてけぼりをくらってしまった。
道幅の狭い錦市場を人とすれ違いながら、美咲の後を追おうとするが、彼女の方が小さい分、スルスルと人と人の間を縫うように進んでいく。
「ま、待てってみさ……」
先に進む美咲に声を掛けようとした時、オレの脳裏に微かな記憶がよみがってきた。
オレが小学2年生の時、まだ1年生だった美咲と一緒にお使いでここ錦市場に来ていた。
夏帆さんが懇意にしている華道の先生宛に花を送る為、美咲の親父さんがオレと美咲にお使いを頼んできたのだ。
オレと美咲は錦市場の奥にある花屋に向かっていた。
「悠ちゃん……歩くの早いよ。」
「お前が遅いんやって。早う帰らんとゼッケンジャーが始まってまうやん。」
「でも〜…」
小さい頃から足の早かったオレは、その健脚でスタスタと先を歩いていく。
美咲は人にぶつからないようにしながら、フラフラとオレの後を追って来る。
「あ…!」
と、人混みが一瞬抜けた拍子につまずき転んでしまう美咲。
「大丈夫か、美咲?」
「うう…、ヒック…」
泣きべそをかく美咲はそのままうずくまってしまい、転んで痛む膝を押さえていた。
「ほら。」
「へ?」
オレは美咲に手を差し伸べた。
「悠ちゃん?」
「ほら、手繋いだらもう転ばんやろ?」
「うん!」
さっきまでベソをかいていた美咲の顔が、パァッと明るくなり、オレの手をしっかりと握って立ち上がった。
「おおきに、悠ちゃん。」
「オ、オレは正義の味方やしな!」
美咲の顔を見たオレは、恥ずかしさの余り顔を背けながら、テレビの戦隊ヒーローがよく使うフレーズの真似をした。
美咲の手を引きながら、先ほどよりもゆっくりと歩きながら、2人して花屋へ向かって行った。
そして、無事に花屋でお使いを済ませることが出来たオレと美咲は、ホクホクの笑顔で帰り道を歩いていた。
「なあ、悠ちゃん。」
「なんや?」
「悠ちゃんは、ショーライなりたいもんとかある?」
「ある!」
「何なん?」
「美咲の父ちゃん!」
「え?お、おとうはん?」
「美咲の父ちゃんみたいな、リッパな男になるんや!」
当時、俺は美咲の親父に憧れていた。
その無骨な手からいろんな形や装飾のある家具を生み出せることに、オレは大袈裟ながら手品のような錯覚さえ覚えていた。
「美咲はあんの?」
「え?」
「オレだけ言うのはフコウヘイやないか!」
「ウチはオヨメサンになりたい。」
「え?」
「おかあはんみたいな綺麗で優しいオヨメサンになりたい。」
「そしたら、オレらケッコンやな。」
「ケッコン……悠ちゃんウチとケッコンすんの?」
「オレが美咲の父ちゃんみたいなカッコいい男になって、美咲が美咲の母ちゃんみたいなオヨメサンになったら、オレらケッコンやな。」
「やったー、ウチと悠ちゃんケッコンやー!」
両手を上げて喜ぶ美咲は、家の方に走り出した。
「あ、おい!まってや美咲!」
オレは逃げる美咲の跡を追ったが、お使いの花を痛めないように、普段の10分の1の速度しか出せなかった。
微かに思い出される幼い頃の2人、そういえばあの時からオレ達は……
