オレの幼馴染が嫁候補!?

古民家

大学では先輩ですが…

「美咲!?」
「悠ちゃん!?」

2人の声に、他の新入生や先輩達、そして水沢もこちらに視線を向ける。

進行が中断してしまい、次に動けずにいる水沢に梶先輩がポンポンと肩を叩く。

ハッとして水沢は、新入生達に席に着くように促した。

オレと美咲もお互いの立場を思い出し、それぞれの立ち位置に戻った。

何事もなかったように進む歓迎会。

3回生の新部長をはじめ先輩方の自己紹介が終わると、次に新入生の自己紹介の番が回ってきた。

他の新入生は高校から水彩画や油絵、彫刻など一般的に芸術と呼ばれ分野で美術部に入っていたため、大学でも続けたいとの意欲的な紹介を済ませた。

そして最後に美咲の番が回ってきた。

そう言えば小学校の頃、美咲がお袋の夏帆さんに刺繍を習っていたような気がする。

夏帆さんは機織りの家の出身だったため、帯や着物、敷いてはシャツやボトム系の衣類にも綺麗な和柄の刺繍をあしらえるほど腕前だ。

そんな匠人なお袋さんに習って、初めて作った刺繍をオレにくれたことがあった。

犬なのか猫なのかわからない歪な動物の絵柄に、子供自分のオレはいらないなんて言って、美咲を泣かせてしまい、親父とお袋の両方からしばかれ、美咲以上に泣いた記憶が蘇ってきた。

それからは美咲自身の持ち物や親父さんの道具袋なんかに刺繍をするようになり、ドンドン腕前を上げていった。

そして、オレが中学に上がる時、お祝いにとオレと自分と色違いの桜の刺繍の入った、とても小学生が作ったものとは呼べないくらいのハンカチを送ってくれた。

あれ?そういえば、あの時のハンカチはどうしたんだっけな?

記憶を思い出そうとした時、美咲の自己紹介が始まった。

「あ、あの葛籠屋 美咲と言います。あ、あの…美術部は初めてです。そ、それで、あ、あの…その…」

次の言葉が中々出てこない美咲は、オレに助けを求めるように視線を送ってくる。

そんな目で見ても無理だって、オレは殆ど部外者なんだから。

「つ、葛籠屋…さん?絵を描いてたことがあるとかかな?それとも彫刻とかな?」

水沢が質問形式にして話しやすいように働きかけている。

「い、いえ。私、絵とか彫刻は初めてで……」

「じゃあ、どんなことをここでやってみたい?」

「あ、あの…し、刺繍を…していたので…わ、私その…」

「し、刺繍?刺繍って、ハンカチなんかに入れるあれよね?」

「は、はい。」

クスクスと新入生から中傷の笑いが聞こえてくる。

まあ、知らない人間からしたら刺繍と聞いたら、あんまりイメージはわかないわな。

その中傷の笑みの中、美咲はそれ以上答えることが難しくなり、下を向きはじめていた。

「うちの大学、手芸部とかもあるけど…」

挙句には男性の先輩の1人からは心無い言葉までも出て、それを切っ掛けに中傷の笑いは大きくなってしまい、美咲にはとどめに近いものだった。

「なあ、先輩…刺繍にもたくさんあるですよ。」

オレはいつの間にか立ち上がり、心無い言葉を発した先輩に対して意見を告げていた。

「ち、ちょっと小鳥遊くん!?」

水沢が静止に入ろうとする。

「なんだお前。部外者のくせに、芸術の何を知ってるんだ?」

オレと先輩との一触即発な状態に、新入生も他の部員も緊張感が広がり、中傷の笑いも止んでいた。 

「先輩、オレは素人ですから、ダ・ヴィンチのひまわり畑の深さや良さなんてわかりません。だけど、単純にその作品の技術や綺麗さ、それに注がれる熱意とかわかるつもりです。」

