オレの幼馴染が嫁候補!?

古民家

新入生が許嫁なんですが…

大学生活に終止符を打つべく、意気込んで実家に帰ったのだが、まさか幼馴染の美咲と許嫁の仲になってしまった。

そして、その後はものすごい速さで話が進み、美咲のお袋さんの夏帆さんも縁談が決まったことに諸手で喜んでいたそうだ。

そうこうしているうちに、大学生活2年目の春がやってきた。

オレはというと、悩んでいたことが何だかバカらしくなり、とりあえず週2日ほどのペースで大学に顔を出すようになった。

久しぶりに会う学科の奴らは、最初は珍獣を見るような目でオレを見ていたが、少し経つと普通に接するようになった。

そんなある日、講義が終わるとすぐに同じ学科の高部が話しかけてきた。

「なあなあ、小鳥遊。」

「なんや?金は無いしな。」

「お前の懐事情はみんな知っとるわ!それよりもやな〜、もう直ぐ春休みやで。」

「だから?」

「もう、わかっとるやろ?春休みが過ぎたら新学期、そしてオレらには後輩が出来る!」

「だから何なん?」

「大事なことやろ!可愛い新入生が『先輩!』なんて言うてきた時には、もう堪らんわ!」

「高部、お前頭湧いてんちゃうか?」

「ぐはっ!しばらく大学にも来んかった奴に、しかも留年濃厚な奴に湧いてる扱いされた…」

ぐはっ!今のオレに、その言葉はかなりキツイ…

「高部くんは後輩に幻想を持ち過ぎなんちゃう?」

話の横からこれまた同じ学科の奴で、水沢が話に入ってきた。

「水沢には関係ないやろ。これはオレと小鳥遊との大事な話なんや。」

いつからオレにとって大事な話になったんだよ。

「小鳥遊くんも後輩に幻想抱くタイプなん?」

「ち、ちゃうわ!コイツと一緒にすなや!」

「あはは!ゴメンゴメン。でも私らも、もう先輩って呼ばれる時期なんやね。」

水沢 燈みずさわ あかり
同じ学科の女子で、誰とでも気兼ねなく話せることが、男子だけでなく他の女子からも人気があるやつだ。

噂では、他の学科でも人気らしいが定かではない。

「そうそう、小鳥遊くんに話あってん。」

「なんや。金は無いで。」

「あはは、そんなんみんな知ってるて。」

オレの懐事情を把握してそれを広めているのは誰だ!?

目に見えないやつに怒りが湧く。

「そうやなくて、小鳥遊くん部活とかしてないやろ?良かったら、美術部に入らん?」

「は?なんで美術部なん?」

「だって小鳥遊くん、手先器用やん?この前、壊わした戸を直してたし。」

「あれは壊したんやのうて、壊れたん!それに、お前も同罪やろ水沢!」

水沢が言っているのは、先週の昼間に教授の指示で、講義で使った機器を備品室に入れる際に、いきなりドアが開き機材と扉が当たってしまい、その弾みで扉が外れてしまったことがあった。

そして、その時備品室から出て来たのが水沢である。

「まあまあ、細かいことは気にせんで。
それよりどう?美術部。」

「おれ、別に絵には興味ないんやけどな。」

「別に絵だけが美術やないよ。彫刻や立体物かて美術の一つやし。小鳥遊くんやったら、向いてると思うけど。」

「……考えとくわ。」

「あ、それって京都やと、お断りって意味やろ?聞いたことある。」

「うっさいわ!ほんまに断るで!?」

「ゴメンゴメン。でも、気になったら来てな。部室棟の2階の一番奥やし、わかると思う。」

そう言って水沢は手を振りながら、教室を出て行った。

「小鳥遊〜、お前、阿呆やろ。」

「なんで?」

「いや、分からんならええわ。ほな、オレも帰るわ。」

意味深な事を言いつつ、高部も教室から出て行き、1人教室に残されてしまったオレは、自分の鞄を背負うとアパートへ帰る事にした。

春休み

多くの学友は、実家に帰ったり、友達同士、または恋人同士で遊びに行くヤツが多い中、オレはその間アルバイトに精を出していた。

あの美咲との一件以来、実家に戻るのが億劫になり、アルバイトを理由に帰らずにいた。

(許嫁って言っても実感が湧かないし、何より出会わないでいる事で、話もなくなるだろう。)