「………ちゃん…悠ちゃん、早く行こや?」
美咲がぼんやりとするオレに声を掛け、その声にオレは意識を戻す。
「ああ、行こか…」
錦市場を進んでいくと、あの時の花屋が見えてきた。
「あら〜、美咲ちゃんやないの。今日はどないしたん?」
店の中から細身で背の高い女の人がエプロンをして外に出てきた。
誰かに似ている気が……
「叔母さん、こんにちは。おかあはんのお使いで来ました。」
「夏帆の?」
「うん。おかあはんが懇意しているお花の先生に贈りたい言うてはるんです。」
「え!?叔母!?美咲の?」
オレは話の腰を折るように声が出ていた。
「おニイさん、誰なん?美咲ちゃんの彼氏さん?」
ジロジロと品定めするかのような視線が物凄く居心地が悪い。
「あ、叔母さん。こちら悠ちゃ…小鳥遊さんとこの息子さんです 悠ちゃん、こちらうちのおかあはんのお姉はんで、うちの叔母さんの雨宮志帆さん。」
慌てて双方の紹介をする美咲。
そうかこの人が誰に似ているのか、ようやくわかった。
「ええ!?小鳥遊さんとこの!?確か、ゆ、悠人くん言いはったかな?」
「はい…」
「なんや、そうならそうと言いなさい。私、てっきり美咲ちゃんに悪い虫でも付いたんかと思って焦ったわ。」
志帆と呼ばれる女の人ははカッカッカと笑い、先程とは違いやんわりとした、そう夏帆さんのような眼差しを向けてくれた。
「それにしても、あの悠人くんがこない立派な、しかもイケメンになったんやね〜。」
「は、はあ…どうも。」
「叔母さん…それで…」
「あんた覚えてはる?ちっこい時に一度ここに来たんやで。」
美咲にお構いなしに喋る志帆さん。
夏帆さんとは違い、話好きの叔母さんのようだ。
「そん時に美咲ちゃんたら…」
「お、叔母さん!注文!注文してもええ?」
「え!?あ、ああ、これは堪忍やで。」
ふふと笑みを浮かべながら、志帆さんは注文書を書き始める。
美咲は肩で息をしながら、花の注文を伝えている。
また1人だけ蚊帳の外に放り出されているような感覚を覚える。
まあ、小さい時の恥ずかしい思い出は、誰にだって一つや二つはあるものだ。
そうこうしていると、美咲の注文が終わったみたいだ。
すると、注文を受けた志帆さんは美咲に何やら耳元で囁いている。
それ聞いた美咲の顔がまた真っ赤になる。
「そしたらお願いします!」
ペコリとお辞儀をした美咲はオレの腕をぐいぐいと引っ張りながら、花屋を後にする。
遠ざかる店の方では、志帆さんがニコニコしながら手を振っていた。
錦市場を後にしたオレと美咲は、少し北へ上がったところにあるモダンチックなカフェで一休みすることにした。
「ごめんな、悠ちゃん。叔母さんいつもあんな感じやから…」
「別に気にしてへんからええよ。」
冷たいカフェ・オ・レを呑みながら、美咲は赤くなった顔を冷ましている。
オレは今のうちに水沢のことを話しておこうかと考え、飲みかけのアイスコーヒーをテーブルに置く。
「なあ美咲…」
「何?」
「いや、その……」
いざ話そうとすると物凄く言い辛くなる。
それに今、こんな話をしても良いのか?