「なんだって!?」

「不破くん、歓迎会なんだからもうよしたら?」

梶先輩が不破と呼ばれる先輩をなだめようとしているが、プライドを刺激されたのか
矛を納めようとはしない。

「小鳥遊とか言ったか?偉そうに言ってるけど、じゃあお前が凄いとか思ってる作品とかあるのか見せてみろよ。」

不破先輩は挑発をしてくる。

別に美咲に同情したわけじゃ無いと思う。
ただ、美咲の努力や熱意を知っているからこそ、それを軽く見られる事に我慢が出来なかった。

「美咲…」
「は、はい!」

急に名前を呼ばれた美咲はビクッとなる。

「お前、オレが中学に上がった時のハンカチ…まだ持ってるか?」

「う、うん。」

「出しぃ。」

「え!?」

「早よ出しぃて!」

「は、はい!」

オレからの強い要求に、美咲はカバンから恐る恐る白いハンカチを取り出す。

美咲からハンカチを受け取ると、それを一度広げて確認する。

それを見てオレは、自分の記憶違いでは無いことを確信すると、それをテーブルの上に広げた。

「そのハンカチがなんなん……!?」

広げた美咲のハンカチを見て、先輩はオレの大凡予想した反応を見せた。

「何々?」

「何があるの?」

新入生も、他の先輩もテーブルに集まってくる。
そして、そのハンカチを見たみんなが驚きの視線を向ける。

広げた白地のハンカチには舞う桜の花弁と力強く立つ幹の絵柄が入っている。しかし、驚くべきはその繊細さと緻密さだ。

編み込まれた糸は一定の間隔と強度で同じ方向に編まれ、それだけでも高い技能の証明となり、そして特筆すべきは、より立体的に見せるために細かく糸を変え、着物や帯に使われる技法が見て取れる事だ。

「凄い…これ葛籠屋さんが?」

「はい……」

梶先輩もその技術に感心していた。

「た、確かに中学生にしてはかなりの技能ね。」

「これは美咲が小学6年の時のです。」

「え?小学生!?」

不破先輩も他の中傷をしていた人も、ただただ驚きの声を上げるだけになっていた。

「すごい……まるで京都の西陣織みたい…」

水沢の一言にみんながハッとする。

京都の西陣発祥の伝統工芸として有名な織物であり、着物や帯をはじめ、様々なものにその技能が使われている。

「葛籠屋さんのお家って、織物屋さんですか?」

「い、いえ。家具屋です。母は、和服や帯の家出身ですが、機織りをしていたわけでは無いです。」

その使い古されたハンカチを見ても、美咲を中傷する様な事を言う阿呆はいないようだ。

「だ、だけど刺繍の一種だろ、現代美術に置いては、評価されるかどうか…」

いや、阿呆がいた。

「不破くん…京都の西陣織は確かに昔に比べれば、衰退しているし、継手の育成もまだまだ少ない。けれど、これに使われている紋様や技法は今では世界的評価は上がりつつあるの。それを刺繍の一種なんて言うと、芸術に対して浅い言動ととられてしまうわよ。」