そんな甘い考えの中、春休みも終わり新学期が始まろうとしていた。

いつもより騒がしい校内。

入学式が終わり、新入生が部活動の勧誘をいろいろなところで受けている。

毎年恒例であり、オレも一年前には同じ立場だったが、部活には所属せず、2ヶ月もすると学校に寄り付かなくなっていた。

「あ、いたいた。なあなあ小鳥遊くん。」

振り返ると漫画に出てくる画家のような格好をした水沢がいた。

「なんや水沢、その格好。コスプレ…」
「コスプレちゃうわ!」

言い終わるよりも早く、関西人らしい鋭いツッコミが入る。

「そんで何の用や。オレ、ゆっくりしたいんやけど…」

「そうなん?でも、暇なんやったら手伝ってや。」

「いや、オレ今ゆっくりしたい言うたやん。」

「まあまあ、ビラ配るだけやし。終わったらジュース奢ったげるし。」

グイグイと腕を引っ張られ、強引にビラ配りを手伝うことになってしまった。

水沢は、先輩たちと一緒に美術部の勧誘ビラを配りながら、部活の説明を新入生にしている。

オレは取り敢えず、通りかかる子たちに無言でビラを配っていた。

「悠ちゃん?」

「へ?」

ビラを配っている時に、横から名前を呼ばれそっちを向く。

そこには、少し髪が伸びたのか肩くらいの黒髪に、あの時と同じ縁なしメガネの女の子がこっちを見ていた。

「み、美咲!?」

ビラをバサリと落とし、変な声をあげてしまった。

「な、なんで美咲がおんねん?」

「な、なんでって。ウ、ウチここの大学に受かったから…」

「どしたの〜、小鳥遊くん?」

水沢が何事かと様子を見に来た。

「すまんけど水沢、あと頼む。」

「え?ち、ちょっと?」

水沢に後を任せたオレは、美咲の腕を取り、校舎の裏の方に連れてくる。
誰もいない事を確認すると、大きくため息をついた。

「あ、あの…」

「いろいろ聞きたいけど、取り敢えず説明せえ美咲。」

「お、怒らんといてな……実は…」

美咲の話はこうだった。

オレとの許嫁の話が出る前に、オレが通う大学を受験していたらしい。
そして、無事に合格したことをお袋さんに報告したその日に、親父さんの遺言の話をされたらしい。

そして、お互いの家に美咲の大学合格の話が伝わると、母親同士で話に花が咲いたらしい。

「でもまさか美咲が、悠人くんと同じ大学受けてるなんて思いませんでしたえ。」

「ウチもやわ。まさか、美咲ちゃんがこない一途やなんて、悠人にはもったいないですわ。」

母親同士のお気楽な会話が聞こえて来そうになる。

「なんでそんな大事なこと教えてくれんのやろ、うちの親は……」

「悠ちゃんが…春休みに帰って来た時に伝えると言ってはったから、私てっきり知ってると思てん。」

「美咲も自分の口から言えやな。電話でも良えし。」

「ウ、ウチ、悠ちゃんの電話番号知らんし…」

ああそういえば教えた事無かったな…

恥ずかしそうにする美咲に、オレは軽くため息をつくと右手を差し出す。

「何この手?オテ?」

「ちゃうわ阿呆。スマホや、スマホ!」

「え?ウチ、スマホ持ってないよ?」

「はあ?なんやて?ならどうやって連絡すんねん?」

「だって、まだ住むとこも決まって無いし、スマホとか持ったことないし…」

ああそう言えば、美咲は昔から流行モンとかに疎いところがあったのを思い出した。

今時、スマホを持っていないなんて、なんと稀有な存在だろう。

「ん?ちょい待ちや、住むとこもまだ決まってない?」

「うん。これから部屋を見に行く所やったから。」

「月曜から大学やで?」

「うん。」

「今日入れてあと4日やで?」

「う、うん。」

箱入り娘か!?いや、箱入り娘だ。
自分の中でツッコミつつ、またため息をつく。

「悠ちゃん、なんか怒ってる?」

「怒っとらんけど、呆れとる。」

「ご、ごめんなさい。」

「まあいいわ。ほな今から行くで。」

「え?」

「え?って、今からお前の部屋探しandスマホ探しや。」

こうしてオレは美咲と一緒に不動産を周り、ついでに携帯ショップにも寄ることになった。

この時期に空き部屋があるのか心配したが、オレのアパートの近くに女性専用のアパートがあり、そこにまだ空きがあると言うことだったので見学を済ませ、スルスルと住む場所が決まった。

そして、携帯ショップでは、美咲はスマホではなく二つ折りの携帯電話を選んだ。

「なあ、なんでスマホにせんかったん?いろいろ便利やで。」

「うん。でも、ウチには難しいし、連絡が取れるんならこれで良いと思ってん。」

買ったばかりの携帯を嬉しそうに見る美咲を見て、少し可愛いと思う自分がいるのを心の内に感じた。

「……はい。」

昼間と同じように、オレは右手を美咲に差し出す。

しばらくすると、右手に軽く温かみを感じ、直ぐに自分の右手を見る。
すると、夕日のように真っ赤になった美咲が、恥ずかしげに左手を乗せていた。

「え!?」

「え?ち、ちがう?」

「あ、いや……まあ、いいわ。」

そのまま美咲の手を軽く握る。

少し震えているその小さな手をオレは引いて歩き出した。

「え?悠ちゃん!?」

「もう遅いし、駅まで送ったるわ。」

「う、うん。おおきに…」

なんだろう、ついこの間まで妹の様に見えていた美咲が、可愛く感じられる。

顔に出さないようにしながらも、駅までの道中、オレは内心ドキドキしていた。

「送ってくれておおきに、悠ちゃん。来週から、よろしゅうに。」

「ああ、それとこれな。」

オレは紙切れを美咲に渡した。

「何なんこれ?」

紙には11桁の番号と、オレのアパートの住所が書かれていた。

「……おおきに。」

嬉しそうに笑い、礼を言う美咲の顔を正面から見て、オレの胸はさらにドキドキとした。

「ほ、ほな気ぃ付けて帰りや。あと、夏帆さんにもよろしく。」

「うん。悠ちゃん、またな〜。」

改札口をくぐり、ホームに向かう美咲を見送るとオレは自分のアパートに帰って行った。

足取りが妙に軽いのは、喜んでいるからなのか……

こうして、幼馴染の美咲が同じ大学に通う事になり、オレは大学生活に対して見直す事を考え始めた。

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