オレの頭の中で、言う言わないの2人の悠人に挟まれた状態になった。
「悠ちゃん?」
「こ、これからどこ行こか!?」
声が若干裏返っているのが自分でもわかる。
脇に嫌な汗をかく…
「………」
美咲は訝しげこちらを見てくる。
「い、いやほら、美咲行きたいとこあるって言うてたやろ?」
「……水族館。」
「す、水族館?大阪か?神戸か?」
どちらにしても今から行くにしては、時間が足りない気がするが……いや待てよ。
そう言えば、京都市内にもあったような。
そう考えているうちに、オレの思考も徐々に平静を保ち始めいた。
ここも昔ながらの老舗が立ち並ぶ反面、流行のファッションの店やサブカルの店など、新旧の文化が面白いように混ざり合った不思議な場所であり、それが人気のある理由の一つかもしれない。
そして、寺町通りを北から南へ下り、四条通り近くまで来ると西に伸びる細い路地が現れる。
『錦市場』
新京極通りのさらに半分ほどの道幅の中、所狭しと乾物や漬物、和菓子等々、京都の食文化や空気感を感じ取れる場所の一つだろう。
観光コースの一つとして、外国からの旅行者を見ない日は無い人気スポットである。
オレがまだ小さい頃、美咲が親父さんのお使いに行くというので、ここ錦市場に一緒に来た事があった。
あれは確か…
「悠ちゃん覚えてる?昔、ここに2人で来たん。」
「ああ…確か親父さんのお使いやったか…」
「そう…、そんで……あの…」
「???」
「な、何もない!」
「ええ〜!?」
美咲は顔を赤くして、スタスタと先を歩いていき、オレは置いてけぼりをくらってしまった。
道幅の狭い錦市場を人とすれ違いながら、美咲の後を追おうとするが、彼女の方が小さい分、スルスルと人と人の間を縫うように進んでいく。
「ま、待てってみさ……」
先に進む美咲に声を掛けようとした時、オレの脳裏に微かな記憶がよみがってきた。
オレが小学2年生の時、まだ1年生だった美咲と一緒にお使いでここ錦市場に来ていた。
夏帆さんが懇意にしている華道の先生宛に花を送る為、美咲の親父さんがオレと美咲にお使いを頼んできたのだ。
オレと美咲は錦市場の奥にある花屋に向かっていた。
「悠ちゃん……歩くの早いよ。」
「お前が遅いんやって。早う帰らんとゼッケンジャーが始まってまうやん。」
「でも〜…」
小さい頃から足の早かったオレは、その健脚でスタスタと先を歩いていく。
美咲は人にぶつからないようにしながら、フラフラとオレの後を追って来る。
「あ…!」
と、人混みが一瞬抜けた拍子につまずき転んでしまう美咲。
「大丈夫か、美咲?」
「うう…、ヒック…」
泣きべそをかく美咲はそのままうずくまってしまい、転んで痛む膝を押さえていた。
「ほら。」
「へ?」
オレは美咲に手を差し伸べた。
「悠ちゃん?」
「ほら、手繋いだらもう転ばんやろ?」
「うん!」
さっきまでベソをかいていた美咲の顔が、パァッと明るくなり、オレの手をしっかりと握って立ち上がった。
「おおきに、悠ちゃん。」
「オ、オレは正義の味方やしな!」
美咲の顔を見たオレは、恥ずかしさの余り顔を背けながら、テレビの戦隊ヒーローがよく使うフレーズの真似をした。
美咲の手を引きながら、先ほどよりもゆっくりと歩きながら、2人して花屋へ向かって行った。
そして、無事に花屋でお使いを済ませることが出来たオレと美咲は、ホクホクの笑顔で帰り道を歩いていた。
「なあ、悠ちゃん。」
「なんや?」
「悠ちゃんは、ショーライなりたいもんとかある?」
「ある!」
「何なん?」
「美咲の父ちゃん!」
「え?お、おとうはん?」
「美咲の父ちゃんみたいな、リッパな男になるんや!」
当時、俺は美咲の親父に憧れていた。
その無骨な手からいろんな形や装飾のある家具を生み出せることに、オレは大袈裟ながら手品のような錯覚さえ覚えていた。
「美咲はあんの?」
「え?」
「オレだけ言うのはフコウヘイやないか!」
「ウチはオヨメサンになりたい。」
「え?」
「おかあはんみたいな綺麗で優しいオヨメサンになりたい。」
「そしたら、オレらケッコンやな。」
「ケッコン……悠ちゃんウチとケッコンすんの?」
「オレが美咲の父ちゃんみたいなカッコいい男になって、美咲が美咲の母ちゃんみたいなオヨメサンになったら、オレらケッコンやな。」