梶先輩が不破を諭すようにいうと、それ以上不破は何も言わなくなった。

だが遅い!最早、オレの中で次の行動は決まっていた。

「すまん水沢…オレこれ以上は手伝えんわ。」

「え!?あ、ちょっと小鳥遊くん、どこ行くん!?」

水沢の静止も聞かずに、オレは歓迎会会場を出てきた。

美咲のこと、水沢のこと、梶先輩のこと、いろいろな事を投げ出して出て来たオレは、足早に部室棟を出て、校庭の真ん中にある休憩スペースにやって来た。

そこにあるベンチに座ると、オレは深くため息をつく。

「はあ…何やってんのやろ…」

土曜日の昼間は流石に部活をしている人以外、学生の姿は少ない。
普段よりも静かな校内は、やけに寂しく感じる。

「悠ちゃん…」

美咲の呼ぶ声がして、ハッと後ろを見て彼女の姿を確認するが、直ぐにまた前を向いて肩を落とす。

「お前、歓迎会は?」

「え?あ、ああ…出てきてしもた。」

そう言って笑う美咲を見て心が痛む。

「すまん美咲。」

「なんで悠ちゃんが謝るん?」

「歓迎会、ぶち壊してもうたし、お前にも嫌な想いさせたしな。謝っとかんと…」

後ろから足音が近づき、オレの横に美咲がストンと座る。

「ううん。ウチこそ、先にお礼を言わんとあかんのに……」 

「美咲…」

「悠ちゃん、おおきに。」

ニッコリと微笑む美咲の笑顔に少し安堵し、沈んだ気持ちが軽くなる気がした。

「でも…」

「?」

「ひまわり畑はダ・ヴィンチさんやのうて、ゴッホさんやで。」

「え!?そうなん?」

「え!?知らんかったん?ウチ、悠ちゃんがただ単に間違えただけやと思てた。」

「まあ、オレの芸術への想いなんて、そんなもんや。不破先輩のオレへ言うてることも、そう間違いやな…」
「そないな事ない!!」

美咲の大きな声に、オレはびっくりして美咲の方を見る。

美咲は涙目になりながら、オレを睨むように見ていた。

「な、なんやねん急に…」

「ウチ、悠ちゃんが歓迎会でしてくれた事、めっちゃ嬉しかったんよ。美術部に悠ちゃんがいた事はびっくりやけど、周りの人から笑われて、凄く恥ずかしくなってしもうた時、悠ちゃんが言うてくれたことでウチのして来た事は正しい事なんや、恥ずかしがる事やないって思てん。だから、悠ちゃんのした事は正しいことなんやで。」

普段オドオドして、あまり自分の意見を言わない美咲のイメージだが、こいつはここぞと言うときは、頑として譲らない気がある。

「美咲…おおきにな。少し、気持ちが軽うなったわ。」

「ううん。ウチこそ、ホンマおおきに。」

「あ、そうや美咲。携帯出してみ。」

「え?う、うん。どうするん?」

オレは美咲から真新しい携帯を取ると、ピコピコと番号を入力し、それが終わると美咲に携帯を返した。

「何したん?…あ…」

美咲の携帯電話の連絡先欄に、新しく追加されたのは、オレのスマホの電話番号とメールアドレスだった。

それを見た美咲は、すごく嬉しそうに携帯をながめていた。

「これでいつでも連絡取れるし、なんかあったらかけて来いや。」

「悠ちゃん、おおきに。」

「そやけど、前に番号教えてんのに、なんで掛けてこんのや?」

「え?だ、だって特に用事も無いのに掛けるんは失礼かなって…」

なるほど、希有な存在に益々磨きが掛かっているようだ。

古めかしいヤツだけど、そんなところも含めて美咲らしいとオレは思った。

「あ、それとな。大学では悠ちゃんとか言いなや。一応、先輩後輩なんやし。」

「え?あかんの?」

「オレが恥ずかしいんや。」

「そうなん…」

「そんなに露骨に落ち込むなや美咲。」

「そやけど、ウチ今までずっと悠ちゃんのこと、悠ちゃんって呼んでたし今更…」

本当に折れないやつだ。

「ああもう、わかった。ほな2人きりの時は好きに呼べや。」

「ふ、2人きりて!?悠ちゃんのスケベ!!」

「は?誰がスケベやねん!?誤解すなや!」

「そ、そやかて2人きりなんて、悠ちゃんが言うから…」

「お前の頭が極端なんやて。」

「…………」
「…………」

「腹減ったし、マクドでも行こか…」
「うん。」

お互いにニコリと笑うと、2人して駅前のファストフードへ向かうことにした。

店でオーダーを通して席に着く。

オレは限定セットにハンバーガーを付け、美咲はハンバーガーと飲み物だけだ。

「悠ちゃん、昔からようさん食べよるねぇ。」

「先輩って言えや。」

「マクドでは2人やし、ええんちゃうの?

この押し問答もしばらくは続くんだろうなと思いながら、ハンバーガーにかぶり付く。

何かを忘れてる気もしていたが、とりあえず空腹を満たすのが先決と思い、オレは思い出す事をやめた。

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