「やったー、ウチと悠ちゃんケッコンやー!」
両手を上げて喜ぶ美咲は、家の方に走り出した。
「あ、おい!まってや美咲!」
オレは逃げる美咲の跡を追ったが、お使いの花を痛めないように、普段の10分の1の速度しか出せなかった。
微かに思い出される幼い頃の2人、そういえばあの時からオレ達は……
「………ちゃん…悠ちゃん、早く行こや?」
美咲がぼんやりとするオレに声を掛け、その声にオレは意識を戻す。
「ああ、行こか…」
錦市場を進んでいくと、あの時の花屋が見えてきた。
「あら〜、美咲ちゃんやないの。今日はどないしたん?」
店の中から細身で背の高い女の人がエプロンをして外に出てきた。
誰かに似ている気が……
「叔母さん、こんにちは。おかあはんのお使いで来ました。」
「夏帆の?」
「うん。おかあはんが懇意しているお花の先生に贈りたい言うてはるんです。」
「え!?叔母!?美咲の?」
オレは話の腰を折るように声が出ていた。
「おニイさん、誰なん?美咲ちゃんの彼氏さん?」
ジロジロと品定めするかのような視線が物凄く居心地が悪い。
「あ、叔母さん。こちら悠ちゃ…小鳥遊さんとこの息子さんです 悠ちゃん、こちらうちのおかあはんのお姉はんで、うちの叔母さんの雨宮志帆さん。」
慌てて双方の紹介をする美咲。
そうかこの人が誰に似ているのか、ようやくわかった。
「ええ!?小鳥遊さんとこの!?確か、ゆ、悠人くん言いはったかな?」
「はい…」
「なんや、そうならそうと言いなさい。私、てっきり美咲ちゃんに悪い虫でも付いたんかと思って焦ったわ。」
志帆と呼ばれる女の人ははカッカッカと笑い、先程とは違いやんわりとした、そう夏帆さんのような眼差しを向けてくれた。
「それにしても、あの悠人くんがこない立派な、しかもイケメンになったんやね〜。」
「は、はあ…どうも。」
「叔母さん…それで…」
「あんた覚えてはる?ちっこい時に一度ここに来たんやで。」
美咲にお構いなしに喋る志帆さん。
夏帆さんとは違い、話好きの叔母さんのようだ。
「そん時に美咲ちゃんたら…」
「お、叔母さん!注文!注文してもええ?」
「え!?あ、ああ、これは堪忍やで。」
ふふと笑みを浮かべながら、志帆さんは注文書を書き始める。
美咲は肩で息をしながら、花の注文を伝えている。
また1人だけ蚊帳の外に放り出されているような感覚を覚える。
まあ、小さい時の恥ずかしい思い出は、誰にだって一つや二つはあるものだ。
そうこうしていると、美咲の注文が終わったみたいだ。
すると、注文を受けた志帆さんは美咲に何やら耳元で囁いている。
それ聞いた美咲の顔がまた真っ赤になる。
「そしたらお願いします!」
ペコリとお辞儀をした美咲はオレの腕をぐいぐいと引っ張りながら、花屋を後にする。
遠ざかる店の方では、志帆さんがニコニコしながら手を振っていた。
錦市場を後にしたオレと美咲は、少し北へ上がったところにあるモダンチックなカフェで一休みすることにした。
「ごめんな、悠ちゃん。叔母さんいつもあんな感じやから…」
「別に気にしてへんからええよ。」
冷たいカフェ・オ・レを呑みながら、美咲は赤くなった顔を冷ましている。
オレは今のうちに水沢のことを話しておこうかと考え、飲みかけのアイスコーヒーをテーブルに置く。
「なあ美咲…」
「何?」
「いや、その……」
いざ話そうとすると物凄く言い辛くなる。
それに今、こんな話をしても良いのか?
オレの頭の中で、言う言わないの2人の悠人に挟まれた状態になった。
「悠ちゃん?」
「こ、これからどこ行こか!?」
声が若干裏返っているのが自分でもわかる。
脇に嫌な汗をかく…
「………」
美咲は訝しげこちらを見てくる。
「い、いやほら、美咲行きたいとこあるって言うてたやろ?」
「……水族館。」
「す、水族館?大阪か?神戸か?」
どちらにしても今から行くにしては、時間が足りない気がするが……いや待てよ。
そう言えば、京都市内にもあったような。
そう考えているうちに、オレの思考も徐々に平静を保ち始めいた。
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